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フラスコの中の少年 ――異世界で過ごす夏休み!――  作者: 奥野 丁路
第四章【第十空中都市メルクリウス】
11/25

01

「さあ、どうですか皆さん! 本日ご用意したホムンクルスは耐用年数三十年のお買得品ですよ! 必要な維持費は彼らの食費のみ! お勧めです!」


 整った顔立ちの金髪の青年――フィードがよく通る声を張り、来場者に呼び掛けている。

 庭園には様々な外見のホムンクルスがロープで繋がれ、来場者達が興味深そうに眺めている。


「彼らの知能はどの程度なんだね?」

「はい! 共通語を理解できるように精製してあります! ここから何処まで成長するかはお客様次第です!」


 来場者達が驚きと興奮でどよめいた。人造生物であるホムンクルスは人語を解せぬものが大半なのだ。『刻印』による制御以外も可能ならば、主人以外でも楽に制御出来る事になる。


 館の庭園には十体のホムンクルスが繋がれており、どれもみな愛らしい姿だ。

 多数の来場者は誰もが仕立ての良い衣装に身を包み、上流階級の雰囲気を漂わせている。


「パパー、私この子がいい!」

「おお、そうかそうか。……うーん、だが少し大きすぎやしないか?」


 少女より一回り以上大きなホムンクルスは大人しく寝そべっている。

 外見は艶のある長い獣毛を生やした四本脚の大型犬のようだが、犬との明らかな差として、頭部に一対の大きな角を生やしていた。また、爪先も蹄になっており、まるで羊と犬を合成したかのような姿だ。


「これはお目が高い! この子は穏やかな性格ですので、お嬢様が背中に乗る事も出来ますよ! もし良ければ、お試しになりますか?」


 フィードがセールスポイントをアピールすると、少女は目を輝かせた。


「パパ! 私、のってみたい!」

「し、しかし……危険はないのかね?」


 父親が不安そうな表情を見せるが、フィードはにっこりと笑顔を浮かべた。


「大丈夫! ホムンクルスが暴れる事は決してありません! ただ、お嬢様が背中から滑り落ちて怪我をしてしまう可能性はありますので、専用の乗具を用意いたしましょう!」


 そう言うと、誰かを探すようにキョロキョロと周囲を見渡した。


「イオリくん! こちらのお客様が騎乗を御希望だ! 乗具をお持ちしてくれ!」

「は、はい! すぐに用意します!」


 声をかけた先にいたのは、すっぽりとローブに覆われたスタッフ。空になったグラスや皿を回収している所だったが、フィードの呼びかけに返事をすると乗具を取りに駆け出して行った。


