第8話 世界の仕組み
肉体世界換算で10時間ぶっ続けで麻雀ゲームをプレイする快。対CPUと言えど、普通なら3時間程度で飽きるだろうが、快は心にポッカリと空いた隙間を埋めるように、麻雀をしていた。
それと同時に、あることも感じる。国士無双十三面待ちでアガった局があったのだが、その時の喜びというのが、かなり小さかったのだ。
精神世界では欲が希薄になると聞いていたが、一部の感情も希薄になるらしい。
逆に、感情の希薄を理解した快は、肉体世界で感じていたのと同じくらい悲しくなった。単純に考えれば、ポジティブな感情は減衰し、逆にネガティブな感情は据え置きであると思われる。
「こんな世界、望んでないよ……」
麻雀の連続プレイを止めて、快は悲しみに暮れる。
結局、誰も助けてくれない。そういう星のもとに生まれたのだと、快は理解せざるを得なかった。
そんな時、快の背後からミリシアルが優しく抱きしめる。快の不安や悲しみを和らげるように。
「大丈夫、不安になる必要なんかないわ。カイが望むように生きればいいの」
「でも、そんなのできるわけない……」
「それでも出来るのが、この精神世界よ。この世界は、ある意味カイの思い通りだから」
「……どういうこと?」
快が聞き返す。ミリシアルは快から離れて、説明を始めた。
「この精神世界では、本当に意識を持っているのは自分自身だけと考えられてるの。肉体世界で言う『我思う、故に我あり』みたいなものよ。こうして考えているカイや私、そしてこの精神世界にいる全ての人に当てはまるわ。つまり、自己の精神や意識が極端に変化しない限り、自分のためだけの世界に改変出来るの」
そのようにミリシアルが説明する。
しかし、快は疑問に思うところがあった。
「俺が望むなら、精神世界を変えることが出来るのは分かったけど……。そしたらミリシアルはどうなるんだ……?」
「それは当然、カイが思うような私になるだけだよ?」
「そんな、それでミリシアルはいいの? そしたら、ミリシアルが変わっちゃうんじゃ……? その、自己の同一性とか保たれてる……?」
「あー、そーだねぇ。実はこの精神世界でもパラレルワールドの概念が適用されるんだよね。仮にカイが世界を改変したとしても、その瞬間並行世界がいくつか誕生して世界が分岐する。分岐した精神世界はカイに有利な世界とそうでない世界にね。そしてカイの意識の大半は前者に流れる。一方で私の意識は後者に流れて、私に有利な世界へと変化する。こうして数多の並行世界が生まれるの」
「はぁ……」
「前に言ったと思うけど、この精神世界の人たちは、やがて神になる。こうやって並行世界が生まれるのは、神になる練習の場でもあるのよ」
「……ちょっと理解の範疇を超えてるけど、俺が望んだ世界になっても、元のミリシアルは存在し続けるってこと?」
「そういうこと」
そういって、ミリシアルは快の肩に手を置く。
「大丈夫、カイが望んだように生きればいいんだよ」
ミリシアルのその言葉に、快は質問する。
「じゃあ……、自分が有利になるにはどうすればいいの?」
「それは簡単なことだよ。願って、力を使って、叶え続けること。そうすれば、自分の望んだ方向に進めるよ」
そのように話すミリシアル。その言葉で快は覚悟を決めた。
「俺……、頑張ってみる。自分の望んだ世界になれるように」
快は、自分の肩に置かれたミリシアルの手に、自分の手を重ねる。
そこには、今までと少しだけ違う快の姿があった。




