第二章8 〈バルおじ〉
タロに乗って移動すると本当に早い。
きっと風になるってのはこういう事を言うのだろう。
タロにかかればエンドレスサマーからのおよそ5kmの距離も、ものの数分で走ってしまう。
でもタロに言わせれば、駆け足程度のスピードで走っているだけらしい。
本気で走ると、俺が吹き飛ばされてしまうか、もしくは呼吸ができなくなってしまう心配があるからだ。
あっという間にモヤの近くまで着いて、そこでタロにデフォルメサイズに小さくなってもらう。
『……次はいつこの姿に戻れる事やら……ま、チビの姿も楽しませてもらっているがな……』
「……とーーう! みんなのアイドル、タロ参上!」
……本当に同一フェンリルなんだろうか……最早それすら疑わしくなってくるな。
頼むからモヤやアルモンティアでは二足歩行してくれるなよ。
村に入る前にキチンと四足歩行するのを確認してから、まるんとした狼を伴い先ずはパントさんの店に向かう。
「こんにちは〜」
「ユウタさん、こんにちは。例の物の試作出来てますよ」
「さっすがパントさん」
リゾートパラソルの試作品を見るため、パントさんの工房に入る。
そこには俺が注文した藁葺きのパラソルの試作品が出来上がっていた。
「これ! これですよ! 俺のイメージ通りです」
「それは良かった。初めて作ったんで、自信がなかったですけど」
「いや、完璧ですよ。 じゃあとりあえず、これを10お願いできますか?」
「もちろんですよ! 最近はユウタさんの注文のおかげで忙しくさせてもらってますし、新しい物にも挑戦させてもらえてありがたいです」
「これからも、無茶なお願いするかもですけどよろしくです」
パントさんに代金を前払いして、次にバルガスさんの資材置き場に向かう。
いつもならそこで作業してるはずだが……。
「いたいた。バルガスさーん!」
「オイラも来たぞ! モフって良し!」
「何言ってやがんだ、この狼様は」
そう言いながらタロをモフりまくるバルガスさん。
……アンタ……最初の屈強で強面な印象はもう一切感じられないよ。
「兄ちゃん、ご注文の品出来てるぜ!」
バルガスさんに連れられ作業スペースの脇にある倉庫に入る。
そこには、パントさん作の藁葺きのパラソルに続き、俺のイメージ通りの真っ白なローテーブルが置かれていた。
「んで、こっちがオマケで作った一回り小さい奴な」
さっきのローテーブルと同じ、真っ白なサイドテーブルって言えばいいのかな?
ローテーブルよりコンパクトなサイズのテーブルまで作って用意しておいてくれた。
「さっすがバルガスさん! 完璧です! イメージ通り過ぎて怖いくらいですよ! しかもサイズ違いまで」
「そいつぁ、良かった。で、代金だけどよ、合わせて5万でいいからよ」
「え? 安すぎません!?」
「こっちの小さいのは余った資材で作ったオマケだし、ローテーブルも大して手間も掛かってないしな。お得意さんにはサービスさせて貰うぜ?」
「バルガスさん……」
「バルガスは良い奴だな。 次も頼むぞ」
「こらタロ、お座り!」
タロも、一緒にエンドレスサマーの海で遊んだバルガスさんには、相当懐いているようだ。
ただ遠慮がなさ過ぎてもダメだけどね。
バルガスさんにお金を支払い、テーブルを【四次元的なアレ】に仕舞っていると、バルガスさんが妙に照れた感じで口を開いた。
「なぁ、兄ちゃん……その、なんだ……バルガスさんってのやめてくれねーか? 付き合いは短いが、兄ちゃんとは気が合うしよ……なんだかこそばゆくっていけねぇ」
あらやだ、かわいい。
「でも、なんて呼べば……流石に呼び捨てするわけには……」
「俺は呼び捨てでも構わね〜ぜ?」
「俺の方がさすがに抵抗ありますって」
「なら、バルおじだな!」
「へ?」
「バルガスはまあまあオッサンだから、バルガスとオジサンでバルおじ!」
タロから見たらオジサンではなくないか?
それともタロは、デフォルメサイズになると年齢まで若くなるのか?
「おう、いいじゃねえか! バルおじ気に入ったぜ!」
──うそぉ!?
バルおじでいいの?
……でもこの際本人が気に入ったって言うんなら、それでいいか。
「オホン……じゃあこれからバルおじと呼ばせて貰いますね」
「おう」
「オイラがバルおじの名付け親だからな」
「名付け親は違うけどな」
「がっはっは! オメーらは本当におもしれ〜な」
あ、そうそう。
エンドレスサマーに店舗や宿泊施設なんかも作ってもらうと思ったんだった。
バルおじにエンドレスサマー改造計画を話した。
「そりゃ俺は金貰えりゃやるけどよ。流石に時間は掛かるぜ? 行ったり来たりもあるしよ」
「そうなんですよね〜。転移石ってのがあるらしくて、手に入れようと思ったんですけど簡単にはいかなさそうで……」
「転移石か……ウルトラレアアイテムだからな」
バルおじもやはり往復の移動がネックになっているようだ。
2人で頭を悩ませていると、タロが不思議そうな顔をしている。
「なんだタロその顔は?」
「何悩んでんだ? と思って」
「オメーみてぇな足の速い狼にゃわかんね〜かもだけどよ。人間ってのは移動に時間が掛かる生き物なんだよ!」
それを聞いても、尚更不思議そうな顔をするタロ。
「ここで作ってユウタのスキルで運べばいいんじゃないの?」
「────!?」
「────!!」
「「それだーーーー!!」」
それだよタロ!
ナイスだよタロ!
今までお前の事バカだと思っててごめん。
そうだよ!
店でもなんでも別の場所で作ってもらって【四次元的なアレ】で運べば良いんだよ!
何で気付かなかったかな〜。
「やるじゃね〜か!」
「タロの事甘く見ててゴメン」
「これからはオイラを崇めて良し!」
調子に乗りやがった。
調子に乗ったタロは無視してっと……。
「実際にゃ一度現場見て寸法測って、基礎だけそっちで作らんとダメだけどな」
「それで、上物はコッチで作った物を運んで乗せるって形ですか?」
「そうなるわな……もちろんやった事ない作り方だが多分大丈夫だと思うぜ」
この作り方で行けるなら、当面の間は転移石がなくても何とかなりそうだ。
「じゃあまたそのうち寸法測りに行くからよ」
「待ってるぞ」
「それじゃあ俺たちはサトゥルさんの所行きますね」
「なんだ? サトゥルんとこ行くのか? ならちっと様子みてやってくんねーか? もしかしたらアイツ今問題抱えてるかも知れねーぞ?」
「え?」
「今朝真っ青な顔して歩いててよ……俺が声掛けても気付かないで行っちまってよ。普段ならそんな事絶対ないからよ」
「そうなんですか……それとなく聞いてみますね」
「おう、頼んだぜ」
「じゃあな、バルおじ〜!」
「ではまた」
サトゥルさんが問題を抱えているかもしれない……か。
大事じゃなければいいけど。
サトゥルさんに何かあってアイテム換金所が閉まっちゃうのも困っちゃうからね。
俺にも何か力に慣れる事があると良いけど。
だが嫌な予感と言うのは的中するもので、サトゥルさんの店に来てみたら臨時休業を知らせる貼り紙が貼られていた。
誤字報告ありがとうございます。訂正しました。