13.私は嫌がらせの犯人にされている。
三学年に上がった。
イフムートとナーテとは相変わらず仲良くしている。
冬休みにナーテに提案された通り、あの後、一部の平民や下位貴族の子に勉強を教えたりすることになった。
一年生の時に虐めを止めたあの平民の少女には「本当に本当に、シェフィンコ様には感謝しているのです。ありがとうございます! 私が幾ら否定しても悪評が消えなくて……」と頭を下げられた。
なんでもこの方が違うと否定すればするほど、私の悪評が再燃していた。あの王子様たちは私のことなんてこれっぽっちも信じていなくて、私のことをそういう風に思い込んでいるから仕方がないとは言える。
人に勉強を教えると言うのはあまりやったことがなかったけれど、「シェフィンコ様は教えるのも上手ですね」と言われたので上手く教えられたらしい。
友人と言えるほど親しいわけではないけれども、こうして学園の知り合いが少しずつ増えていくことが嬉しかった。
私の学園生活はイフムートとナーテのおかげで少しずつ充実したものになっていった。
まぁ、目立つところで私が彼らと接触していたらあの王子様達が何を言いだすかわからないから、表面上は私は相変わらずぼっちだけれども。
そうやって充実した日々を送っている中で、ついに恐れていた事態が起こった。
「ああ、もう今日は教科書が破られたの!!」
ナーテが嫌がらせを受けるようになってしまった。
理由はもちろん、王子様たちがナーテを構っているせいである。ナーテが嫌がっても嫌がってもナーテに近づこうとする王子様たち、正直、頭湧いているのではないか? と失礼なことを考えてしまう。
王太子妃のお気に入りの元平民の庶子だからと、今までドジータ様たちは大人しくしていたのだけど堪忍袋の緒が切れてしまったらしい。
いっそすがすがしいほどにナーテに嫌がらせを始めた。
「それに何でもかんでもオーリーのせいにしようとするなんて!! 自分たちが私に嫌がらせをしている癖に『シェフィンコ様が第二王子殿下の婚約者に嫌がらせしているのですね、悪役令嬢であるシェフィンコ様が何をするか分かりませんから近づかないほうがいいのではなくて?』とか来るんですよ。貴方がオーリーの何を知っているっていうんですか! って言いたくなった」
「そもそも第二王子にオーリーが近づきたがっているというのも根も葉もない噂だし、こんなにオーリーとウェシーヤ嬢は仲が良いのに。オーリーが誰かに指示してやらせたみたいに噂が流れているけれど、そもそもこの図書館以外でオーリーは誰とも話していないしな」
ナーテとイフムートがそんなことを言う。
本当に何で? と言いたくなることだが、ナーテに嫌がらせをしているのは私だと言う噂が最近出回っている。これは意図的にナーテに嫌がらせをしている令嬢たちが流している噂であると言えるだろう。
自分たちが王太子妃が特別に思っていて、目にかけてほしいと願っていた庶子を虐めていたなんてバレたらこの国で生きにくいだろう。王太子殿下は王太子妃を溺愛しているのもあって、そんなことをすれば王太子にも睨まれてしまう。
そういうわけでスケープゴートにされているのが、皆さんもご存じ、嫌われ者の私である。
私の評判は相変わらず地に落ちているので、王太子妃に嫌われまくっている私に全て悪い噂は押し付けよう! とそう思っているらしい。
「私とナーテが仲良しだって示したらそういうのなくなるかしら?」
「それもいい! 私、堂々とオーリーと仲よくしたい。でもちょっとオーリーの話をしただけでも周りがオーリーを悪く言うんだもん。私と一緒に居たらオーリーが益々悪役にされてしまうかもしれない」
「……それもそうな気がするわ。でも私が一緒に居たら私が一緒に居る間はナーテは嫌がらせをされることはないのではない?」
「いや、それは駄目! 優しいオーリーが、あの人たちから変な風に責め立てられるの嫌だもの」
「でも……私の評判は元々これ以上落ちようがないもの」
「駄目! オーリーに迷惑をかけるぐらいだったら、このままでもいい! 私もお父様に許可をもらえて隣国に行けることが決まっているのだもん。あともう少しの我慢だから!!」
私がナーテの隣にいれば、少なくともその間に王子様の婚約者を狙う令嬢たちがナーテに嫌がらせをすることはないと思った。だけどそれはナーテに否定されてしまった。
「でもナーテ、私は止められるだけナーテへの嫌がらせは止めるわ。私なんてぼっちだから影響力何てあまりないかもしれないけれど……」
「ありがとう。オーリー、でもオーリーも無理だけはしないでね? オーリーがそれで大変な立場になったら嫌なんだから」
それにしてもナーテに嫌がらせをする令嬢たちは、ナーテがどれだけ王子達を嫌がっているか分からないのだろうか。
「俺もウェシーヤ嬢への嫌がらせをどうにかするように動くよ。オーリーの噂も出来る限り払拭できるようにもする。それにしても本当にあんなに美形な第二王子達に迫られてもウェシーヤ嬢は全く関わる気がないんだな」
「それはそうよ! そもそもあの人たちが私に近づいてきている理由知ってる? 私自身に興味を抱いたっていうよりも、ルイーゼ様が特別視しているから、ルイーゼ様が運命だというから――なんていうのよ! ルイーゼ様、ルイーゼ様って、確かに貴族間だと政略結婚もあるかもしれないけれど、そんな誰かに言われたからって気持ちで接触されて嬉しいわけないじゃない。そもそも王太子妃様と私って私がなんとか拒否しているのもあって、会ったことも一度もないのよ! それなのに、あの王太子妃様、私の好きな物とか知っていたりして、怖いわよ。ルイーゼ様がナーテが好きだと言っていたからとかいって、私が好きなものを本当に持ってくるのよ。ぞっとしたわ。しかも私、名前呼びをしていいなんて一言も言ってないのよ。それでいて自分のことは名前で呼ぶようになんていってきて。王族相手に失礼な真似をするわけにもいかないからやんわり断っても納得しないし、強く断っても照れてるとかいうし。ルイーゼ様がそう言っていたって。あの人たちはマザコンならぬルイーゼ様コンよ!」
ナーテが一気にそんなことを言う。
ああ、よっぽどたまっているらしい。
でも王子様たちも酷いと思う。王太子妃が言っていたからって理由だけでナーテに近づいているのだ。何でもかんでも王太子妃に言われたからって行動が多いらしい。
それにしても運命ねぇ……、ルイーゼ様が「貴方の運命がそのうち現れるはずよ」という謎の言葉を残している人はお兄様も含めて何人もいる。その運命の相手がナーテってこと? 一人相手に複数人いるってどういうことなんだろうか? 選べってこと??
王太子妃は、昔から未来を見通す力を持っていたとか言われているのだ。何でもそれで王太子殿下たちのために動き、信頼を勝ち取っているんだとか。その王太子妃からしたら、ナーテは王子様たちの運命らしい。本人は全くそういう気がないのに運命を押し付けるなんて……と正直王子様たちにも王太子妃にも引いてしまう。