「お客様、お待ちになる間に、よろしければ……」


 そういって現れたのは、長い桜色の髪を後ろで束ねたメイド服の小柄な少女。

 桜色の瞳の少女が持ってきた盆の上には、フルーツジュースとシャンパングラス、そして焼き菓子が乗せられている。


「ありがとう、おねーちゃん!」


 無邪気な笑みを浮かべてジュースと焼き菓子を受け取る少女。

 だが、スカーフを巻いた襟首からわずかに覗く赤い『刻印』に気付き、父親の方は驚いたようにメイドの少女を見ている。


「き、君! まさかとは思うが、この子も……!?」

「おっと、お客様。申し訳ないのですが、この子は本日の商品には含まれておりません」


 父親の言わんとしている事を察し、フィードが先に断りを入れた。


「……言い値を支払わせていただく、と言ってもかね?」

「さて、金額の問題では無いのですが。……どうしてもこの子が欲しいと?」

「無論だ! 私も人型ホムンクルスを扱う商売をしているが、これほど出来の良いホムンクルスなど今まで聞いた事も無かった!」


 一度は拒否したが、父親の熱の入りようはそれでは収まりそうにない。


「メモリア、こちらの紳士が君を買い上げたいと言っているのだが、どうだろう?」

「決して不自由はさせない! 娘の話し相手になってはもらえないだろうか!?」


 メモリアは、驚いたように相手をしていた少女から視線を上げる。

 愛らしい容貌と桜色の瞳に見つめられ、父親が少したじろいだ。


「申し訳ありませんが、私の主は既におりますので……」

「お客様、このように申しておりますので、お諦め頂けないでしょうか」

「それなら、この子の主とやらに直談判するまでだ! それで、君が主なのかね? もし別の人間なら連絡先を教えてくれ! この子ならいくら出しても惜しくないぞ!」


 引く気配の無い父親に、フィードが困り顔で頬をかいている。


「本人と交渉、ですか……うーん、やめておいた方が良いと思うのですが……」

「いいから答えたまえ! この子の主は誰なのかね!」


 フィードは答えを渋るが、それでは納得しそうにない。とうとう諦めて口を開いた。


「ミネルヴァ=ウォルンタース=ニゲルセプス……名前を聞いた事ぐらいはあるかと思うのですが……本当に、お会いになられますか?」


 その名を告げられた途端、父親の顔から血の気が失せた。


「……どうぞ、こちらにおかけ下さい」


 メモリアが椅子を父親の後ろに用意すると、力が抜けたようにへたりこんでしまった。


「す、すまない……この話は無かった事にしてもらえないだろうか……」

「お客様がそう仰るのであれば――――」


 ――――不意に一陣の風が吹き抜けた。


「おいおい、せっかく出向いてやったのにそれは無いだろ?」


 何時の間にか褐色の肌の青年が現れていた。乱れた金色の髪と金色の瞳。鍛え上げられた屈強な肉体。他の来場者が白い肌と細い体なのと比較すると、その姿は明らかに異様だった。


 目立つその姿に他の来場者達もすぐに気付き、驚きの声を口にしている。


「あれは……! もしや、ミネルヴァの天才道士……! これは驚いた、まさかメルクリウスに滞在していたとは!」

「全ての天道士の頂点と呼ばれる、五芒天道士ペンタグラムにまで上り詰めたという、あの……!」

「ああ、あの金色の瞳、間違いない……ミネルヴァ=ウォルンタース=ニゲルセプス殿だ! この十年、消息不明と聞いていたが……!」


 胸を張って得意顔のウォルターとは裏腹に、フィードは両手で顔を覆って項垂れている。

 なんてこった……と言わんばかりの姿を、メモリアが同情するように見ている。


「今日のホムンクルス達は俺が精製した、いずれ劣らぬ逸品ばかりだ! 品質は俺が保証しよう! 安心して購入するが良い! 遠慮はいらんぞ!」


 その宣言を聞き来場者は色めきたった。ウォルンタースは当代一の天道士といわれている。その天才が精製したホムンクルスを手頃な値段で購入できるのだ。これを逃す手は無い。


「おい、君! 私はこれをもらうぞ!」

「私はこれを! それと、こちらもいただこう!」

「待たれよ、一人で二体はいくらなんでも欲が過ぎるだろう! こちらに譲りたまえ!」

「なにを――――!」


 先程までの優雅な茶会の雰囲気が一転して修羅場のそれへと変わっていた。フィードは両手で顔を覆い、メモリアはおろおろと戸惑い、ウォルターは満足そうにそれを眺めている。


