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第22話 揺れる心、迫る闇、光の気配


ジル=アルヴェストの死から数日。

その喪失は、学院全体に冷たい影を落としていた。

特にシノ=グリモワールにとっては、胸に空いた深い穴が埋まらずにいた。


無言のまま、風が吹き抜ける訓練場。

シノは誰にも見せないよう、ひたすらに魔力操作の修練を続けていた。

握りしめた拳の中で、風が鋭利な刃となり震えている。


(――まだ、届かない)


心の奥底で、自分の未熟さと無力を責めていた。

あのとき、もっと強ければ。もっと早く気づけていれば。

ジルは死なずに済んだのかもしれない。


「……シノ」

声をかけたのは、フレアだった。以前より伸ばした赤髪が風に揺れている。


「少し、休まないと。あなた……顔が、辛そうよ」


「……まだ、ダメなんだ。今のままじゃ、また誰かを守れない」


そう言って彼は、再び魔力を集中させようとする――が、ふとその腕を誰かが掴んだ。


「やめろ。それ以上は、壊れるぞ」

ジーク=フリートだった。

その瞳は普段よりも冷静で、どこかシノを見透かすようだった。


「ジルは……俺のせいで」

震える声でシノが吐き出す。


「ジルは戦士だ。お前を守るために死んだんじゃない。信じたから、だ」

ジークの言葉は静かで、だが確かな重みがあった。


フレアも頷く。「……そう。あなたが進むべき道を、師匠は知っていた。だから守ったのよ」


シノは目を伏せる。そして小さく、だが確かに頷いた。



---


その頃、七帝たちは再び水帝アクア=リュミエールの城の湖上会議に集っていた。


「……ジルが討たれたことで、闇の勢力は一歩進んだことになる」

話すのは雷帝レイナ=ケラウノス。厳しい口調が響く。


「このまま放っておけば、次はこの学院が標的となる」

自然帝ユリウスも鋭い視線を会議の中心へ投げた。


その中心にいるのは、水帝アクア。美しい銀の髪が揺れ、背後には厳しめな秘書の姿もある。


「……しかし、我々が直接学院に介入するのは、今はまだ避けたい。世界の均衡が崩れるわ」


「ではどうする?」レイナが尋ねる。「また犠牲を見過ごす気か?」


その瞬間、空気が揺れた。


「……気配を感じた。嫌な予感がする」

自然帝ユリウスが立ち上がる。目を閉じ、周囲の気配を探る。


「何者かが――この湖の周囲に、闇の魔力を展開している」


アクアの瞳が凍ったように冷たくなった。


「呼ばれなくても来たようね……また闇の幹部かもしれないわ」



---


一方、学院。


突然、空が曇り、冷たい闇の気配が街全体を包んだ。


「来たな……!」

シノとジーク、そしてフレアが同時に反応する。


街の結界が鳴りを上げ、空間が歪む。


「今度こそ、倒す……!」

シノが叫び、風の魔力を全開で解放した。


その先、現れたのは漆黒のフードを被った異形の存在。

前に現れた幹部とは異なるが、同じく濃厚な闇の波動を放っている。


「“彼”が動き出したぞ。次の段階へ進む時だ……」

その幹部は、呪文のような言葉を残し、周囲の魔力を吸収し始めた。


「このままじゃ、街が……!」


シノは前へと駆け出した。


だがその刹那、彼の中で、また“あの色”が滲み始めた。


「……やめろ」

ジークが叫ぶ。「シノ、お前はまだ……!」


間に合わなかった。


シノの髪が、じわじわと漆黒に染まっていく――

怒り、焦り、喪失、そして自責が混ざり合い、再び暴走の兆候が現れる。


「ッ……っああああああ!!」

雄叫びと共に、風が狂ったように暴れ、辺りの空間が切り裂かれていく。


(また、同じことを……繰り返すのか……!)


誰もが目を見開き、止めるすべを失いかけたその時――


大気が、変わった。


眩い光が天から差し込み、すべての闇を飲み込むように降り注ぐ。


まるで、世界が呼吸を止めたかのような静寂。


そして、その光の中心から――


「止まりなさい、風の子よ」


声は柔らかく、しかし威厳に満ちていた。


そこに、白き軍装を纏い、金銀の髪をたなびかせた一人の女性が現れる。


彼女の名を、知っている者はごく僅か――だが、その存在感は誰にも否定できなかった。


光帝 ルクス=アルティシア――


その姿が、ついに、世界に現れた。


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