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要介護勇者が往く! ~立てもしない2週目最弱勇者が魔王を討伐するそうです~  作者: 目傘アカナ
第1章 後編 ~要介護勇者、王領都市で暴れるの巻~
49/60

その晩、事件が起こる 前編

んぁぁああ!

お待たせしましたぁぁぁあああ!

今日より投稿再開!

初回は事件の導入から、どうぞ!

 ――夜。

 清潔だが決して贅沢ではない客間の中で、チロチロと揺れるホムラホタテの灯明皿に灯る火が壁に映したるは二つの影。


 『孫の仕事』

 その影絵にもし名前を付けるのならば、こんなタイトルが相応しいのだろうか。


 今日も今日とて教会を寝床とする二人である。

 本当なら『勇者と聖徒』と行きたい所だが……そう大層な言葉を与えられそうもない。

 何をどう取り繕っても、そこにあるのは匙を顔に近づけてやる影とそれに食いつくでもなくただ口に入るのを待つ影だ。 


「ほら、もっと口を開けてください」

「んががごご……」


 迷惑を掛けていると言う意識から控えめにちょこんと座椅子に腰掛けるキーセラに対し、カサギはそこが我が城と言わんばかりの堂々たる姿でベッドに寝転がっていた。

 相変わらず不遜な男の口に運ばれているのは、もう見るからにマズそうな――見た目はほぼドブ、味は鼻水と遜色ない――スープ。


「うーん」


 いくらカサギの嗅覚や味覚が鈍いからと言って、これじゃあんまりだ。

 何よりげっそりと疲れた様子のカサギにこれを食べさせるキーセラの罪悪感たるや相当の物。


「早い所食べ物をどうにかしたいですね……」

「味に関しちゃあ何だっていいが、栄養の方なら大賛成だ。さっさと旅の足を手にして優雅に料理人でも探すとしようじゃあないか」


 カサギは首を縦に振って口に突っ込まれたままのレンゲを上下に揺らしてみせた。


「……意外ですね、ご飯とか疎かにしてるイメージですけど」

「おめーと来たらまたバカなことを……いったいこれまで何を見ていやがったんだァ?」

「え、何でしょうか……滑稽な姿?」


 ぼそりと告げられた悪口にも怯むことなく「たはぁー」とわざとらしく肩を竦めるのみ。


「なんですか」

「贅沢なヤツ。おめーが居るのはこのカサギの『知略』を間近に見れる特等席……人によっちゃあ感銘のあまり涙するところだっつーのによーォ」

「感銘と言うか完全に迷惑ですよ。……どうしました? いつにも増して間抜けな顔をして」


 呆れたように言えばそれを呆れられるのがいつもの流れなのだが……よもや重ねて言い返されるとは思っていなかったカサギ、落としかけたレンゲと気を取り直して続けた。


「まったく、純真だったころのキーセラが遠い昔の出来事のようだぜ。残念でならねーな、おい」

「さぁ? 誰に似たんでしょうか」

「ケッ、聖徒から人柄の良さを取ったらあとは何も魅力が残らねーじゃあないか。それに……」


 そう言ってカサギはある一点を見下ろし……ハンッと鼻を鳴らした。


「オンナの魅力はそもそもない事だしよォ」

「……私から人柄の良さを取ってもカサギへの怒りだけは残ることが今決まりましたよ」


 世が世なら吊し上げられてもおかしくない発言に、ダークな微笑みを浮かべて拳を構える姿は……確かに僧侶には見えない。

 これにはカサギもたじろいで……だが、貧弱さのあまり大して動けずにいる。


「よし、分かった。だからその拳を降ろそう。争いは嫌いだ」

「むしろ好きなのでは?」

「あ、あぁそうだ。好きだ。ついでに言えば別に貧乳も嫌いじゃなべらぶばッ!」


 余計な一言を告げたカサギに制裁をくれてやり、拳を解いたキーセラが度重なる心労にため息を零して呟く。


「カサギに言われっぱなしなのも腹が立ちますし、かと言って毎度反応してると本当に気にしてるみたいですし……嫌な板挟みです」

「板挟みが嫌か? それは同族嫌悪だろーぜ。何たってキーセラの前世はまな板に違いないのだかふぁ…おひ、顎をつまふんふぁあない」


 犬の下顎でも掴むかのようにして頬をぶにぶにと挟み込みながら、キーセラはカサギの密告で兵士に連れて行かれた少女――――ヒッツミハットコの身を案じた。

 確か彼女はカサギと『ハナビラ商会を潰す』などと怪しげな企み事をしていたはずだが……。


 カサギと新聞記者と話していた内容も不明だ。

 基幹道を封鎖する原因となった吸血鬼の魔族についてもまだ分からないまま。

 

 キーセラが知っているのは『ビリーの精神状態と家計の立て直し』『勇者である事の公表』くらいのもの。

 王領都市を訪れたそもそもの目的である『旅の移動手段の確保』に関しても、実際に何を用意するつもりなのか知らされていない。


 これはカサギが秘密主義だからではなく、ただ単にキーセラへの説明を面倒がり、同行者に果たすべき責任を放棄しているだけだ。

 ……キーセラを驚かせたい、と言う幼い嗜虐心も少しはあるのだろう。

 

 そんな訳で、何も知らないなりに頭を働かせてカサギの次の行動を予測しようと試みるキーセラだったが……。

 

「ん?」


 顎を掴む手がストンと落ちたのを見てカサギが顔を上げると、そこでは椅子に座ったキーセラが前傾姿勢の中途半端な体勢のまま瞼を閉じていた。

 少し遅れてくぅくぅと穏やかな寝息聞こえてくる。


「あぁなんてこった、あってはならないことだ……」


 連日の不幸で心だけでなく体の方も疲れていたらしい。

 ただカサギが嘆いているのはその軟弱さではない。


「清潔な布団で寝れるせっかくの機会だっつーのによーォ」


 スープを食べさせてもらう為に布団を背中に挟んで身を起こしているカサギだが、自分ではそれをどかす事が出来ないのだ。

 致命的に軟弱なそいつはタハァーとわざとらしく息をつき、それから静かに瞼を降ろした。


 いくら自分本位なカサギと言えど、自分のせいで疲れているキーセラを起こすか、またはヘタに動いてあの超人的な魔力の制御を誤り客間を壊すか、その二つしか選択肢がないのならば一晩の睡眠環境くらい諦めることもある。


 カサギの体にも疲労が――おんぶで王領都市を連れ回されただけだが――溜まっており、幾ばくもしない内に眠りへと落ちて行った………。

少し前に日本に帰ってはいたのですが、公募用の小説(14万字)に思いのほか時間を取られ、気づけばこんな時期になってしまいました。

しばらくは不定期に投稿し、ストックが溜まり次第、定期投稿に戻したいと思います。

宜しくお願いします。

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