3-2
デリックの移動魔法で家の前まで送ってもらったエリシアは、一つ深呼吸をしてから家に入った。
「…エリシア……?」
部屋の明かりは落とされていて、眠っていると思っていたデボラの声がしてエリシアは小さく悲鳴を上げた。
「もう、驚かせないでくださいよ〜」
デボラの寝室に行き明かりを点けると、デボラは目を見開いた。
「…………エリシア、貴女……どうしたのよ」
「え……?」
まさか、また?
鏡を覗き込むと、髪色がブルーヴァイオレットに変わっていた。
「またやられた…」
何なの、これ。
近づいたらアウトなの?
それともあの防御魔法のせい…?
「それだけじゃないわ。ちょっとこっちにきて」
ベッド脇に手のひらをとんとんとしたそこに座ると、デボラは先程のデリックのようにエリシアに手を翳した。
そこから光が放たれると、デボラは「まあ……!!」と声を荒げた。
「後継者に会ったのね」
「はい…、偶然…。そこで、何か…防御魔法を掛けられたのですが…」
まさか、呪いの魔法でも掛けられた?
「……酷い呪いね……」
「えっ…!?」
まさか本当に呪いだとは思わず、エリシアは素っ頓狂な声を上げた。そんなエリシアにデボラはすかさず「ああ、違うのよ。エリシアに危害は及ばないの」と訂正した。
「じゃあ、呪いって……」
その先を尋ねる前にベッドサイドが輝き、移動魔法でカーライルが現れる。
「デボラ、祭りだから花束を買ってきたんだ」
「あら、ありがとう。あなたちょうど良いところに来てくれたわ。エリシアの頭を撫でてちょうだい」
「おお、エリシア。その髪色は───」
カーライルがエリシアの頭に触れようとした途端、カーライルは攻撃でも受けたかのように壁に吹っ飛んだ。
「カーライル様!?」
「触れてはダメよエリシア」
慌てて駆け寄ったエリシアを制止する声がした。
あまりに強い口調で言われ、エリシアは疑いを掛けられた子どものようにムキになって否定した。
「わ、私やってません!
カーライル様に頭を撫でてもらうのも好きで、デボラ夫人のことも大好きで…」
「儂の方が低めの好きか…」
「あ、いえそういうことでは……」
デボラが魔法を掛けるとカーライルはふわふわと風に乗って近くのソファに腰掛けた。
「エリシアがやってないことくらい分かるわ。
これこそが、貴女に掛けられた呪いよ」
「…これが…?」
「婚姻の誓いを果たした夫婦が互いに浮気をしないよう、異性に触れることを禁じたものよ。
今はもう見ないのだけれど、古い時代に血筋が狂うと困る王家などで使われていたものね」
「え………」
じゃあ私、今後一生男に触れられないの?
今すぐ結婚したいわけでもないけど、単純に嫌なんだけど……。
それに、そんな魔法があるなんて。
「しかも相当捻れてるわ。これは掛けた本人じゃなきゃ解けないわね」
「捻れてる?」
「魔力量は生まれた時に決まるから、普通に戦うと魔力量がより強いものが勝つんだけど、魔法は数式の塊でもあるから、その数式を理解して上手く組み合わせると、より強固なものになるのよ。
質が良くなると思えば良いかしら。
良質な生地でできた服ってほつれづらかったり、長持ちしたりするでしょう?」
「そうですね…」
「量は変わらないけど質が良くなれば、勝算は変わってくる。魔法学園ではそう言った質を良くするための勉強もするのよ」
デボラ夫人の説明に頷いてはいたものの、理解できたような、そんなことないような。
「で、さすがは後継者と言うべきか…。
その数式の組み合わせも上手いから、量だけでなく質も良いときてるわ。だから壊すのは無理そうね」
「儂の防御魔法はどうなった」
「…壊されてるわね」
「あのヤロウめ……」
……壊されてる?
「カーライル様も、魔法で守ってくださってたのですか?」
眉を上げたカーライルは何ともなさそうに笑った。
「ん?まあな。
でなければ今頃エリシアは奴に誘拐されてたわい」
そうだったんだ…。
私、何も知らなかったんだな…。
「…ありがとうございます」
「いやいや。そんなことより…会ってみてどうじゃった?平気か?」
「はい…。意外と、大丈夫でした」
エリシアの変わりない表情に、カーライルもデボラもほっと胸を撫で下ろした。
「そうか、そうか」
そうして安堵したのも束の間だった。
♢♢♢
翌朝。
「………んぐう……」
あれ、ベッドにしては…固い気がする。
それに何だろう、すべすべしてて…あったかい。
「はは、エリシア。くすぐったい」
…………え?
久々の目覚めの良さだった。
いつもならダラダラと起きれないのに、その日はバチッと目が開いた。
見慣れない真っ白なシーツ。
視界には、誰かの、肌。
…え、え!?
無駄肉のない程よく引き締まったお腹。
その下が今にも見えそうだったが、シーツに隠れていてどうにかセーフだった。
恐る恐る顔を上げていくと、そこには口角を上げるデリックの御尊顔があった。
「おはよ、エリシア」
寝起きの掠れた声。
眠たげな目。
寝癖のついた髪。
……イケメン。
「……………………………………………ぎゃー!!!!」
訳も分からず飛び上がったエリシアは、扉を見つけて思わず飛び出していた。
「エリシア!」
しかしそこには、見知らぬ青年が二人。ソファで寛いでいたようで、エリシアを見ると目を見開いた。
え!?
誰!?
というかここどこ!?
パニック状態に陥ったエリシアと視線の合った青年二人もまた、この状況に目を見開いていた。
「え、あの時の…?」
亜麻色の髪の青年は「わお、良い体してるね」とにこやかだったが、ピンクブラウンの髪の青年はすぐに顔を逸らしてしまった。
自分の体を見下ろすと、人に見せない部屋着のため膝上丈な上に、胸元がはだけて谷間が見えていた。
「っきゃあー!!!」
「エリシア!」
部屋から飛び出してきたらしいデリックにシーツで包まれて、とんとんと背中を押して宥められる。
「何で出て行くんだ」
「何でもかんでもない!!
ここどこ!あの人たち誰!デリックは何で服を着てないの!」
エリシアの言葉に青年二人…ギルバートとターナーは「「え…」」と二人して困惑した。
「何も言わずに連れてきたのか?」
「置き手紙は残してきた」
「でもレディの了承がないならただの誘拐だろう」
まさに昨夜カーライルに言われたことが現実となった。
誘拐!?
しかもベッドってことは……。
エリシアはハッとしてデリックを見上げた。
「ん?」
「………私、昨夜のこと……何にも覚えてないんだけど…」
「…ああ、何もしてねえよ。連れてきただけだからな」
手は出してない、偉いだろ?とでも言いたげな誇らしげなデリックに呆れて物も言えなかった。
「俺たちは何を聞かされてるんだ」
「全くだ」
「おーいデリック、後ろ見えてるぞ〜」
ギルバートは揶揄うようににやにやとしている。
まさかと思いエリシアがデリックの身なりを確認すると、前こそエリシアを抱きしめて隠れているものの、一糸纏わぬ姿でいた。
「服を着て〜〜〜!!!!」
エリシアに触れてほしいデリックら、わざと服を脱いでエリシアを抱きしめていたのだった。
「…これでよし」




