三日坊主は悪いことなのか否か
隣の二階堂さんには変な癖がある。
考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
最近では彼女が何かに煮詰まってきている時にお茶に誘って話を聞くことをあたしも夕凪も楽しみにしている。
………………。
あれ?
今夜は音が聞こえてこない。
留守ではないはずなんだけど……。
夕凪は残念そうにあたしを見る。
あたしは夕凪に言った。
『お茶にでもしようか。お姉ちゃん、呼んできてくれる?』
別に壁を叩かなくても二階堂さんとのおしゃべりを中止する理由にはならない。
――――――――――
登山に行った影響か……
筋肉痛がしんどい。
だからついついジョギングをさぼってしまった。
痛さが消えたらやろうと思っていたのだが、痛いのがなくならないのでやっていない。
痛いという感覚は身体が不調を訴えているサインなのだ。
無理は良くない。
だからさぼったと一瞬思ったけど……断じてさぼりではない。
そんなことを言いながら……ジョギングは三日坊主になってしまいそうな勢いだ。
でも三日坊主ってそんなに悪いことなんだろうか。
三日続いたんだから良いじゃないか。
ふとそんなことを思いながら筋肉痛の身体に鞭打ちながら晩御飯を作る。
痛い……。
特に太ももとか腰とかが痛い。
痛いというか……もう辛い。
出来る限り動きたくない。
でも動かないと晩御飯が食べられないので頑張って動く。
あたし頑張ってるよ。
偉い。
自分を褒めてやりたい。
もう三日坊主でいいじゃない。
よく頑張ったよ。
たまには玉子焼きが食べたいと思ったので作ってみた。
玉子が焼けた甘くて独特のいい匂いがする。
痛いのを我慢して作ったかいがあった。
それにしても三日坊主はなぜ悪いことのように言われるのだろうか。
あたしから言わせれば運動嫌いのあたしが走るという行為を始めただけでもすごいことだと思う。自画自賛で大変恐縮だが、あたしにとって身体を動かすということは、普通の人の3倍しんどいことなのだ。
何といってもモチベーションが上がらない。
大体、なんでわざわざ疲れるようなことを貴重な時間を使ってやらなければならないのだ。
何の目的もなく走って……一体何が楽しいのだ。
子供じゃあるまいし…。
そういえばお隣の夕凪ちゃんはよく走る。
よく考えてみれば夕凪ちゃんに限らず子供はなんだかよく意味もなく走っている。
しかも全力疾走だ。
生きる力がみなぎっているのかもしれない。
年を追うごとに走らなくなるのは大人になって落ち着くからだけではないだろう。
躍動するような生命力が自分のうちになくなるからではないだろうか。
でもなあ…。
あたしは昔から走るのが嫌いだった記憶がある。
『真面目に走れ!』
体育の授業の時に先生から怒られたこともある。
涙が出るのを必死でこらえた。
いや……真面目ですけど何か……と言いたかったのを我慢したのが昨日のことのようだ。
そもそもあたしは鈍足なのだ。
たまたま双子の姉が運動神経抜群で……あたしは生まれたときに運動神経というものをすべて彼女にとられたからこういうことになっているのだ。
颯爽と走る姉をみれば同じ顔の妹が走れないわけないと周りは誤解するのだろうけど……。
別にふざけていたわけではない。
鈍足なら鈍足でも人と比べることなく自分のペースで走ることができれば楽しいには楽しい。
でもしんどい時にわざわざ我慢して走るのは嫌だ。
やっぱりあたしは身体を動かすのが嫌いなのだ。
嫌いなことをするのはストレスが大きいし、絶対に身体に良くない。
いや……でも辞めたら太ってしまう。
それは絶対に避けたい。
う――ん……。
考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。
ん?
今日は痛いから台所から動いていないのでやらかしていないはず……。
まあ……お茶の誘いは嬉しいな。
甘い玉子焼きでも持って行ってあげよう。




