予想外の助っ人
「全職員に告げる!ただちにコクーン・オブ・ブレインを完全封鎖!何者かによってフロアDから最重要危険研究対象が持ち出された!!」
黒祟の壺が何者かによって盗み出されたことを知ったフリーダは、即座にソシアが待つ部屋の壁に備え付けられていた通信魔道具を使用し、コクーン・オブ・ブレイン全体に緊急指令を出した。
それは国家の存亡に関わるような重大事件。
地下の空気が一瞬でピリつく。
「急げ!エレベーターは停止だ!」
「すぐに王国軍に連絡だ!」
フリーダの指示により地上への唯一の経路である巨大エレベーターは封鎖される。
さらに地上では研究所の敷地の出入り口も封鎖され、この施設は完全なる厳重体制へと移る。
「フリーダ様……私は、どうすれば……」
「君は私の傍から離れないように。怪しい行動をすれば容疑者として疑われかねんぞ」
「は、はい……」
「リッキー!リッキーはどこだ!?」
不安な気持ちを隠せずおどおどするソシアをよそに、フリーダはコクーン・オブ・ブレインの副所長であるリッキーを呼び寄せようとした。
彼もこの時間は地下に居たはず。
黒祟の壺の捜索を彼に任せようと考えていたフリーダだったのだが……
「所長!!先ほどフロアBの通路で副所長が……!」
「なんだと……?」
そのすぐ直後、コクーン・オブ・ブレインの建物内の廊下で、何者かによって殺害されたリッキーの遺体が発見されたのだ。
「うそ、リッキーさん……」
「警戒しろ!彼を殺した犯人がまだこの中にいるかもしれん!」
「は、はい!」
リッキーの死体を発見したフリーダは、困惑を押し殺すように素早く指示を出す。
彼の胸には刃物で刺されたような傷があり、何者かによって殺害されたのは明白だった。
「リッキーさん、なんで……」
「恐らく黒祟の壺を持ち出した犯人と鉢合わせてしまったか」
(この道は火災のあった第二倉庫からフロアDに続く道。リッキーも火災が囮で犯人の狙いがフロアDにあると考え向かおうとした……?)
フリーダはリッキーの亡骸から視線を離さず、現場の状況を観察していた。
彼の亡骸には胸の致命傷以外に目立った外傷はない。
流れ出た血液からも殺害されてからまだほとんど時間が経っていないことは明らかである。
「……とにかく、犯人はまだ中にいる可能性は高いな」
「所長!!」
「今度はなんだ!?」
「王国軍の方が到着しました!」
「なに?随分早いな」
しかしそんな中、新たにフリーダの元に職員が報告にやって来て、王国軍が到着したと告げたのだ。
この研究所の立地は確かに王国軍の本部とは近い。
だがそれにしても到着が早すぎるとフリーダは考えたのだ。
「フリーダ所長、お待たせしました。王国軍軍団長、ヘイブン・ラスカートです」
コクーン・オブ・ブレインから出たフリーダは、エレベーターを使い下りてきた王国軍を出迎えたのだ。
兵士たちを率いていたのは王国軍の軍団長であるヘイブン・ラスカート。
「ヘイブン殿、随分お早い到着ですね」
「そうですかな?急いだつもりではありましたが、火災の報告があってからそれなりに時間がかかってしまったと思っていたのですが」
「火災?黒祟の壺が盗まれたという報告で駆けつけたのではないのですか?」
「なんですと?フリーダ所長、それは詳しくお話を伺わなくてはいけませんな」
火災が起きたという報告を受けてコクーン・オブ・ブレインにやって来たヘイブンだったが、フリーダから黒祟の壺が盗まれたという事実を告げられ目の色を変えた。
(なんだか、凄い大事になってきちゃった……私、これからどうすればいいの?)
