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命令し、操られる

死の恐怖に怯えながら暗い洞窟を進んでいたヴィオラ。

しかしそんなヴィオラの元に単独行動でダンジョンに潜っていたアレスが現れ、命の危機から解放された安堵でヴィオラは思わずアレスに抱きついてしまったのだ。


「……っ!そっか、1人でよく頑張ったなヴィオラ。もう大丈夫だ」


ヴィオラにいきなり抱き着かれて驚いたアレスだったが、すぐにヴィオラが精神的にも追い詰められていたのだと悟り、茶化すことなくそっとヴィオラを抱きしめ返した。


「って、お前。その背中どうしたんだよ」

「あっ!そうでしたわ!これは、さっき魔物の毒液で服を溶かされてしまって」

「服だけを?人間には無害だなんて……とりあえず。それじゃ困るだろうから俺の上着でよければ羽織ってくれ」

「ありがとうございます……あなたにこうして上着を貸してもらうのは2度目ですね」


ヴィオラはアレスから上着を受け取る。

その上着はアレスが川に潜った影響でまだ少し濡れている。


「悪い。だいぶきつく絞ったんだが、まだ乾いてねえんだ。冷たいだろうけど、ちょっと我慢してくれるか?」

「あなたが謝る必要なんてありませんわ。だって、私を探すために川に入ってくれたんでしょう?」


そんな上着をヴィオラは少しも躊躇うことなく自分の制服の上から羽織る。

ヴィオラの服も川に落ちた時に濡れていたため、アレスの上着が多少濡れていても不快感はなかった。


(それどころか……あなたの上着はとても温かく感じる……)

「それと。これお前の剣だ。岩に引っかかってる所を見つけたんだ」

「っ!何から何まで、本当にありがとうございます」

「怪我とかは大丈夫なのか?」

「ええ。実は私、さっきまで1人じゃなくて。グレイさんに助けてもらって、飲ませてもらった薬のおかげでもうすっかり治ったんです」

「へぇ。あのグレイさんか?今も近くにいるのか?」

「そ、それは……」


アレスから受け取った剣を装備しながら、ヴィオラは何があったのかをアレスに話した。

奴隷の刻印が露わになっただけで命の危険も考えずに1人で走り出したことに、冷静になったヴィオラは恥ずかしい行動をしたと反省していた。


「んー。まあ、結果的に俺と会えたからいっか。でもグレイさんと合流したほうがいいか?」

「その前に。アレスさんは出口の場所などは把握しているんですか?」

「いや。ずっと暗闇の中で走ってたからなんも覚えてねえ」


アレスの当然と言わんばかりの回答に、ヴィオラは少し呆れたような表情を見せる。


「そう言われてみれば……あなた。明かりもなしでどうやって私を探してたんですか?」

「別に。音の反響と空気の流れで地形は分かるから、あとは適当に……」

「……アレスさん?一体どうし……ッ!?」


リラックスした様子でヴィオラと話していたアレスだが、突如言葉を詰まらせその表情が険しくなった。

ヴィオラが何かあったのかとアレスに聞こうとしたその時、なんとアレスはいきなりヴィオラを地面に押し倒したのだ。


「えッ!?///アレスさんなにを……」

「しッ。静かにしろ」

「ッ!」


いきなりのことに困惑し、その理由を聞こうとするヴィオラ。

だがその言葉はアレスの”命令”によって遮られてしまう。


(まっ……まさか。こんなダンジョンの中で!?/// 今までそんな素振りなんて少しも見せなかったのに……)


アレスに覆いかぶさられたヴィオラは、突然の事態に混乱しながらも期待と興奮で胸の鼓動を高鳴らせていった。

奴隷の刻印の効果でヴィオラはアレスに抵抗することも、大声で誰かに助けを求めることもできない。


(ど、どうせ奴隷の私は何をされても抵抗できないんですもの。だったら……)

