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要介護勇者が往く! ~立てもしない2週目最弱勇者が魔王を討伐するそうです~  作者: 目傘アカナ
第1章 中編 ~要介護勇者、王領都市に向かうの巻~
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キーセラの逃走とカサギの闘争

「追えぃ! 女の走力に負けるな!」

「おいおいひでぇ言いようだなーッ! なら追いついてみろっつーんだよ、この間抜けがァッ!」

「えぇっ、なんで挑発するんです! せめて静かに運ばれててくださいよっ」


「川へ逃げるぞ、追い込め!」「ヒャッハー!」

「ヤツら中々に根性があると見た。まだまだ元気そうだぜ」

「勘弁してほしいですね……」


「ぎゃー!」「り、リーダー! 奴らさっきのジャンプで今度は魔物を飛び越えました! 数人が魔物に蹴り飛ばされてます!」「大きく迂回しろ。急げ、奴らを捕らえて火炙りにするんだ」

「なんだってこうも諦めねーんだァ?」

「本当に、勘弁して、ほしいですね……」


「あれ、撒けましたか?」

「みたいだ……ぜ?」

「「「バルルルルッ!」」」

「次は魔物だァア!」

「本当にもう……」




 森を突っ切り、丘を乗り越え、道なき道を駆け抜けて。

 ようやく官営を振り切ったのは、チェイス開始から三時間後のことだった。

 途中カサギのジャンプを四回ほど挟みつつも、基本的にキーセラのダッシュ一本で行われた逃走劇。


「はぁっ、はぁっ……なんで…はぁっ……こんな、目に…………………」


 これには流石のキーセラも参った様子だ。

 息も絶え絶えになって「いつか同じだけの苦しみを肩代わりさせてやる」と言わんばかりの眼つきでキッとカサギを見ている。

 キーセラが必死に走っているというのに、棺桶の中でのんべんだらりとしているどころか、挑発までしていたのだからそれも当然だろう。


「……あの必死さだと結構な懸賞金がかけられてるかもですね。今度街に入る時は気を付けておかないと」

「大方俺たちによく似た奴らが手配されてるんだろーが、とんだ大迷惑だぜ。官警があんなだなんて、これぞ世も末って感じだ」


 深く息を付き、それから思い出したかのように顔を上げた。


「よォキーセラ。がたがた運ばれて腰がちょぴり重傷だ。治してくれるか?」

「……カサギが勇者なのも十分に末ですよ、世の」

「末は末でも末広がりだろーぜ」


 キーセラはカサギの背中に治癒を掛けてやって息を整えると、今一度辺りに視線を走らせた。


「………ちなみにあと何回くらい跳べますか?」

「どうだか。明日動けなくなってもいいのなら五回までは保証する」


 まだ安心できる訳じゃなかった。

 背後には深い谷。

 前方にはヌーの魔物、ヌーイヌー。

 二人は見事に追い詰められていた。


 本来こんな「森なんだから」と言わんばかりの風景の中に居ないはずのヌーだが、魔物に成れば話は別だ。

 雲を泳ぐクジラの魔物がいれば、ジャングルの樹上に巣を作るアザラシの魔物だっている。

 カサギ達は冒険の中で、砂漠に潜るエイの魔物や流氷を舐めて生きるカブトムシの魔物など、新種を多数目撃していた。


 どんな地形、どんな気候でも生きていけるのだ。

 そして生殖能力が下がる代わりに寿命の概念は希薄になり、五百年を生き抜いた魔物はそこを境に伝説級の強さになる。


 しかし、ほとんどの動物は魔物に成ると気性が荒くなり同種族でも平気で殺し合う。

 燕のような独り立ちが早い生き物は元より、象のような巨大な群れをつくる生き物であってもその数を大きく減らしてしまう。


 今、切り立った崖を背にしたキーセラを威嚇するヌーイヌーたち、その数五匹。

 体高2メートル、体長3メートル、体重400キロはある体を低く構え、後ろ足でザッザッと砂を蹴っている。

 頭のコブから横に張り出し、天に刺すように生えた二本の角の大きいこと、鋭いこと、殺傷力は言わずもがなだろう。


 ヌーイヌーの群れは、「Hハンター(アングラー)協会」が独自に決める解決難度の指標、モンスター階級ランクで言うところの二等星級だ。

 これを真っ向から討伐できるのは、街一つに二組あるかないかと言う凄腕のパーティたちになる。


 とにかく、そんな魔物・ヌーイヌーが、官警を撒くための障害物にしようと飛び越えたカサギたちに怒りを覚えたらしく、こんなところまで追いかけて来たのだ。


「ヤツらソートーにキレてるぜ」

「えぇ、そうみたいですね」


 カサギという荷物を持っていながら男達を置き去りにしたことから分かるように、キーセラの身体能力はかなり高い。

 事実、神興都市を追い出されてからカサギに会うまでの間に、二回ほど小規模な野盗に狙われたが、杖での殴打と逃げ足で襲撃を躱している。


 だが、得意とする法術はあくまで支援。

 純粋に力のある者と組んで初めて実力を発揮する。

 今回のようなパワー特化のタイプは苦手中の苦手だ。


 しかもどういうつもりか、カサギが指示する方に走っていたら、突然森を抜けて崖に出てしまい、逃げ場がないときている。

 魔物としては中級なのだろうが、まともに戦えばじり貧だろう。


「カサギのジャンプ五回で足りるかどうか……」


 早々に訪れた時間転遷の可能性に頭を抱えていると……、カサギがニィっと不敵な笑みを浮かべた。


「いーや。あえて予告しておこう。ジャンプは一回、だ」

「……? ちょっとやそっと離しても追いすがってきそうですよ?」

「それは逃げたら、のハナシ。もう終わる」

「……はい?」

「おいおい、俺は機転の勇者と呼ばれた男だぜ。何も考えずに追い詰められる方向に走ったと、本当にそう思うか?」

「走らされたのは私ですなんけど……」


 それに、機転? その突発的な思い付きのせいで魔物に追いかけられたんじゃ……キーセラが考えてることに思い至ったのか、そこを突かれては痛いカサギが、


「おっと、無駄話をしてる暇はねぇぜ」


 何も言われぬうちに体へと魔力を巡らせた。

 常人が持てる数十倍の量の魔力が非効率ながらも、カサギの貧弱な筋肉を制御できないほどに強化していく。


 そして、緑色の奔流を纏ったカサギが、


「おいクソ牛ども、たんと見ろ!」


 棺桶に寝転がったまま――その右足を天に向かって蹴り上げた。

iPhoneを持っていない友人を狙ってこの小説のURLを送り付けてやりましょう。

効能:Xperia勢が特に異常なくページを読み込んでいるところを見せつけてきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] キーセラとカサギのコミュニケーションが本当に楽しいです!たまに相性がいい訪問介護さんなどもこんなふうになるなぁ、とすごく思わされます。でも、なかなかこういう優しくて頼り甲斐のあるケアラーさん…
2023/02/05 19:23 退会済み
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