第24話:七帝会議と次なる影
アクア=リュミエールの居城――水鏡の城。
霧と流水に包まれ、宙に浮かぶように存在するその神秘の城に、今、かつてないほどの緊張が満ちていた。
透明な水晶の玉座に静かに座るアクア。
彼女の傍には、整った黒髪を後ろでまとめた厳格な女性――秘書官のリィナが控えていた。
「――全員、揃いました」
その言葉と共に、空間に七つの光が集う。
瞬間、城の中に次々と帝たちが現れる。
第一に現れたのは、鋼の如き瞳を持つ青年――炎帝カイ=アシュラ。
漆黒と紅蓮が混じった軍装を翻し、無言で立ち位置に着く。
次に、静かに現れたのは雷帝レイナ=ケラウノス。
濃紺の軍服に金の紋章を刻み、整ったポニーテールの髪が揺れる。
堂々とした佇まいで、周囲の空気を飲み込む威圧感すら漂わせていた。
続いて現れたのは、眼鏡をかけた知性的な風貌の青年――自然帝シルヴェル。
一切の無駄を排した装いと、鋭く観察する瞳が彼の知性を物語っていた。
次に来たのは風帝ユリウス=ヴェンティス
元風帝がいなくなった影響かいつもより雰囲気ぎ落ち着いていなかった
そして、やや遅れて――
「やれやれ、こんな顔ぶれ、久しぶりじゃないか」
冷ややかな声音と共に現れたのは、金と銀のローブを纏った厳しい雰囲気の男――光帝ルクスの代理ソレイユ、だった。
全員が静かにアクアの前に立ち、ついに揃った。
その場には、ジーク=フリートと――金銀の髪を風に揺らす少年、シノ=グリモワールもいた。
七帝の前に立つのは初めてだったが、シノの表情に怯えはない。ただ、一点の迷いもなくアクアを見据えていた。
「それでは、会議を開始します」
リィナの号令と共に、七帝会議が幕を開けた。
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「まず、報告を。ジーク=フリート」
アクアの声に、ジークが一歩前に出る。
「先日、闇の帝の幹部とされる存在と接触した。ジル=アルヴェスト師匠が討たれた件も、それに連なるものだ。奴らは“闇化”によって適性のない者までも闇属性に染め、強化している」
「……やはり本格的に、仕掛けてきたか」
アシュラが低く呟く。声には焦りはないが、眼光は鋭かった。
「光帝ルクスからの伝令も届いているよ」
ソレイユが視線を向ける。彼が手にした水晶から、淡い光の文字が空中に浮かび上がった。
【闇帝による“属性汚染”が進行中。現在、5つの小国にて発症を確認。民衆への影響大。帝の指導力のもと、即座の対応を要請する】
「光帝が、動いてる……?」
シノが小さく呟くと、レイナがちらりと彼を見る。
「貴方が、シノ=グリモワール?」
その声音に非難の色はない。ただ、探るような強さがあった。
「そうだ」
シノは、短く返す。
レイナは一瞬目を細めたが、それ以上言葉を重ねなかった。
だが、次の瞬間――
「私には納得できん」
ユリウスが、鋭く声を上げた。
「なぜ、そんな小僧をこの会議に同席させる? 七帝の集いは、正当な資格を持つ者のみが加わるべきだ。ジル=アルヴェストの弟子だろうと、我々と同格ではない」
「それは違う」
ジークが間髪入れずに応じる。
「奴は、俺でも制御しきれなかった暴走を、自らの意思で止め、覚醒した。今や、帝に並ぶ存在になりつつある。お前もその目で見ただろう?」ユリウスは何も言わず、シノを睨みつける。
その空気を、アクアが柔らかく切った。
「ジルは、私たちにとっても恩人だったわ。だからこそ、彼女の意思を継ぐシノ=グリモワールを、私は信じる」
「……ふん」
ユリウスは不満げに黙り込む。
「少し、聞かせてもらおう」
今まで黙っていたシルヴェルが、落ち着いた声で言う。
「シノ=グリモワール。君はなぜ、ここまでして戦おうとする? 闇と向き合う覚悟はあるか?」
シノは、ゆっくりと目を閉じた。
「誰かの大切な人が、傷つけられるのをもう見たくない。ただそれだけのために、俺は立つ」
その言葉に、短い沈黙が走る。
そして――
「いいね」
レイナが、微笑んだ。
「私は好きよ、そういうの。守るために強くなる人間ってのは、本当に頼れるから」
「……くだらん感傷だ」
ユリウスが吐き捨てたが、もう誰もそれを咎めはしなかった。
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会議はさらに進み、闇の帝の次なる動き――
“複数の幹部の行方”と“属性汚染が広がる地域の特定”が議題に上がった。
その中で、アクアが言葉を繋ぐ。
「ひとつ、懸念があります。闇帝が狙っているのは、七帝自身かもしれません」
「……俺たちを?」
アシュラが問い返す。
「ええ。適性者の力を奪うために“属性の闇化”を進めている。つまり、最終的には“七帝の力”そのものを乗っ取ることも可能だという仮説があるの」
「属性ごと、奪う……!」
レイナが息を呑む。
「それが成立すれば、奴は“全属性の帝”となる」
静かに呟いたジークの言葉に、会議の空気が一変した。
「それを防ぐには、我々が各地を守るだけでなく、新たな陣を組む必要がある」
アクアが続ける。
「そして、中心に立つべき者が――」
彼女の目が、シノに向けられた。
「君よ、シノ=グリモワール。君に、この戦いの鍵を託したい」
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その夜、会議の一角で。
誰もいない水の庭に、シノは立っていた。
そこへ、静かにジークが現れる。
「――どうだった、七帝会議は」
「……思ったより、面倒だな」
「はは。まあな」
ジークは少し笑った。
「だが、あいつらは信用していい。あの場で言葉を交わした時点で、もう“同じ戦場に立つ者”だ」
シノは頷いた。
「師匠の思いは、まだ胸にある。だから、俺は立つ。――絶対に、闇に屈したりしない」
風が、そっと吹き抜けた。
そして、彼の白銀の髪が揺れるたび、その意思が強く刻まれていく。
夜が明ける頃、新たな戦いの火蓋が切って落とされるのだった。




