最低（最高）な修学旅行
そもそもの始まりはなんだったのか……今となってはもう覚えていない。
確かなことは俺がいじめられたのは1年の12月からだってことだ。
今まで友達だと思ってたやつからも浴びせられる罵倒、被害者にも加害者にもなりなくないやつの冷めた目線、そして破かれる体操服や教科書、俺は忘れない……
「晴れてよかったー！」
「明日どこ行く？」
「ヤベー忘れちゃったよ」
「みんな静かに！」
騒がしい、それもそのはずだ。
高校の修学旅行ってのは一度しかないからだ。
まぁ俺にとっては地獄でしかないけどな。
教師はクラス全員がバスに乗り込んだか確認を取っている。
「せんせー！哀田がまだきてませーん！」
始まったよ
「ん？哀田はいなかったか？おーい哀田！出席番号1番の哀田剣牙はいるかー！」
内心ため息が出る。こんな非生産的な行動に何の意味があるんだ……
「はぃ」
「おぉいたか。だけどな哀田。返事はなるべく大きく頼むぞ」
「すいません、気をつけます」
さっき俺がいないと嘘をついた女子生徒はこちらを見てニヤニヤと笑っている。
どうしようもないな、本当に。
これが三日続くのは流石に憂鬱だ。
どうしてそれなのに修学旅行に来てるのかと言われれば……なんでだろうな？
確認も終わりバスは目的地に向かって出発した。二時間はかかるらしいので俺はさっそく眠りについた…
異変を感じたのは2回目のSAを出発する時だった。
担当教師を乗っけずバスが出発したのだ。
「なぁ、前田まだ来てなくね？」
「あ、そうじゃん。運転手さーんまだせんせーが来てないです」
前の方でそんな会話が聞こえた
しかしそんなことを気にも留めずSAをバスは出て行く
「ねぇ、ちょっと」
「おい！止めろって！」
前の列の数人が運転手の方に抗議しに行った
「キャァァァァア！」
「な、なんだよ！コイツァ！」
前の方から困惑と悲鳴が聞こえる
一体なんだ。後ろからは様子が見えない
そうこうしてるうちにトンネルから光が……トンネル？
そもそもいったい何時トンネルに入ったんだ？
俺がその答えにたどり着くより早くその光は俺の意識を刈り取った
「……きて……ねぇ、……ください。スゥ……起きてください！」
「うわぁ！」
不思議な声に起こされる。耳元ででかい声を出さないでくれ……
「起きましたか？」
目をこすりながら相手を見る。
ぼんやりとした中に光を放つ人影が見える。
「え、えぇ……」
なるほどな、ここは天国か
目の前に立つ人物は布を纏ったような服だったが下品ではなくむしろ品位を感じられるほどだった。
そしてなにより後ろから光が射している。
「それで、ここは天国ですか？」
俺がそう聞くとカミサマは
「違いますよ？」
質問を質問で返すなと
「だったらここはなんです？明らかに俺の住んでいた場所ではないでしょ」
「ここはですね……あなたのいた地球とは違う世界です。あなたたちのクラス40人を招いたのは他でもありません。」
「え……？40人？」
話の腰を折るようで申し訳なかったがついつい言葉が出てしまった。
「えぇ、実はこの世界の魔王を倒していただきたくて……」
カミサマ（仮）は後のように続けた。
この世界は『ヘンドリーズ』
転移者はわりといるらしい。
今回魔王を倒せるレベルの転移者が見当たらずとりあえずクラス40人を転生させたらしい。
文化レベル自体は中世ヨーロッパに近いが、魔法やゴブリンとか天使悪魔が普通にいるようなよくあるファンタジー世界らしい。
「それで転移者特典でチートスキルつけられるんですが要ります？」
「そんなものがつけられるのかよ！例えばどういうのがあるんですか？」
「えー、身体強化や魔法創造、各種キャンセル、経験値10倍、無敵や達人スキルなどなどですね。ちなみに哀田さんは1人目です」
「ここだけの話なんですが時間がなくて詳しくお話しできるのは貴方とか最初の方の人だけなんですよね……」
「どうして俺が最初なんです？」
「順番に関しましてはー私もどうしたものかと考えまして、あなたたちのバスを漁ってたら出席番号ってものがあったのでそれの一番上の貴方を呼んだんですが……なにか問題でも？」
問題？とんでもない！？これほど1番だったことを喜んだ日はない！
1番であればこれからやろうとしてることをバレずに出来るじゃないか！
「いえいえ、むしろ問題なくて小躍りしそうです。じゃあこんなのとかできます？」
思いついたチートスキルをカミサマに伝える
「えぇ？できますけど……いいんですか？」
「それが、いいんです」
それがいいのだ。
いじめた奴ら、無視した奴ら、俺はこの世界でお前らに復讐してやる！
