第59話 血の真実
俺が状態異常のヤケドを治してやった、白い虎。
なんとこいつの心臓は、なぜか動いてなかった。
「なあ、俺に何をしたんだよ、教えてくれよ。」
俺の顔面を左胸に押しつけた虎は、涙声で聞いてくる。
ミシミシ‥
俺の頭を押さえる虎の手に、力が込められていく。
虎も無意識に力を込めてるらしい。
普通の人間の頭なら、押し潰されてる程の力だ。
だが、今の俺はドラゴン。
これくらいで、やられはしない。
俺は首を素早く下に引っこ抜く。
虎の右手が、虎の左胸に食い込む。
「う、」
虎が自らダメージを負う事で、俺への抱擁が緩む。
俺は虎の抱擁から脱出して、一歩下がる。
俺は改めて、虎の顔を見る。
涙声の虎だったが、その瞳に涙はない。
俺に回復魔法を使われ、涙を流した白い虎だったが、今は涙を流してはいない。
「お、俺に状態異常は効かない。」
俺は自らの右手を見せる。
燃える虎をつかんだ右手。
本来ならヤケドを負っているはずだが、俺の右手にヤケドはない。
「だから、俺の魔素を、おまえに分けてやった。ただそれだけだ。」
流石に、俺の血を飲ませたとは、言えない。
「ふふふふふ、」
俺の説明に虎は目を閉じて、こみあげる笑いに身体をゆらす。
「九怨葬の炎は、魂を喰らい尽くすまで消えない、地獄の炎。つまり、そういう事かよ。」
虎は目を見開き、俺に襲いかかる。
単調で緩慢な動き。だが力強さは感じる。
それは、さっきまで戦ってた虎の動きとは、明らかに違った。
俺はスッと横にかわし、すれ違いざまに右足の甲で虎の腹を蹴り上げる。
ドサ。
虎は受け身も取らず、背中から地面に落ちる。
そしてそのまま笑いだす。
「ふはははは、何だよこれ。破壊衝動が、こみ上げてきやがる。」
虎は寝返りをうって、四つ足で立ち上がる。
「なんであのまま、死なせてくれなかったんだ!」
虎は再び、襲いかかる。
俺は虎の腹にアッパーカットをぶちかます。
虎はそのまま俺の後方へ吹っ飛び、受け身も取らずに背中から落ちる。
「ふははは、身体を制御出来なくなってきやがった。なあ、俺を殺してくれ!」
虎は三たび襲いかかる。
俺はしゃがんでかわすと、虎はそのまま俺の上を通り過ぎる。
どしゃ。
宙を飛んで襲いかかった虎は、受け身も取らずに頭から地面に着地する。
その時に首をひねったらしく、三たび立ち上がる虎の頭は、少し右を向いている。
「頼む。俺の意識も薄れてきた。俺が暴れ狂うケダモノになる前に、早く、俺を、殺せぇ!」
最早虎の意思に関係なく、虎の身体は俺に飛びかかる。
「くそ、」
俺は軽くジャンプしながら、飛びかかってくる虎の首を、小脇にかかえる。
プロレスで言う、フロントヘッドロックの形になる。
そのまま虎の首を軸に回転し、虎の首をねじ切った。
「や、るじゃ、ねーか。」
首だけになった虎が、俺に話しかける。
「俺も、もっと早くに、おまえと、知り合えて、いれば、こんな所に、おちぶれる事も、なかっ、」
虎の言葉がついえる。
俺は見開いた虎のまぶたを、そっと閉じてやる。
声とは、吐く息が声紋を震わせる事で、声になる。
肺とつながらず、ノドごと声紋をちぎられて、頭部だけで声を出す事は出来ない。
それなのに発音出来たのは、やはり俺の血の影響だろう。
頭部を取られた身体も、下半身は動かなくなったが、上半身は俺に向かって攻めの姿勢を崩さない。
左前足で身体を支え、右前足を俺に伸ばす虎の胴体。
俺は支えである左前足に、足を引っかける。
支えを外された虎の胴体は、地面にひれ伏す。
身体を立て直そうと、両前足に力を込めるが、しばらくしてそのまま、動かなくなった。
「はあ、」
俺は思わずため息をつく。
なんか俺の血には、俺にも分からない効果があるようだ。
その一環が、死んだ直後ならゾンビ化させる効果のようだ。
これからは、他人に使うのはやめたほうがいいだろう。
俺は暗い気持ちになりながら、虎の死体を降魔の腕輪に収納する。
「さてと。」
俺は小屋の方に目をやる。
入り口の扉は、半開きになっている。
だが、小屋の中の魔素の様子が、何も感じられない。
白い虎との戦闘中、中からは誰も出てこなかった。
おそらくこの白い虎が幻想旅団のリーダーで、最後のひとり。
小屋の中には、この盗賊団の盗品があるに違いない。
俺はドラゴンの姿から、人間の姿に変化する。
これからやる事は、盗品回収。
ドラゴンの身体より、人間に変化した方が都合がいい。
そして小屋の中に足を踏み入れる。
「う、」
中に入った途端、大量の気配を感じる。
なぜ外からは何も感じなかったのか。それが謎すぎるくらいだ。
一瞬ビビってしまったが、よく見ると小屋の三方の壁に檻が積み重なっていた。
ほぼ1メートル四方の檻が3段に重ねられ、壁一面を埋め尽くしていた。
中に閉じ込められた動物たちからの、異様な警戒心が俺に向けられていた。
「ねえ、びっくりした?」
いきなり話しかけられ、俺はその言葉通り、びっくりする。
俺の左隣りにはいつの間にか、ひとりの子供が立っていた。
俺が小屋に入ってきた時には、いなかったはず。
青い瞳に、うっすら青みかかった白い肌。
歳の頃は4、5歳と思われるそのプニっとした白い肌。
神秘的な可愛さと同時に、不気味さを感じてしまう。
この子供も何かの動物の、変化した姿なのだろうか。
「実体もなく忍び寄る白い影」
あの白い虎の言葉を、思わず思い出してしまった。




