第86話 姉妹の過去
モモと俺との関係。
最初は無関係だと思ってたけど、モモはあの獅子の穴の元筆頭総長だったとの事。
獅子の穴を脱走した俺とは、ちょっとだけ関係があるみたいだ。
「え、獅子の穴を脱走した?あなた後見人付きで、千尋峡谷を抜けたんじゃないの?」
前回の俺の脱走発言に、ルル姉が反応する。
「えと、獅子の穴がどんな所か興味あって行ってみたんだけど、なんか拍子抜けだったんで、抜けました。」
「封じの首輪をつけられたでしょ?」
「あれなら、転移魔法で外せます。」
「はあ。」
俺とのやり取りに、ルル姉はため息をつく。そしてナナさんに視線を移す。
「ナナさんは知ってたのかしら。サム君が獅子の穴を脱走した事を。」
ナナさんはコクんとうなずく。
「その事は、私に報告しないとダメでしょ!」
ルル姉は急に声をあらげる。俺もナナさんも、ビクっとしてしまう。
「ナナさんのさっきの態度。モモは勘づいたわよ、サム君の事。はあ、私が知ってれば、フォローも出来たのに。」
「何でよ。何でルル姉に言わなくっちゃいけないのよ!」
ナナさんも涙声で言い返す。
「それがナナさんのためだからでしょ。」
ルル姉はため息混じりに吐き捨てる。
「何よそれ。ルル姉はいつもそう。私を縛りつけて、何が楽しいのよ。ルル姉なんか、大っ嫌い!」
ナナさんはそう叫ぶと、部屋から出て行ってしまった。
「はあ、また怒らせちゃったわ。」
ルル姉は落ちこむ。
「ルルさん、ちょっと過保護すぎませんか?」
事前にナナさんのいい分を聞いてる俺は、ついナナさんの肩を持ってしまう。
「過保護にもなるわよ。ナナさん、ドラゴンにしては優しすぎるのよ。心配になるじゃない。」
ルル姉のそのいい分には、納得するものがある。だけど気になる事もある。
「ルルさんも、ドラゴンにしては優しいですよね。普通は放っておくと思いますよ。」
ドラゴンとして真っ当な俺の返しに、ルル姉は首をふる。
「私はね、ナナさんに恩があるのよ。だから心配したくもなるのよ。」
「恩、ですか?」
「ええ、あれは私たちが生まれてすぐの頃ね、」
ルル姉の昔語りが始まった。
私は生まれて直ぐの時、人間に変化出来なかったのよ。
普通は両親が変化するのを真似て覚えるんだけど、私はその時よそ見をしていたの。
変化出来なかった私は、千尋峡谷に堕とされたわ。
でね、私の後を追ってナナさんも堕ちてきたのよ。
私はナナさんを見て直ぐに、人間に変化出来るようになったわ。
そしたら千尋峡谷の脱出方法なんて、直ぐに分かったわ。
でもナナさんときたら、千尋峡谷を出る気なかったのね。
あろう事か、そこで自治を始めたのよ。
弱い個体にも、餌が行き渡るように、って。
話しもろくに通じないドラゴン相手に、何考えてんだか、でしょ。
私は仕方なく、そいつらにチカラで分からせてやったわ。ナナさんに内緒でね。
でもナナさんにはバレちゃってね。ナナさんに泣かれたわ。
その時にちょっと喧嘩になっちゃってね、そしたらドラゴンどもが、一緒にナナさんをシメないかって言ってくるのよ。
私は頭にきたわね。でもその時は曖昧な答えをしといたの。
それでそいつらがナナさんを襲った時、ナナさんの目の前で殺してやったわ。
ふふ、そう言えばあの時、私も多勢に無勢で取り囲まれたんだけど、ナナさんも仕方なく、私と一緒に戦ってくれたわね。
ナナさんもターズンドラゴン。ノーマルなドラゴンどもが束になっても、かないっこないのよね。
「その後千尋峡谷でおかしな事してるターズンドラゴンが居るって噂になって、私たちはある人に拾われて獅子の穴の教官になったんだけど、それは別の話しね。」
ルル姉の昔語りが終わる。
「え、獅子の穴で教官してたんですか?」
「ふふ、あんな所、女が居ていい場所じゃないわね。私たちを襲う計画をたててやがったのよ。ナナさんは訓練生どもを信じてたけどね。」
「その時、モモは居なかったんですね。」
「ええ、モモは私たちとは入れ替わりで、獅子の穴を卒業してたわ。」
ルル姉の話しから、ナナさんを守ってあげたいという意思を感じる。
ナナさんの事を優しすぎると言うけど、ルル姉もまた、優しすぎる。
「ルルさんも、きちんと話したらどうです?」
このままだとふたりの関係はギクシャクして、そのまま仲たがいする未来しか見えない。
ルル姉は首をふる。
「私もね、一度話したのよ。ナナさんには恩があるからって。そしたら、そんな昔の事を持ち出すなって言われちゃって、もう何も言えなくなったわ。」
「それで、不言実行。嫌がられるほど過保護になったんですね。」
「じゃあ、どうしろって言うのよ!私はナナさんが心配なのよ!」
ルル姉の瞳に涙がにじむ。
ルル姉が見せる新たな一面に、少し戸惑う。
だけど俺は、ナナさんのいい分を先に聞いてる。ナナさんの代弁者にはなれると思う。
「ナナさんも優しくはあっても、弱くはないですよ。」
「な、何言ってるのよ。」
ルル姉には、俺の言う事が信じられない様子だ。
「現に俺も、解体中のナナさんに解体されかけましたからね。今のルルさんを見たら、ナナさんは襲ってくると思いますよ。」
あの時のナナさんは両手を部分竜化して、解体作業中だった。
そのナナさんに対して俺は、勝てないと思った。
「よくよく話しあって、これからは少し距離をとったらどうです?」
俺の言うナナさん像が信じられない様子のルル姉に、ひと言アドバイスしてみた。
「ふふ、ナナさんもドラゴンなのね。なら今夜は距離を置くって事で、ここに泊まろうかしら。」
ルル姉は何かを悟った様子で、そう告げる。
ドアの外で、ガタっと音がし




