第48話 編入試験
ホームに居たおっさんに、リバルド学園に来いって言われたから来たけれど、なんか入学テストがあるらしい。
守衛小屋の奥から、おっさんが戻ってきた。
「もうすぐ担当者が来るから、ちょっと待ってろ。」
おっさんは俺に、ギルドカードを返す。
「で、お前はミーシャとは、どういう関係なんだ?」
「は、はあ?どういう関係って聞かれても。」
俺は返答に困る。
「いやなに。ミーシャのあんな笑顔は、久しぶりに見たからな。ミーシャも、心ゆるせる仲間が、やっと見つかったんだな、って思ってよ。」
「はあ、」
そんな事言われても、俺は困る。
「で、サムって言えば、獅子の穴を脱走したヤツも、サムって言うんだけどよ、お前の事か?」
おっさんはジロりと俺をにらむ。
「あ、はい。多分俺です。」
「かー、つまりお前は、無教養って事かよ。入学テストもやるだけ無駄だな。」
「や、やってみないと、分かりませんよ!」
おっさんの物言いに、イラっとくる。
「何の教育も受けてないヤツが、入れる所じゃねーんだよ。たく、お前がミーシャを守るんじゃねーのかよ。」
おっさんはイラつきながら、はきすてる。
そっか。
このおっさんも、ホームに居たあのおっさん同様、獅子の穴の実情を知らないんだな。
「あなたですね。入学希望者は。」
おっさんに反論しようとしたら、後ろから話しかけられた。
振りむくと、性格のキツそうな、青い髪の女性教師が立っていた。
「おう、アディシア。後は頼むぜ。」
おっさんは右手をあげて、そっぽを向く。
俺に対して、投げやりな態度をとる。
「身分証は?」
女性教師は無表情のまま、右手を出す。
「あ、はい。」
俺は降魔の腕輪からギルドカードを取り出して、手渡す。
「ふーん、サムですか。なかなか高性能な収納アイテムを所持してるようですが、入学テストの合否とは、関係ありませんからね。」
女性教師は俺のギルドカードを持ったまま、校舎へと歩きだす。
俺も後を追うのだが、うん、この女性教師。いい女だ。
後ろ姿のボディラインが、たまらなく色っぽい。
性格はキツそうだが、デレたらかわいいタイプだ。
「ち、」
女性教師が舌打ちして、立ち止まる。
「おっと、」
俺はわざとぶつかってやるのだが、女性教師は即座に振り向き、右手を水平に振る。
「ぐ、」
俺の首に、首輪がはめられる。
獅子の穴でもはめられた首輪。
それも高さがあり、アゴを下に引くと、邪魔で息苦しくなる。
「封じの首輪を、つけました。ドラゴンに戻ったら、死にますよ。」
女性教師はそれだけ言うと、校舎へと歩きだす。
「くそ、またかよ。」
俺は右手で首輪をつかみながら、後を追う。
この首輪は転移魔法ではずせるのだが、今はつけたままにしておこう。
俺たちは、ひとつの教室に入る。
席は横に六つ、縦に二つしかない。
随分と少人数制だな。
「早く席につきなさい。」
女性教師は、アゴで席を指す。
「ち、」
俺はその席に着く。
女性教師は一枚の答案用紙を、裏返して席に置く。
「せんせー、これ、はずしてくれませんか。」
今俺がしてる首輪は、高さがある。
常に首を伸ばしてないと、あごの下が当たって息苦しい。
常に片手で上下をつかんでる状況だ。
「あなたが暴れない保証がないので、はずせませんよ。よかったじゃないですか。落ちた時の言い訳ができて。」
「何?」
無表情のままの女性教師に、カチンとくる。
「それじゃあ、制限時間は、50分です。始めなさい。」
女性教師は、どこからともなく取り出した、ストップウォッチを押す。
「くそ、」
俺は慌てて答案用紙を裏返す。
何?
その問題を見て、俺は驚く。
文章問題と、計算問題。
小学生の国語と算数の問題と言った所だ。
「せんせー、出来ました。」
5分後、俺は答案を女性教師に渡す。
「あら、随分と早く、あきらめましたね。」
「誰があきらめたって?」
「な、」
女性教師は答案用紙を見て、驚く。
「ば、バカな、全問正解?こんな短時間で?」
「じゃあ、俺は合格ですよね。」
俺はニヤけながら、女性教師に聞く。
「ま、まだです。まだ実技が残ってます。」
女性教師は、怯えてる。
俺の学力に慄いたか。
「実技?」
これもこのテスト同様、大した事ないんだろ。
「実技は、魔法を披露してもらいますが、あなたの魔法、無色ですって?無色に初級魔法は存在しませんから、何の魔法も使えないんですよね?」
女性教師は、俺のギルドカードを見ながら、言ってくる。
「ははは、魔法を見せれば、いいんですね。」
俺は竜王の使えた初期魔法なら、全て使える。まあ、俺が今知らない魔法は使えないが。
「俺は、転移魔法が使えます。」
俺は首輪だけ残して、一歩後ろへ転移する。
元居た空間に残された首輪をつかむ。
「その応用だ!」
俺は素早く女性教師に近づき、首輪を女性教師の首に転移させる。
転移魔法の応用で、手に持った物体を、手の届く範囲内の任意の位置に、転移させる。
ぶっちゃけこの首輪にしか、使い道のない応用魔法だ。
「ははは、形勢逆転だな。」
俺はゆっくりとドラゴンに戻る。
なめたマネしてくれたんだから、じっくりイタぶってやろう。




