第318話 ミーシャの気づかい
千尋峡谷の崖にあいた洞窟。
その洞窟を隠すように、ひとつの建物が造られた。
その周辺は大気中の魔素の濃度が、著しく薄い。
だから千尋峡谷のドラゴンどもは、寄りつくこともなかった。
とは言え、そこに弱った個体を見つけたのなら、話は別だ。
ドラゴンの本能に従い、普通に襲いかかる。
「はあ!」
ミーシャは襲いくるドラゴンの突進をジャンプでかわす。
その着地地点で、もう一匹のドラゴンが待ち構える。
ミーシャの着地に噛みつくドラゴンだったが、ミーシャは空中で停止。
噛みつきにきたドラゴンは、凄い勢いで口を閉じただけだった。
そのドラゴンのアゴを、空中に浮いたままのミーシャが蹴り上げる。
首をのけ反らすドラゴン。
自らの牙で、口内を傷つけてしまう。
もう一匹のドラゴンが突っ込んでくるも、ミーシャは空中に浮いたままカウンターの回し蹴りを炸裂させる。
二匹のドラゴンが倒される。
ミーシャは手近な一匹に、がぶりつく。
「はは、すっかり元気になったようだな。」
サムはミーシャに声をかける。
食事中に声をかけられ、ミーシャは思わず声の主をにらむ。
「あらサムじゃない。どうしたの、そんなに縮んじゃって。うまくいかなかったの?」
フルサイズのドラゴンの姿であるミーシャは、人間サイズのドラゴンのサムに、どこか違和感を覚える。
「いや、スターダストサンドはちゃんと回収できたよ。ただ、あの奥には魔素が無くてな。この姿を保つのがやっとだったよ。」
と言いながらサムは、ミーシャが倒したもう一匹のドラゴンにがぶりつく。
自分の得物に手を出されて一瞬イラっとしたミーシャだが、人間サイズのサムがドラゴンにカジカジしてる姿が、どこかかわいらしく思えて、気持ちがなごむ。
それに、今のサムを敵に回しても、ミーシャが返り討ちにあうだけなのは、ミーシャ自身も分かっていた。
「ふー、」
食事を終えて、サムはひと息つく。
「どう? 十分回復した?」
とミーシャはサムに尋ねる。
洞窟の奥から、疲弊して戻ってきたサム。
十分回復してもらわないと、サムも千尋峡谷の濃い魔素に当てられ、理性が希薄になる。
そしたらドラゴンの本能のままに、暴れだすだろう。
それで真っ先に被害にあうのは、ミーシャ自身だ。
「いや、まだ十分とは言えないな。」
「そう。だったらもう何匹か必要そうね。」
サムの答えにミーシャは、少し離れた場所にある、ガレキの壁を見つめる。
ビク。
その壁の後ろで、気配が乱れる。
「いや、俺は無闇に殺したくないからな。無難に子羊を狩ってくるよ。」
サムはそう言って飛び立とうとするも、ミーシャが制する。
「私が狩ってきてあげる。」
「おいおい、それはどう言う風の吹き回しだよ。」
サムは、ミーシャが自分のために行動してくれることが、ちょっと意外だった。
「ふふ、あんたには世話になりっぱなしだからね。借りを返したいだけよ。それにあんたが狩りに行っても、どうせ餌の取り合いに巻き込まれて、理性が保てなくなるってオチでしょ。」
「ああ、そうだな。」
サムはミーシャの言葉に、右拳を握りしめる。
ドラゴンを喰らって魔素は少し回復した。
だけどドラゴンの本能が刺激されたのも事実。
今だって、そこの物かげに隠れてるドラゴンを襲いたい衝動が湧いている。
「ふふ、じゃあ行ってくるから、おとなしく待ってなさいよ。」
ミーシャはそのまま、餌の子羊を探しに飛び立った。
「あのやろう。」
飛び去るミーシャを見ながら、サムは表情をしかめる。
この場にサムを留める意味。
それは、ミーシャの目を気にする事なく、好きにしろっていう事。
ミーシャにとっても、サムの魔素が回復しない事には、帰れない。
それにサムが魔素の補給として、ミーシャを襲う可能性もあった。
などとサムが考えを巡らせていると、二匹のドラゴンが物かげから姿を現した。
「てめぇ、チビのくせにあのねーちゃんとは、どういう関係だ?」
一匹のドラゴンが、サムに凄む。
今のサムは、人間サイズに体の大きさを抑えている。
「あ?」
と言いながらサムは、再び考えを巡らせる。
こいつらが話せるという事は、普通のドラゴンではなく、人間に変化出来るって事だろう。
なのに、サムをチビと決めつけるのはなぜか、
ドラゴンの動物変化なら、体の大きさはドラゴンのサイズから人間のサイズまで、伸縮自在。
それを知らないのか?
「だ、だから、とっとと襲っちまえばよかったんだよ。」
凄むドラゴンの影から、もう一匹のドラゴンが気弱そうに声をかける。
「あーん?おめーはバカか。見ただろ、あのねーちゃんの強さ。下手に俺たちが襲ってたら、返り討ちにあってたぞ。」
凄むドラゴンは、気弱そうなドラゴンを黙らせる。
「で、でも、人間に変化してた時に襲えば良かったじゃん。」
気弱そうなドラゴンは、再び反論する。
「ああ、そうかもな。確実に襲ってやろうとしたことが、裏目ったぜ。」
凄むドラゴンも、同意。
この二匹の会話で、サムもピンとくる。
こいつらはミーシャにドラゴンをけしかけ、ミーシャを痛めつけさせた所で、そのドラゴンを倒す。
その後でじっくりと、ミーシャを凌辱するつもりだったのだろう。
女性を視姦してばかりのサムだが、他人にそれをやられると、すごく腹が立つ。
サムはおもむろに、右手の人差し指を立てる。
その指先に、炎の槍が形成される。
そのまま凄むドラゴンを指差すと、炎の槍が放たれる。
ども(・ω・)ノ
一応サムとミーシャは、千尋峡谷にいるドラゴンどもよりも、はるかに強い設定です。
だから油断したり不意を突かれなければ、負ける理由がありません。
今回出てきたドラゴンの動物変化たちが、ドラゴンの体の大きさを変えられることに気づいてないのは、そこまで強くないからですね。
それとこの場所は、魔素も薄くてドラゴンが近づかないので、人間に変化できるドラゴンにとっては、安全地帯になってます。
今回登場のザコい2匹は、ミーシャが千尋峡谷を去った後の、新たな住人ですね。
(´・ω・)




