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第62話 報告終了

 幻想旅団の討伐を終え、俺はギルドに帰ってきた。




 ぎぎぃ。

 ギルドの扉を開けると、居合わせた冒険者たちの視線が、一斉に俺に向けられる。

 そんな視線を無視して、受け付けに向かう。

 今はナナさんとルル姉がそろっているが、俺が依頼の手続きをしたのは、ナナさんだ。


「あらサム君、早かったわね。もうちょっと粘りなさいよ。」

 ナナさんの鋼鉄の微笑(アイアンスマイル)が俺に向けられる。

 冒険者たちも、ニヤけた目で俺を見る。


「ええ、俺ももうちょっと粘りたかったんですけどね。」

 どさ。


 俺は受付カウンターの前に、熊の死体を取り出す。


 ギルド内がざわつく。


 な、こいつ、ほんとに討伐しちまったのか?

 嘘だろ、おい。

 あれ、ベードじゃねーか?

 ベードが幻想旅団だったのか?

 く、余計な事しやがって。


 俺を称賛する驚きの声もあるが、何やら裏事情を知ってそうな声もある。

 まあ、今の俺には関係ないが。


「あのね、サム君。ギルドカードの活動記録を見せてくれれば、それで充分よ?」

 次は狼の死体を出そうとする俺に、ナナさんが言ってくる。

「それなら、先に言ってくださいよ。」

 俺は熊の死体をしまい、ギルドカードを取り出してナナさんに渡す。

 つか、討伐対象の死体を持って来いとか、言ってなかったっけ?


「あら?この活動記録、オンにしたままよ?」

「あ、忘れてた。」

 俺はここで初めて、活動記録のスイッチをオフにする。


「じゃあ、改めて。」

 ナナさんは、左耳に何かの装置をつける。

 装置から伸びた半透明な板が、ナナさんの左目を覆う。

 そしてスキャナーみたいな装置に、カードを半分ほど挿入する。


「まあ、へえ、」

 半透明な板を通して、ギルドカードを覗くナナさんは、驚嘆の声をあげる。

「私にも見せてよ。」

 ルル姉も同じ装備をつけて、俺のギルドカードを覗きこむ。

「へー、これは凄いわね。ちょっとコピーするわね。」

「あ、ちょっと、今いいとこなのにぃ。」

 ルル姉はスキャナー装置からカードを抜くと、もう一台の同じ装備にカードを刺す。

 ルル姉はカードを抜くと、ナナさんに返す。

 ナナさんはぶうたれながら、カードをスキャナー装置に刺して、続きを見る。


 ルル姉はスキャナー装置をポンポン指で叩いている。

 そして装置の横から、SDカードみたいなのを取り出す。

「テルアさん、ちょっといいかしら。」

「はーい。」

 ルル姉はイートインスペースのウエイトレスさんを、呼ぶ。

「なんでしょうか、ルル姉さん。」

 テルアさんは、とてとてとルル姉に近づく。

 ルル姉はSDカードをテルアさんに渡す。

「これに幻想旅団のデータが入っているわ。これを警備隊に届けて。」

「あら、冗談だと思ってたのに、本当だったんですね。」

 テルアさんはチラリと俺を見ながら、SDカードを受け取る。

「ええ。だから気をつけて。」

 ルル姉は小声で注意する。

「分かってます。」

 テルアさんも小声で返す。

 ギルドには、怪しげな視線を向けるヤツも、数人いる。

 テルアさんがギルドを出るのに前後して、数人の冒険者もギルドを出る。


「ふふ、安心して。彼女は強いから。」

「そ、そうですか。」

 俺は不安そうな視線に気づき、ルル姉はニコりとつぶやく。


「あら、」

 俺のギルドカードをワクワクした様子で覗いてた、ナナさんの表情がくもる。


「ふう、」

 顔をあげたナナさんが、ひと息つく。

 そしてルル姉に視線を向ける。ルル姉はうなずく。

 何かのアイコンタクトを終えたナナさんは、鋼鉄の微笑(アイアンスマイル)で俺に向きなおる。


「お見事です、サム君。幻想旅団の討伐依頼は、無事に達成されました。」


 ナナさんのそのひと言に、ギルド内から歓声があがる。


「それでは達成手続きがありますので、こちらにいらして下さい。」

 そう言うナナさんに、ルル姉が何かを手渡す。

 それは、この討伐依頼を受けた時に、契約金を入れた小箱だった。

 ナナさんとルル姉は、何かの目くばせをかわす。

 ルル姉がチラりと俺に視線を向けたので、俺もつい、軽く会釈する。

 ルル姉はクスりと軽くほほ笑み返すと、自分の定位置に戻る。


 ナナさんはカウンター横の扉に入るので、俺も後に続く。


 この長く伸びた廊下の先にある扉は、千尋峡谷のホームに続く扉。

 廊下の左側にふたつの扉があり、手前の扉が俺のギルドカードを発行した部屋だ。

 廊下の右側には扉はひとつしかない。


「Fランクのサム君を、そのまま行かせるんじゃなかったわね。」

 扉を閉めて、ナナさんは立ち止まる。

「えと、どういう意味ですか。」

 当然俺は、ナナさんの言葉の意味が分からない。

 ナナさんは、俺のギルドカードを見せる。

「Fランクのカードにはね、そもそも活動記録の機能はないのよ。」

「はい?」

 これまた言葉の意味が分からんぞ。

 ナナさんは俺のギルドカードを契約の小箱に差し込む。

 小箱の蓋が開き、中に入ってた契約金2万4千クレカが取り出される。

「この契約の小箱の機能で、活動記録の機能が付随されてたのよ。」

「えと、それってつまり、俺がスイッチをオンオフの操作をする必要がなかったって事?」

「ええ、あなたが依頼を受けた瞬間から、今契約の小箱に刺した瞬間まで、バッチリ記録されてるわ。」

 ナナさんは鋼鉄の微笑とは違う、自然な笑顔を見せる。


「う、」

 それはつまり、俺の行動が全部記録されてたって事。

 俺が刺客を殺して食った事から、白い虎に俺の血を飲ませた事。

 そしてあの山小屋での出来事。

 俺の攻略につながる記録を、ナナさんとルル姉には見られてしまった。

 これは、先を越される前に、ふたりを消すべきか?



 そんな選択を決めかねてる俺に、ナナさんが言った。

「ですから、あなたのランクをCランクに格上げします。」

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