「――――お静かに、お客様」


 落ち着いているが凛とした声が響き、客達の騒ぎがピタリと治まった。

 フィードとよく似た外見の女性――グラティア。豊かに膨らんだ胸元と目元の雰囲気を除けば、瓜二つと言って良いほど似通っている。


「購入についてはこちらでお伺い致します。それと、来場規約に『購入はお一人様一体限り』と記載してあります。お守り頂けますね?」


 有無を言わさぬ冷徹な口調に、客達も素直に頷くしかなかった。

 治まった騒ぎにつまらなさそうに鼻を鳴らすと、ウォルターは父親へと向き直る。


「――それで、あんたは俺のメモリアを気に入ったそうじゃないか」


 椅子に座ったまま、父親は青い顔でかたかたと震えている。

 娘はメモリアが相手をしており、父親の様子には気付いていない。


「召使いが欲しいのか? それとも妾か? なぁおい、言ってみろよ……」


 凄味のある声で詰め寄るウォルター。慌ててフィードが制止する。


「ウォルンタース殿! もうその話は終わったので――――」

「黙ってろ、フィード……終わったかどうかは俺が決める」

「わ、私は……ただ、娘の話し相手になればと……そ、それだけで……」


 絞り出すような声で、どうにか説明する。だが、ウォルターはそれを鼻で笑い飛ばした。


「ハッ! 昼は娘の相手、夜はてめぇの相手か? モノは言いようだなぁ、おい?」


 蔑むようなウォルターの言葉に、父親が弾けるように声を上げた。


「ち、違う! 亡くなった妻の代わりに、せめて寂しさを紛らわせてやりたいと!」


 言ってからウォルターが眉を寄せた事に気付き、父親の顔がさらに白くなる。


「パパ、私はさみしくてもがまんできるよ?」


 少女が首を傾げて父親を見ていた。


「だって、ママはいないけど、パパがいるもん!」

「――――っ!」


 父親は地面に膝をついて娘を抱きしめた。肩を震わせ、ぽろぽろと涙をこぼしている。

 娘から涙は見えず、苦しいよぉ、と言ってはいるが嬉しそうにしている。


「…………なあ、お嬢ちゃん。こいつの世話はお嬢ちゃんがするのか?」

「うん! 私がおせわするの!」


 ウォルンタースの問いに、少女が胸を張って答えた。


「そうか……」

「む、娘は関係ありません! どうか、娘にだけは!」


 目をつむり、何やら思案しているウォルターに父親が慈悲を願い出る。


「俺のホムンクルスはそうそう不具合を出しはしないが、世話をする上でわからない事は出てくるだろう。もし何か困った事があれば、フィードに言ってこい。メモリアを派遣してやる。……話し相手くらいなら付き合わせてやろう」

