第77話 勧誘
幻想旅団を討伐した事により、警備隊本部に出頭させられた俺とルル姉。
俺はここで、アルトス警備正に動物変化の疑いをかけられる。
俺が人間のままでも強い事を証明してみせたが、アルトスにはまだ、不十分だった。
「これ以上、何を見せればいいのかしらね。」
ルル姉は天使の微笑みを、なぜか俺に向ける。
俺は思わず見とれてしまう。
そして、ハッとしてルル姉の手をはなす。
前回からずっと、ルル姉の手を握ったままだった。
「ふふ。」
ルル姉の微笑みに、俺は思わず目をそらす。
「決まってるではありませんか。幻想旅団の死体です。」
得意げに言うアルトスに、俺とルル姉は再び、思わず顔を見合わせてしまう。
「検視でどんな殺され方をしたのかが分かれば、動物変化である証拠になります。」
そりゃそうだったんだけど、何て言ったらいいのかな。
「サム君、幻想旅団の死体って、どうしたの?」
ルル姉がわざとらしく聞いてくる。
「えと、すでに解体済みですけど。」
「はあ?」
俺の回答に、アルトスはなぜか驚いてる。
「か、解体ってなんですか!」
アルトスはルル姉に、くってかかる。
「出来る限り生け取りで。それが不可なら死体を回収する。この条件が付いてましたよね?」
「サム君、その点はどうなってました?」
「え、知りませんよ?」
ルル姉が俺に話しをふってくる。
アルトスは、何か言いたげに口をパクつかせてる。
「あの依頼書には、書いてなかったですよね。生け取りにしろとか、死体を回収しろとか。」
俺はアルトスが何か言う前に、たたみかけた。
「いや、それは常識的に考えれば、分かる事だろ。」
「常識的に?アジトの結界とやらも、常識的に考えれば分かる事なんですか?」
俺の反撃に、アルトスは黙りこむ。そして話題を変える。
「その結界の事なのだが、君の倒した幻想旅団メンバーの中に、結界に関わってる該当者がいないんだよ。」
アルトスはスクリーンの画像に目を向ける。
俺が倒した六匹の獣が映っている。
「人間の姿の時の画像が無かったから、何とも言えないが、こいつらの中に結界士がいたとは思えない。」
「じゃあ、俺が行った時は、たまたま結界士がいなかったんすかね。」
幻想旅団のメンバーは、確認されてるのが最低六人。七人目がいてもおかしくはない。
「もしくは、君が見逃してたかもしれない。」
アルトスは画像をアジト内部の画像に切り替える。
「何か、心当たりはないか?」
「え?」
心当たりと聞かれ、アジト内にいた青白い子供の姿が俺の脳裏に浮かぶ。
そんなはずないか、と思うと同時に、ルル姉が加工した画像には、この子供がいない事を考える。
つまりこの子供の存在は、アルトスには知られたくない事。
「さあ?別になにも。」
俺はしらばっくれる。
「そうですか。」
アルトスからも、俺の言葉を信用してない事が、ひしひし伝わる。
そのまま俺のギルドカードをスキャナーみたいな装置に挿入して、片眼鏡の様な装置でギルドカードを覗く。
ルル姉やナナさんが、俺の活動記録を見た時に使ったのと、同じ装置だ。
「活動記録は、残されていないようですね。」
顔をあげたアルトスは、ルル姉に話しかける。
「ええ、活動記録は依頼達成の手続きの時に、リセットされます。保存機能を設定してれば、残せますけど。」
ルル姉が俺に話しをふってくる。
「え、そんな設定があるんですか?」
確かナナさんと確認した時、そんな設定もあった気がするけど、ナナさんのお勧めにはなかったので、無視していい設定だろう。
「なら、設定してください!」
アルトスは俺にギルドカードを持たせると、強引に設定画面に移行する米印を押させる。
「な、何するんですか!」
俺は慌ててカードを降魔の腕輪にしまう。
「アルトスさん、今の行為は越権が過ぎますよ。」
ルル姉も注意してくれる。
「う、うぐ、すまなかった。」
アルトスはしぶしぶ謝罪する。俺は悪くないと思ってるのが、伝わってくる。
「君が動物変化でなくても、幻想旅団を倒せる事は証明された訳だが、」
アルトスは外した首輪を、指さきでクルクル回す。
そしてバタんと机の上に叩きつけるように置く。
「君が動物変化である可能性も、否定できない。」
それでどうしろと?
俺の反応を見て、アルトスはニヤける。
「君、サム君と言うんだっけ。サム君、私の部下にならないか?」
「へ?」
いきなりの勧誘に、俺の理解が追いつかない。
「動物変化の疑いのあるサム君を監視出来るし、何より、幻想旅団を壊滅させた手腕は、私の下で活かすべきだ。」
アルトスは、断らないだろ?って圧をかけてくる。
こんな申し出、即断るべきだが、どうしたものか。
断ったら、何か不利益な事をされそう。
申し出を受けても、ろくな事もないが。
「折角の申し出ですが、サム君は期待の大型新人。冒険者ギルドとしても、手放すつもりはありません。」
俺の代わりに、ルル姉がキッパリ断ってくれた。
つかギルドの大型新人って、俺ってあのギルドにしばられるの?
「ふ、ありえないですね。サム君の才能は、警備隊でこそ活かすべきです。」
「そしたら、ナナさんが悲しむわね。」
「な、ナナさんが?」
言い争いになりそうなタイミングで、ルル姉はナナさんの名前をだす。
アルトスは、あからさまに動揺する。
「サム君はナナさんのお気に入りなのよ。アルトスさんがサム君を奪ったなんて知ったら、どう思うかしら。」
「こ、こんなヤツが、ナナさんのお気に入りだと?」
アルトスは俺をにらんでくる。
「アルトスさん、またナナさんに嫌われちゃうわね。」
ルル姉はくすくす笑う。
何という神々しい笑顔!
俺はルル姉の方が好みだが、ナナさんの方が好感度が高いのも事実。
これからはルル姉イベントも、確実にこなしていきたい。
「私たちに、これ以上用はないわね。」
「ええ、ありませんね。」
アルトスは俺をにらみつける。
こいつ、なんかキャラ変わってないか?
こいつに何かされそうで怖いが、ナナさんの影をチラつかせれば、何とかなりそう。
つまり、俺はナナさんとの適度な距離感を取らなければならないのか。
しばらくあのギルドには、お世話になりそうだ。




