第61話 幼女様のキッス
幻想旅団のアジトには、多くの動物が捕えられていた。
俺は檻の南京錠を外してやるのだが、誰も檻の外に出ようとはしない。
「おいおい、これくらい自分で開けられるだろ。」
南京錠を外してやったのに、檻の外に出ようとしない動物どもに、俺はあきれる。
俺と目があって、ビクつく動物の檻に近づき、その檻を開けてやる。
だが中にいる動物は、檻の奥で怯えて、かたまっている。
「あはは、そりゃあ君に食べられたくないもんね。」
白い肌の子供が、笑ってる。
「誰が食べるかよ。」
ドラゴンのままならともかく、人間に変化してる今、そんなつもりはない。
俺は檻の奥に手を突っ込み、動物を引き寄せる。
この動物は、ウサギ。
「ぴぎゃー。」
かぷ。
俺に抱かれたウサギは、俺の左腕にかみつく。
「怖くない、怖くない。」
俺はそっと、ウサギの頭をなでる。
ウサギは俺の左腕から口を離すと、怯えながら俺の表情をうかがってくる。
俺はしゃがみこんでウサギを床におろすと、なるべく優しく声をかける。
「さあお逃げ。」
ウサギは小屋の外を見て、再び震えだす。
そう言えばウサギは寂しさで死ぬ動物じゃなかったっけ?
俺はウサギを抱きよせ、頭をなでる。
ウサギの震えはとまる。
「無理よ。」
ウサギはか細い声でつぶやく。
「私が外に逃げても、すぐに食べられちゃうわ。」
ああ確かに。その可能性があるか。
この世界の動物は、人間に変化できるヤツもいる。
それと、普通に言葉が喋れても、不思議ではない。
「お兄ちゃん、よく見てみなよ、そいつの足。」
ここで白い肌の子供が、ウサギの足を指差す。
ウサギの左足は、変な方向に折れ曲がっていた。
「はあ、そういう事かよ。」
俺は理解した。
ここの動物たちは、逃亡防止のために傷つけられている。
俺はおもむろに回復魔法を使って、ウサギの傷を癒す。
ウサギを床におろす。
その場で数度、跳ねあがって感触を確かめるウサギの表情が、みるみる明るくなっていく。
「ありがとう、お兄ちゃん。」
ウサギは礼を言いながら、人間に変化する。
幼いバニーガールの姿になったウサギは、俺の頬にキスをする。
そしてウサギの姿に戻ると、小屋の外へと飛び出していった。
「よーし、逃げたいヤツは、ここに並べ。俺が回復魔法で癒してやるぞ。」
俺は檻の中の動物たちに声をかける。
幼女のキスで、俺のテンションがあがる。
そう、幼女のキスはお兄ちゃんの活力だ。
檻から出てくる動物たちに、順番に回復魔法を使う。
犬や猫といった愛玩動物。幻獣や魔獣にしか見えないヤツ。
どいつも元気に小屋を出て行った。
だが、六匹程、檻の中に残ったままだ。
「おーい。おまえらは逃げないのか?」
俺の呼びかけにも、六匹はそっぽを向いて、無視をきめこむ。
「そりゃあ、こっちの方が安全だからね。」
イラっとする俺に、子供が笑いながら声をかける。
「それもそうか。」
俺は子供の言葉に納得する。
そう、ここは弱肉強食の畜生道。
今逃したヤツらのなん匹かは、もうこの世にいないかもしれない。
「なんか、悪いことしたな。」
俺は落ちてる南京錠を拾いあげる。
鍵がかかってない檻は、安全とはいえない。また鍵をかけてやる必要がある。
だけどこの南京錠は、閉じたままだ。
これを檻にかけるには、転移魔法の応用で、ピンポイントの座標軸に転移させなくちゃいけない。
外す時は適当で良かったが、今度は針の穴に糸を通すような集中力が求められる。
魔法を乱発した今の俺に、その調整は難しい。
つか、そこまでやってやる必要あるのか?
「じゃ、後は勝手にしな。」
俺は手にした南京錠を床に落とすと、この小屋を後にした。
日も傾きかけている。
このままギルドに着く頃には、夕暮れ時といったところか。
そんな事を考えていると、突然俺の左手がにぎられる。
俺が反射的に左に視線を向けると、そこにはあの子供がいた。
俺は思わずゾクっとする。
実体もなく忍び寄る白い影。
その言葉がぴったりだ。
「おい、離せよ。ついてくるなよ!」
俺は左手を振り回すが、子供の手を振り解けない。
「僕、君の事、気にいっちゃった。」
ニコっとほほえむ子供は、かわいくもあるが、それ以上に不気味さを感じる。
「くそ!」
こうなったら、転移魔法で逃げるしかない。
「転移魔法使っても、無駄だよ。」
俺の考えはお見通しなのか、子供が釘を刺してくる。
「何?」
「僕も転移魔法は使えるからね。すぐに追いつけるよ。それに魔法を無駄に使い過ぎてたし、何度も転移魔法は使えないよね。」
「な、」
俺は子供の言葉にゾッとする。
確かに、俺の魔素は尽きかけている。
来る途中で刺客のドラゴンを食べてなかったら、ウサギに回復魔法を使う前に倒れていた。
だけど、あと数回くらいなら、転移魔法を使える。
「ああ、確かに、あと一回くらいだな。」
俺は転移魔法の為の集中をしながら、子供に答える。
「それじゃあ、僕とずっと一緒だね。」
子供は俺の左手を握る手に、力をこめる。
「な訳ねーだろ。じゃあな。」
俺は転移魔法を使う。
転移先は、ギルドのそばの路地裏。
これで不気味な子供を、完全に巻けた。
俺はそのまま、ギルドに入る。
「な、消えた?僕が見失うなんて?」
子供は慌てた様子で、周囲を見渡す。
「探知範囲内に、あいつの魔素反応はなし。まさか、多重転移で巻くなんてね。やられたよ。」
と言って、ニヤける子供。
「まあいっか。君の行く先はあの街のギルドだし。いつでも会える。」
子供は山小屋に歩みを向ける。
「ふふ、君の人間の姿も、ドラゴンの姿も、僕は見た。」
子供は動物の姿に戻る。
「ふふ、この姿なら君も、僕だと分かんないよね。あー、後片付けめんど。」
動物に戻った子供は、そのまま山小屋に消えた。
ども(・ω・)ノ
今回出てくるこの子供、何の動物変化かと言ったら、スライムです。
幾つかの姿に、変化できます。
そしてあらすじに出てきたスライム族が、やっと本編に登場しました。