「っ! ウォルンタース殿……!」


 涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、父親が目を見開いた。


「……ただのアフターサービスだ。それと、あんたじゃなくてお嬢ちゃんのためだからな。勘違いするなよ」


 涙をぬぐい、頭を下げて感謝の意を示す父親。

 緩んだ空気に、フィードとメモリアが安心したようにホッと息をついた。


「あの、すいません……乗具を持ってきました」


 フードをかぶったスタッフが指示された乗具を持ってきた。


「おお、イオリくん、ちょうど良い所に! さ、お客様、こちらをお使い下さい」


 乗具を受け取ったフィードが手際よくホムンクルスに装着させる。


「のっていいの!?」

「もちろんです! さ、遠慮せずに、どうぞ」


 少女は顔を輝かせ、鞍のような乗具に駆け寄る。


 ――少女の長い髪がホムンクルスの鼻先をくすぐった。


『――ックシュン!』


 ホムンクルスが身体を揺らして大きなくしゃみをした。


「ッ!」


 驚いて肩を震わせたかと思うと、フードをかぶったスタッフが地面に倒れ伏した。


「君、大丈夫――――って、うわぁぁぁぁあああああ!?」


 助け起こそうとした父親が、突然叫び声を上げた。

 倒れたローブから溢れだしたのは牛乳のように真っ白な液体。だが、どろどろと粘性の高い液体は全く異質なモノだった。


「――――おい、なんだあれは!?」

「なっ、そんな馬鹿な……! 空中都市にスライムが入り込んだのか!?」


 父親の叫び声を聞きつけ、他の客達も集まってきていた。


「ったく、くしゃみ程度で気を抜きやがって……ほら再構成しろ、イオリ」


 慌てる客達を意に介さず、ウォルンタースは淡々とした口調でローブに指示した。


「う、うう……まだ昨夜の撹拌の感覚が抜けてないんですよぅ……」


 昨夜言われた通り朝には意識を取り戻したのだが、どうにも全身に違和感が残っていた。

 白い粘体はプルプルと震えると、ローブの中に潜り込んで行く。

 ぺたんこだったローブが再び人の形になり、ゆっくりとその身を起こした。


「す、すいません、お騒がせしました」


 眉を八の字にし、申し訳なさそうに頭を下げている。


「ま、まさか……! 不定形のホムンクルスなのか!?」

「これは……まさに前代未聞だぞ! ウォルンタース殿、それを譲っては頂けませんか!? 金ならいくらでも出します!」


 イオリの正体を察した客達がウォルンタースに殺到する。

 ホムンクルスは定型が常識だが、このイオリは不定型のホムンクルスだ。それだけでも高い価値があると言うのに、このホムンクルスには知性がある。


「悪いが、イオリは売り物ではないので諦めてもらうしかないな。こればかりはいくら金を積まれても譲れん!」

「で、では、別の不定型のホムンクルスを精製してはもらえませんか!?」

「そ、そうだ! 何もその個体でなくとも構わないのです! 別の不定形をオーダーさせてもらえれば……!」

「……残念だが、こいつの精製法は禁術に指定された。苦情はユピテルのクソ共に言ってくれ」

「な、なんと……」

「ユピテルの決定なら……仕方無い、か……」


 ウォルンタースの苛立ち混じりの返答に、客達も渋々頷いている。


「ま、今更禁術指定の一つや二つ、痛くも痒くも無いがな! とにかく、俺の精製能力がそこらの天道士の比ではない事はわかってもらえただろう。安心して購入してくれ!」


 客達から向けられる畏怖と尊敬の眼差し。それらにいささかも動じることなく、ウォルターは不敵な笑みを浮かべていた。





 客達がいなくなった庭園に夕陽が差している。商品のホムンクルス達は全て売り切れ、庭園に並べられたテーブルには客が食べ残した料理と幾つものシャンパングラスが残されていた。


「グラティアさん、もう片付けても?」

「そうね、暗くなる前にさっさと終わらせましょうか」


 グラティアに指示を仰ぐと、メモリアは片付けに取りかかった。ホムンクルスであるメモリア達だけに働かせず、グラティア達も片付け作業を手伝っている。


「フィードゥキアさん、グラティアさんも、片付けは私とイオリくんでやりますので……」

「何を言ってるんだ。僕達も手伝うよ」

「手分けした方が効率的でしょう? 暗くなるまであまり時間もない事だし」

「ったく、人手が足りないなら使用人でも雇えばいいだろうに……」


 大きな洋館と広い庭園。かなり広大な敷地だというのに、ウォルター、フィード、グラティア、メモリア以外の姿は無く、イオリは片付けのために洋館の中だ。

 さらにウォルターは椅子に座っているだけなので、実質働いているのは四人だけになる。


「ウォルンタース殿、お言葉ですがそのような余裕はありません。ご希望でしたら、もう一度当家の債務と債権と資産の状況を説明しても構いませんが?」

「う、ぐ……悪かったよ、金勘定に口出しするつもりはない」


 毅然としたグラティアの言葉に、げんなりとした表情でウォルンタースが折れた。


「すいません……現状ではウォルンタース殿の工房を維持するだけで精一杯で……」

「いくつか機材を手放して頂けるなら、すぐにでも使用人を雇い入れる事が出来ますが?」

「やめろ! 俺が悪かった! もう余計な口出しはしないから勘弁してくれ!」


 精製するホムンクルスの能力が高くなればそれに比例して必要な費用も上がり、単純な労働力が必要なら、使用人を雇った方が安価なのだ。


 ホムンクルスの精製もタダでは無い。精製に必要な機材や原料は非常に高くつく。自分で素材を調達して精製する事も可能だが、実験のたびにそんな事をしていたのでは時間がいくらあっても足りはしない。加えて、ウォルンタースの研究分野はホムンクルス精製だけではない。そこらの天道士とは比較にならない才を備えているが、それに比例して出費も大きいのだ。


