第78話 冷酷な拒絶
警備隊本部から解放された、俺とルル姉。
結局俺の動物変化疑惑ははれなかったが、追及する決め手もなかった。
幻想旅団については、あのアジト以外にも潜伏先はありそうで、壊滅された訳でもないとの事。
新しい事実が分かったら、また討伐依頼がくるかもしれない。
警備隊本部の外に出た時、すでに日が暮れていた。
俺が千尋峡谷を出て冒険者登録をし、リバルド学園で編入試験を受け、幻想旅団を討伐して、この警備隊本部に呼び出された長い1日が、今終わりを告げる。
「すっかり日も暮れちゃったわね。」
ルル姉が夜空を見上げる。
そこには満天の星空が広がっている。
千尋峡谷では、見られなかった光景だ。
深い谷底では、うっすらと日の光を感じる程度で、空の存在を確認する事はできなかった。
そして俺の知る星座がひとつもない事が、ここは異世界なんだと知らしめる。
「ふふ、これからどうするつもり?」
星空に見とれる俺に、ルル姉が微笑みかける。
「え、と、その、」
今度はルル姉の笑顔に見とれ、言葉につまる。
「日も暮れちゃったし、宿くらい紹介するわよ。」
「え、いや、そこら辺で野宿でもすれば、」
ルル姉の提案に、少しとまどう。
基本ドラゴンである俺は、普通に森の中で過ごせばいいこと。
つか、俺は千尋峡谷の果てにある、ホームと言う施設を利用させてもらうつもりだ。
「夜の森は危険よ。私たちドラゴンだって街で暮らしてるのは、危険から逃れるため。あ、ホームの利用は出来ないよ。」
「え、なぜです。」
流石はルル姉。俺の考える事など、お見通しだ。
「あそこは存在する次元が、少し違うのよ。今の時間帯はつながってないから、おそらく転移魔法でも行けないと思うわ。」
「え、次元が?」
そう言えば、ナナさんもそんな事言ってたな。
試しに、転移魔法を使ってみる。
だけど、なぜかイメージがしっくりこない。
俺が認識しているその場所から、存在そのものが無くなってる感じだ。
つまり転移魔法は使えない。
「どうなってるんすか?」
転移魔法が出来なくて、ルル姉に聞いてみる。
「だから次元が異なってるのよ。あそこの出口とつながるのは、三箇所あって、時間帯でそのどこかと繋がるのよ。」
「つまり、その三箇所の出口とやらを全部見つけなければ、俺の転移魔法では行けないって事か。」
なんかややこしい所だな。
「ふふ、あのギルドと繋がってる時なら、行けるはずよ。」
俺の呟きに応じるように、ルル姉も何かを呟くが、俺には聞きとれなかった。
「あ、とりあえずリバルド学園に行ってみようかな。」
一応入学金も確保したし、とっとと納めて、学園編に突入させなくては。
新たな人気キャラも登場して、この作品も大いに盛り上がるかもしれない。
「あら、こんな時間に行くの?」
俺の発言に、ルル姉は冷静な突っ込みをいれる。
辺りはすでに、暗くなっている。
まあ、授業受ける訳でもないし、入学金納めるくらいだしな。
それに、なんか気になる。
あの学園に、何かある気がする。
つか、何かを忘れてる気もする。
「ええ、ちょっと気になる事がありますから。」
とりあえず、様子だけでも見てくるか。
「そう、じゃあここでお別れね。」
リバルド学園とギルドでは、方向が違う。
「そうですね。今日は色々と、ありがとうございました。」
ルル姉と別れるのは名残惜しいが、仕方ない。
「ふふ、またね、サム君。」
ルル姉が手を振って歩きだす。
「はい、ナナさんにもよろしく伝えてください。」
俺も手を振り返す。
さて、リバルド学園に向かう訳だが、このまま歩いて向かうべきか、転移魔法でとっとと行くべきか。
転移魔法は誰かに見られたくないから、あまり使いたくない。
そう、俺は今、誰かの視線を受けている。
「待ちな。」
ルル姉の姿が見えなくなるのを見計らって、その誰かが現れる。
十人くらいの集団だった。
ギルドで見た気がするヤツらだが、はっきりとは覚えていない。
「なんだよ、急いでんだよ、俺は。」
俺を邪魔する人数が、予想より多くて、俺は少しビビる。
二人くらいかと思ってたら、十人もいやがった。
「おまえ、ルルさんとふたりっきりになれたからって、いい気になるなよ!」
「はあ?」
「ルルさんの天使の微笑みを独占できたからって、調子こいてんじゃねぞ!」
「え、天使の微笑み、」
ナナさんの鋼鉄の微笑に対して、ルル姉は天使の微笑みか。
誰だよ、そんな安易な名称をつけたヤツは。
笑顔なんて、その時の気分が反映されるから、その都度微妙に違うだろ。
「そうだよ。俺たちのルルさんを独占しやがって!ぜってー許さねー!」
つまりこいつらは、ルル姉のファンって訳か。
ルル姉にもナナさん同様、一定数のファンはいる訳だ。
俺もどっちかと言ったら、ルル姉の方が好みだし。
「じゃあ、あんたらも、ルルさんに話しかければいいでしょ。」
俺に嫉妬してる暇があれば、それくらいしてほしい。
「はあ?ルルさんの冷酷な拒絶を前に、出来る訳ねーだろ!」
「あ、冷酷な拒絶、」
またまた安易なネーミングだな。
要はナナさんも言ってた、近寄るなオーラの事だろうが、そんな言葉遊びしてる暇あったら、普通に話しかけろって。
「冷酷な拒絶って、ルルさん、仕事の依頼も拒絶するんですか?」
「はあ?依頼は関係ねーだろ。俺たちは普通にルルさんと話したいだけだ!」
うーん、何言ってんだこいつら。
そもそもギルドの受付嬢と話すなら、お仕事の話しだろ。
「はあ、あのですね、俺がルルさんとふたりっきりになれたのは、依頼がらみですよね。」
「なんだと、この野郎!」
「調子こいてんじゃねーぞ、こらー!」
俺が事実を言ったら、なぜか激昂しやがった。
「あ、ちょっと待って。こいつの言ってるのも、もっともなんじゃないかな。」
まともなヤツも、ひとりはいるらしい。
「はあ?どこがもっともだよ!」
「だってほら、依頼の話しなら、普通に話せるじゃん。」
「おいおい、依頼なんてやってる暇あったら、ルルさんと話したいだろ。」
「それが出来ないから、仕方なくナナさんと話してんだろ。」
「でも、ルルさんの冷酷な拒絶で話せないけどさ、多分、依頼受けて、依頼終了させて、この二回は間違いなく話せるだろ。」
「むう、確かに。依頼の話しなら、確実に話せる訳か。」
「くう、依頼なんかこなしてる間に、ルルさんと話したいのにな。」
「だけど、依頼の話しで冷酷な拒絶を弱めていけば、普通に話せるようになるかもしれんな。」
「おまえ、天才だな。そうとなったら、ルルさんから依頼を受けるぞ!」
「ああ、誰がルルさんと恋仲になっても、恨みっこなしだぜ。」
「何言ってやがる。ルルさんのハートを射止めるのは、この俺だぜ!」
「おまえこそ、何言ってんだよ。」
俺を取り囲んでた連中は、俺を無視して盛り上がって、そのままどこかへ去って行った。