そんなただならぬ空気の中、何をすればいいのかわからないソシアはただ狼狽えることしかできなかったのだ。
時は戻り。
ルークを退け敵のアジトへ乗り込もうと闘気を増幅させるアレス。
「ブラルトルインか……誰一人として逃がさねぇ」
「ま、待ってくださいアレス様!」
だがその時アレスに従っていたメイドのシフォンがアレスを呼び止めたのだ。
「なんですかシフォンさん」
「アレス様、ブラルトルインにはお一人で行かれるおつもりですか?」
「当たり前でしょう。他に誰が行くって言うんですか」
「今ブラルトルインには王国軍が向かっています。1人で居るところを見られたら厄介なことになりますよ」
シフォンが懸念していたのはアレスが1人で居るところを王国軍に発見されること。
ブラルトルイン自体は四級ダンジョンであり、特別な手続きを行わなくても入ることは可能である。
だがダンジョンに入るには最低3人でなければならず、もし1人で居るところを王国軍に見つかれば面倒なことになるとシフォンは告げたのだ。
「見つからなきゃいいでしょう。それか他のメイドの人を呼んでくれます?」
「私以外のメイドは手が離せない状況でして」
「そもそも手続き自体時間の無駄だ。早くしないとゼギン様がみんな捕まえちまうよ」
「あ、あの!アレス様!」
「ん、セレナ様?」
そんな時、アレスに声をかけてきたのは倒れていた護衛たちの手当てを終えたセレナだった。
彼女は護衛が手放した剣を手にアレスの元にやってくると、その柄を強く握りしめこう言った。
「話は聞かせていただきました!もしも人手が足りないのでしたら、私を連れて行ってください!」
何とセレナはダンジョンに入る最低人数を満たすため、自分を連れて行って欲しいとアレスに申し出たのだ。
「なんでセレナ様がそんなことを」
「私はあなた様に命を救っていただきました!未熟さを晒してしまった直後ですが、自分の身くらいは自分で守れます!」
「いや、しかし……まあ急ぎだし、いいか。んじゃあシフォンさんも一緒に来てください」
「それはできません。私も多少戦闘の心得があるとはいえお二人には到底及びませんし、ダンジョンに入るならその申請を代わりに行わなければいけませんから」
「……じゃあ結局人が足りないじゃないですか。ダンジョンに一緒に行ってくれそうな人なんてそう簡単に見つかるわけ……」
「あんれぇ~?もう終わっちゃってるの~?」
「あれは……」
セレナに同行をお願いするとして、正規の人数にはあともう1人足りない。
セレナの護衛はみなルークに倒されてしまっており、彼女の付き人は戦闘者でない上に瀕死のルークの対応で手が離せない状況だった。
どうするべきかと考えていたアレスだったのだが、なんとそこに1人の女性が姿を現したのだ。
「誰かが戦ってるなぁって来てみたけど、こりゃ一体どんな状況だい?」
「カララ様!なぜカララ様がここに!?」
やってきたのは冒険者ギルドの最高ランクパーティー【のんべえ同盟】を率いるカララ・クリスタニア。
おぼつかない足取りでアレスたちの前に姿を現したカララは、すでに戦闘が終わっていたことに驚いていた。
「んにゃ?君~……どこかで会ったことあったっけ?」
「えっと、昨日会いました。コンサート会場が襲われた後、私が出口で待ってた時に出てきたカララ様と挨拶をした程度ですが」
「そだっけ?まあいいや。それより誰か暴れてるなぁって思ってきたけど、もう大丈夫そうらね……おっとっと」
(大丈夫かこの人……いや待てよ?)
顔を紅潮させ、呂律も回らなくなってしまっていたカララ。
そんな彼女にアレスは内心呆れていたのだが、その時ふと妙案を思いついたのだった。
「カララ様!そんな事より早く行きますよ!」
「うえ?行くって……どこにさ」
「しっかりしてくださいよ!昨日会った時、一緒にダンジョンに行きましょうって約束したじゃないですか!」
なんとアレスは酔って正気を失いつつあるカララに、一緒にブラルトルインに行ってもらえるよう誘導を始めたのだ。
「大丈夫ですかアレス様!この方、明らかにベロベロですけど?」
「大丈夫でしょう。昨日もダンジョンから出てきたときにはベロベロに酔っぱらってましたし。たぶん酔えば酔うほど強くなるとかそんなスキルなんでしょう」
「そうだっけ?そんな約束して……し、したか?」
「しましたよ。早く行きましょう。シフォンさん、俺とセレナ様とカララ様、ダンジョンに行くのはこの3人でお願いします」
「アレス様、私のことはセレナとお呼びください」
「う~ん。この後はまた適当な店で飲みたかったけど……約束してたならしょうがない。でも手持ちの酒が切れる前には帰ろうね~」
強引ではあったがカララをメンバーに引き入れ3人の条件を満たしたアレス。
こうして王国軍に先を越されないよう、その足でブラルトルインに向かうことになったのだった。