「すっ、好きにすればいいわ/// 身体は思い通りにできても、心までは……」

「来た」

「……えっ?」


妙な勘違いをしたヴィオラがそんなことを呟いたその時、アレスは焚火の炎を消しながら真剣な表情でそう言ったのだ。

その直後、先程アレスたちがいた付近に何者かの足音が近づいてきた。


「くそッ!やっぱりあの女いねえぞ!」

「仕方ない。頭の所に戻るぞ!」


それはヴィオラを襲った盗賊団の一味。

アレスがヴィオラを押し倒したのはちょうど男たちから死角になる岩の陰であり、アレスは身を隠して男たちの話を聞いていたのだ。

こうしてヴィオラを見つけることのできなかった男たちは頭の元に戻ると言い、洞窟の奥へと姿を消してしまう。


「ふぅ。もういいか。ヴィオラ、悪かったな。急に押し倒したりして」

「……」


小さな火炎魔法で再び焚火に火をつけたアレスは、ヴィオラに怪我をさせていないか声をかける。

だがそんないつもと変わりないアレスの様子に、ヴィオラは言葉を失ってしまい、徐々に怒りが込み上げてきたのだ。


「~~~ッ!~~~ッ!!」

「な、どうしたんだよヴィオラ」

「あなたは~!あなたって人は~!!そうやってすぐに私の心を弄んでぇ~!!」

「痛い痛い!だからなんで刻印があるのに俺を叩けるんだよ」


ただヴィオラが勘違いをしただけだったのだが、アレスに弄ばれたとヴィオラは顔を真っ赤にしながらぽかぽかとアレスを連続で叩いていた。


「あんまりうるさくすると奴らに気付かれるぞ」

「だから、なんであんな奴らから隠れたんですか!?あなたなら敵じゃないでしょうに!」

「敵が2人だけならな。予想通り仲間がいただろ?あいつらの後を付けて一網打尽にしてやろうと思ってな」

「ならあの2人をボコボコにして聞きだせばよかったじゃないですか!」

「通信魔法か何かを使ってたら仲間に異変が伝わるだろ。結果的にはそれでよかったわけだが……」

「やっぱり!もぉ~~~!!」

「痛いって!勘弁してくれよ!」


アレスの話を聞き終わったヴィオラは、改めて不満そうに頬を膨らませてアレスを叩き始めた。

それはしばらく終わることなく、周囲にポカポカと気の抜けた打撃音が響き渡ったのだ。



アレスたちが盗賊の追跡を開始しようとしていたその頃。

状況整理を終えたソシアたちもまた動き出そうとしていた。


「よし。そろそろ行こうか。といっても彼女たちを放置はできないから、誰かは残る形になるだろうが」

「外に連れ出すにも一苦労ですね。先に出口への安全を確保したほうがいいでしょうか」

「まだ動かすのは危険でしょう。1人か2人、ここに残るほうが得策かと」


ヴィオラを探しに動きたいソシアたち。

しかし手当てをした4人を魔物がいるダンジョンの中で放置することもできず、誰かがここに残ることとなっていた。


「えっ!?まさか、あんな格好つけておいて、私が残ることになるのでは……」

「戦える者が残る必要は確かにあるな。よし、ここは私が残ろう」

「それなら僕も。正直体力的にも足手纏いになってしまいそうですし」

「わ、私は……」

「ソシア様は捜索組に加わるほうが良いかと。光源魔法は必須でしょうし、ヴィオラ様が負傷していた場合、回復魔法の使い手がいるほうが良いと考えますので」

「じゃあ。ソシアとロイさん、それにグレイさんの3人にそっちは任せます」


時間をかける内容ではないと、ソシアたちは手短にパーティーを2つに分けたのだった。

ヴィオラと他の護衛団の人たちを探しに、ソシアたちは暗い洞窟の先へと足を進める。


「グレイ様。遅れましたが、戦闘での連携を潤滑にするためにあなたのスキルをお教え頂けますでしょうか?」

「あっ、はい。といっても大体わかっているかもですが、私のスキルは言霊支配(ヴォイス・ドミネイト)。声に出した命令を聞いた人に強制できるスキルです」

「それでさっき私たちはグレイさんの顔を見れなかったんですね」

「はい……できれば今もあんまり直視しないで貰えると助かります~……///」

「連携に組み込むのは難しそうですね。前衛で立ち回る役目は私が務めます。グレイ様はソシア様の守備と援護をお願いします」

「は、はい……」

「ッ!前から何か来ます!」

「っ!魔物!?」


ヴィオラを捜索するために洞窟を進んでいたソシアたち。

しかししばらく歩き続けていたその時、突如ロイが何かを感じ取り2人を制止したのだ。


(ッ!?また血のにおい!)


闇の中から複数の足音が聞こえてくるにつれ、ソシアは漂ってくる血のにおいを敏感に感じ取っていた。


「ぐっ……うぅ……」

「逃げて、くれ……」

「あの人たちは!?」


そうして身構えていたソシアたちの前に姿を現したのは、服を血に染めた護衛団の人たち。

彼らはボロボロでありながらも剣を構えており、じりじりとソシアたちに歩み寄ってきたのだ。

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