 フィードとグラティア兄妹がウォルンタースの出資者になり、ウォルンタースは研究の成果を商品として提供する。これは一種の共生関係だ。


「グラティアさん、空きかけのお酒を厨房に運んでおきました。次は何をすれば?」

「ありがとう、イオリくん。メモリアとあなたがよく働いてくれるから助かるわ」

「……俺を見ながら言うな。俺は頭脳労働者なんだよ」


 人並み外れて恵まれた体躯の人間が言っても説得力が無いが、誰もそこには突っ込まない。ウォルンタースの頭脳が天才の域にあるのは周知の事実だからだ。


「それにしても……ああ、結局ウォルンタース殿が精製者だと明かしてしまった……」


 トホホといった表情でフィードが項垂れるが、直接本人を責めようとはしない。

 あくまでF&G商会製という形で売りに出したかったのだが、その目論みは脆くも崩れ去ってしまった。そのきっかけになってしまったメモリアが申し訳なさそうに頭を下げる。


「も、申し訳ありません、フィードゥキアさん、グラティアさん……私のせいで……」

「いいのよ、メモリア。あなたは何も悪くないし、ウォルンタース殿が動いたのも主人として当然の事なんだから」

「ま、何度も言ってる事だが……メモリア、お前が自分の意志で新しい主人を選ぶならそれで良い。だが、そうでないなら、俺は今の主人としての責任を果たすからな」

「私は! ウォルター様のものです!」


 何時になく大きな声でメモリアが主張した。


「ど、どうしたの、メモリア?」


 驚く伊織をよそに、メモリアは言葉を続ける。


「今までも、これからも! 私はずっとウォルター様のそばにいます! 新しい主人だなんて……そんな、悲しい事を……仰らないで下さい……」

「え、ちょ、メモリア……? なんで泣いてるの?」


 涙声で訴えるメモリアは大粒の涙をこぼしているが、伊織は話を理解できていない。


「ま、まあまあ! ウォルンタース殿もそう仰らずに! ここまで慕われるなんて、主として光栄じゃないですか! ね!?」


 フィードが無理やり出した、不自然なまでに明るい口調でフォローに入る。ウォルターの主張は何も間違えていない。大半のホムンクルスが自分の意志で主人を選べない事を考えると、むしろメモリアは恵まれている方だろう。


 だが、あまりに情が無さ過ぎる。人間と変わらぬ感性を持ち、父親も同然にウォルターを慕っているメモリアには酷というものだ。


「ほら、メモリア……後少しで片付けも終わるから……もう少しだけ頑張りましょう?」


 グラティアにも促され、メモリアは涙を拭ってまた手を動かし始めた。

 そして、話についていけない少年が一人。


「え、と……ウォルターさん? 何があったんですか?」

「お前には関係ない事だよ、イオリ。……それより、片付けを手伝わなくて良いのか?」

「――え? あ、ああ! いけない、手伝わないと!」


 三人が洋館に戻ろうとしているのに気付き、伊織も慌てて後を追った。

 一人残されたウォルターは夕焼け空を仰ぎ見る。


「ごめんな、メモリア……でもな……いつまでも、って訳にはいかないんだよ」


 メモリアに向けた、普段のそっけない口調とはまるで違う、深い愛情がこもった呟き。


「フィード、グラティア……予定をぶち壊してすまん。だが、一月しか猶予が無いんでな」


 小さく溜め息をつくと、ウォルターの瞳に鋭利な光が宿る。


「さて、尻尾は出してやったぞ……食い付いてこい、イグニスレオ。下らない因縁はここらで清算させてもらう……!」


 ここにいない誰かに向けた言葉。それは決して揺らがぬ強固な決意に満ちていた。


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