第55話 活動開始
俗に言う特殊魔法。これをマスターすると、簡単な回復魔法などが使えなくなる事も、あるらしい。
「おまえ、俺の後がまになる気はないか?」
命が尽きようとしている刺客は、なぜか俺を勧誘してくる。
「何?俺にミーシャを殺せって言うのか?」
「ふ、今一番ミシェリアに近いのは、おまえだからな。おまえもミシェリアを蹂躙したいと、思ってるんだろ?」
「うぐ、それは。」
即座にノーとは言えず、戸惑う俺。
そんな俺を見て、刺客はニヤける。
「ミシェリアをモノにしたい依頼が、闇ギルドには複数きている。」
「闇ギルド?」
それは、俺が依頼を受けたギルドとは、別に存在するのだろうか。
「なんなら、俺が紹介してやってもいいぜ。ただし、この俺に回復魔法をかけてくれるならな。」
あぶら汗をにじませながらも、刺客の傷は自然治癒していく。
俺との会話が、いい時間稼ぎになってそうだ。
「その前に、ふたつ程聞かせろ。」
ミーシャをどうこう言う前に、ハッキリさせたい事がある。
「闇ギルドってのは、どこにある。そして、おまえの依頼主は、誰だ。」
「ふ、それに答える前に、俺に回復魔法をかけな。」
「何?」
「まずは共にミシェリアを蹂躙して、おまえが俺たちの仲間だと証明してからだ。」
ぶちぶち。
俺もミーシャを蹂躙する頭数に入れられてる事に、腹わたがにえくりかえってきた。
「なあ、おまえの分身魔法ってさあ、ミーシャを蹂躙するためのものなのか?」
俺は改めて聞いてみる。
「ああ、分身魔法で取り囲んだ時の、女の怯えた顔は、いーぞ。あれほどそそるものはないな。」
「なん、だと?」
「ふ、ひとり相手ならどうにかなる、って思ってる所へ、俺の分身が増えるんだかんな。絶望感も凄い事だろうよ。」
俺の問いかけに、刺客は意気揚々と答える。
「なるほど。千尋峡谷でミーシャを傷つけたのは、おまえだな。」
俺は刺客の答えに確信する。
「残念ながら、あれは俺だけではない。他のドラゴンどもが邪魔しなければ、俺は無傷のミシェリアをモノに出来たんだがな。」
刺客は卑下た笑みを浮かべる。
「貴様ぁ!」
刺客の言葉は、俺を怒らせるのに充分だった。
俺は刺客の治りかけの傷に、噛みつく。
「や、やめろ、と、共にミシェリアを、犯す、仲間だろ、」
「黙れ、こん畜生!」
「ぐぎゃー!」
俺は噛みついた牙に、ひねりを加える。
「ぺ、」
俺は一度、噛みつきを解く。
「ふ、そうか。あれ程の女。やはりおまえも、独り占めしたいって事か。くそ、俺が甘かったぜ。」
刺客はあぶら汗をにじませ、ひざまずく。
首すじからの出血。ひねりを加えた分、治りにくさが加わる。
自然治癒では、助からないだろう。
「ああ、俺も甘かったぜ。」
ぶち。
「ぐぎゃー。」
俺は刺客の右の翼をもぎ取る。
「おまえなんかと、取り引きしようとはな!」
俺は刺客を後ろから羽交い締めにし、そのまま空に飛ぶ。
ある程度の高さから、真っ逆さまに落ちる。
刺客の首すじの傷に、右脚の爪をくいこませ、そのまま地面に激突!
刺客の首が、千切れ飛ぶ。
「ふう、最初から、こうすべきだったぜ。」
とりあえず刺客の死体は、おいしくいただく事にした。
おいしくいただいた俺は、人間の姿に変化する。
俺の今の目的は、幻想旅団の討伐依頼を達成する事。
変な刺客に気をとられたが、この目的は忘れてはいけない。
そのまま森の奥へと急ぐ。
森の奥には、依頼書にあった通り、山小屋があった。
この山小屋が、幻想旅団のアジト。
俺は山小屋の気配を探る。
だが、山小屋の中は、まるきり分からない。
もう少し近づくかと思ったら、山小屋の扉が開いて、ふたりの男が出てきた。
「くんくん、くんくん。」
小さい男が、辺りの匂いをかいでいる。
「どうだ?」
大きい男が、声をかける。
「うまく溶け込ませていやがる。」
小さい男の答えに、こいつらは俺を探してるって事に気づく。
「だが俺の鼻は、誤魔化せないぜ。」
小さい男は、徐々に狼になっていく。
なるほど、ドラゴンが人間に化けれるこの世界。
他の動物が人間に化けてても、不思議はないか。
「いた、あそこだ!」
狼は、俺が隠れる茂みをにらむ。
「ああ、そうかい!」
大きい男は、徐々に熊になりながら、突進してくる。
俺は転移魔法で、木の上に転移する。
こいつらが幻想旅団だと確信すると、ギルドカードの活動記録をオンにする。
「おい、いねーじゃねーか。」
熊は狼に振り返る。
「ば、ばか、上だ!」
狼のさけびに、熊は上を見る。
活動記録をオンにした俺は、ドラゴンに戻りながら、木の上から飛び降りる。
そのまま熊の首すじに、蹴りをぶち込む。
「ぐへ、」
倒れた熊を踏みつけ、脚と尻尾を使い、熊の首をへし折る。
「ど、ドラゴンだと?」
俺を見た狼が、たじろぐ。
俺はそのまま、距離をつめる。
「く、こなくそ!」
狼は大口開けて、飛びかかってくる。
俺は転移魔法で距離をつめると、狼のノドを蹴り上げる。
俺の右脚の爪が、狼のノドに突き刺さる。
「これでふたりか。」
幻想旅団の構成員は、確認されてるだけでも6人。
つまりあと4人は居る事になる。
で、このふたりがそうだったのかと言うと、依頼書には6人確認されてるってだけで、どんなヤツなのかは、書かれていない。
これで人違いだったら、どうするんだ?
その時は、食べて証拠隠滅すればいいか。
とりあえず狼と熊の死体は、降魔の腕輪にしまった。




