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要介護勇者が往く! ~立てもしない2週目最弱勇者が魔王を討伐するそうです~  作者: 目傘アカナ
第1章 後編 ~要介護勇者、王領都市で暴れるの巻~
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小さな体に秘めたるパワー

 ままはな。

 掲げているキャッチコピー「生まれたままを、解き放て」が店名の由来なのだと言うその店では……店主が客の手を捻り上げていた。


「わたくしの服のっ、どどどどどどどこが気に入らないのですぅうう!?」

「いたいっ! いたいわよ!」


 それだけでも十分酷い上に、理由は自分の作品を貶されたからだと言う。

 しかもその酷評も、「お任せオーダーメイド」と銘打ったのをいいことに店頭にある服とは全く違うテイストの服を出したから、という至極真っ当な怒りから来るちょっとした弾みによるもの。


 だと言うのに、怒りで二つ結びのおさげ髪を根元から立ち上がらせた彼女――マナシィは鉱人(ドルワーフ)特有の小さい体に秘めたパワーでもって、当然の権利のように哀れな被害者に問い詰める。


「そ、ちらのデザインは、わたくしが十年掛けた集大成なのですぅ。スケスケトウダラの鱗を魔道具のバーナーで少しずつ曲げて合わせて、わたくしの美の理念を完全再現させた……よ、よければぁ、参考までにぃ、どの辺りがひひひ……ひっひっ、ふぅーっ『ひっどい服』なのかご意見を頂ければ、さ、幸いですぅ」

 

 先ほどよりは落ち着いたようで口調こそ戻っているが、呼吸は荒く、こめかみには青筋が立っていた。

 だが客の方も生まれつき気の強い女性なのだろう。


「ど、どの辺り、ですって? もちろん全部に決まってるじゃない。言ったおいたはずでしょ。私は情報魔術師(ニュースキャスター)。街中で放送をすれば周りに人も集まってくるのよっ」


 気圧されながらも言い返す内に怒っていたことを思い出してきたらしく、段々とヒートアップしていく女性。


「それなのに。それなのに! こんな服を着れるわけないじゃない!」


 彼女が情報魔術師(ニュースキャスター)だと言うのはどうやら本当らしい。

 職業病のような物なのだろうか、彼らが得意とする言霊の技法――言葉が魔力を帯びて力を持ち、魂に効果を発揮する魔法――の一つ・潜思挽考(せんしばんこう)の術を無意識の内に使ってしまっていた。


「こんな服……?」


 潜思挽考(せんしばんこう)の術は言葉に強迫性を持たせて、しばらくの間、その単語を狙った者の頭から離れなくする魔法で、掛かり具合によってはそれを実現または解消しようとして行動に移すこともある。

 例えば心の弱った者に根気よく「自殺」の二文字を与え続けたなら、三か月後もする頃には本当に首を吊ったりする、そんな危険な術。


「こんな服……………………」


 とは言え、意図せずに使った魔法はほとんどの場合失敗するものだ……が今回は違った。

 憤怒でマナシィの魂にぽっかり空いた隙と、意思や主張に反する考えであればあるほど効き目が高くなるという術の特性とが悪戯し、不完全ながらも魔法が成功してしまった。


「こんな服……こんな……こんな服…………」


 今、マナシィの頭の中には「こんな服」という、自分で思っても無い言葉がぐるぐると回っていることだろう。

 そんなマナシィにキャスターが「えぇそうよ」と続ける。


「もっと言ってあげるわ。こんな、センスが無ければ袖を通す価値すら無い、焼却処分がお似合いどころか燃えカスも同然の、世に二つとないんじゃなくて二つもあっちゃならないくらい、品性に欠けたダサい、服! こんな服着たら人前に立てるはずがないでしょ!」


 今度は魔法ではないが……そのダメ押しは意外なほどマナシィに効いた。


「こんな……こんな……」


 立ったまま催眠術に掛かったかのように――首と腕は脱力してダラリと、目は寝ぼけたようにトロンと、足はその場でよたよたと――して時折「クヒッ」と笑いを零すマナシィ。

 キャスターはそれを見るなり腰に手を当て「分かってもらえたかしら」とすっかり終わった気になった。


 だが、彼女の性格を知るキーセラたちはその静けさに逆に恐怖した。


「あぁ、マズい。こりゃあもうトビキリにマズいぜ」

「私も何だか悪寒が……」


 幾度も試行錯誤を重ね、ようやく見つけた自分の、自分だけの作品。

 それを一蹴されてキレ散らかしたいはずなのに、なぜか自分でも「こんな服」という言葉を頭から拭えない。


「こんな、こんな、こ…んな……………………」


 居ても立っても居られなくなったマナシィが植え付けられた強迫観念を振り払おうとして出した答え、それは――


「こん、な……こん……な………こ……な……………コノオンナ、ブッコロシタラァっ!」


 ――貶した本人を亡き者にすることだった。


「え。な、なによっ!」


 幽鬼のような足取りでカウンターに駆け寄り、そこにある裁縫箱から取り出した裁ちばさみを握り込むと、それを腰だめに構えてキャスターに突進していき……、


「そこまでです」

「アブバッ、ッガグ」


 眼前に差し出された杖にぶつかってすっころげ、床に後頭部を打ち付けて意識を失った。

 何だか見覚えのある、それもつい一昨日の夜辺りに見た気のする倒れ方だ。


 ヘタリと座り込む情報魔術師(ニュースキャスター)、仰向けで白目を剥いて倒れた鉱人(ドルワーフ)、自分の背から落ちたまま動けずにいる勇者。

 杖を引っ込めたキーセラはそれらをグルリと見回したあと、


「どこ行ってもこんなのばかりなのでしょうか……」


 自分の胃に法術を掛けながら、やはりほぅっと深いため息をついた。

【tips スケスケトウダラ】

スケトウダラの魔物、体長3m。

個体ごとに色の違う透明な鱗と空を飛ぶための三つの背びれが特徴。

普段は海中にいるが、繁殖行動の際はつがいで群れを離れ、文字通り浮上、海上で繁殖行動に勤しむことからスケベトウダラとも呼ばれている。

卵巣を加工した明太子は一腹(ひとはら)で優に100食分賄えるサイズを誇る。



「自分の好きなものを独占したい」のが同担拒否。

「自分の好きなものは皆に好かれて欲しい」のがマナシィ。


この小説のURLを書きつけた紙を「お客様の声」の箱に入れてやりましょう。

効能:経営者が顧客のニーズを見失い、業務が破綻する。

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