第二章6 〈ウンディーネ召喚〉
「アイツらは送って行かなくても良かったのか?」
ジロが心配したように聞いて来た。
ジョルジュ達は、バルガスさんとは違って自分の身は守れる力があるからね。
それに……。
「色々話しながら帰りたいんだってさ」
「沢山ショック受けたろうからな……いろいろ整理したいのかもな」
本当にジロは気の利く良いネズミだ。
精霊ウンディーネ様のペットなだけはあるな。
口は悪いが、本当はいい奴だって俺はわかってるんだぞ。
それに送るとなると、タロに元の大きさに戻ってもらわないといけない……そうなると必然と正体がフェンリルだとバレてしまう訳で……さらなるショックを与えてしまいかねないからな。
「ねぇユウタ。今日はどうするの?」
ジョルジュ達が来たように他の冒険者が来るかもしれないけど、モヤのバルガスさんとパントさんの所に顔を出そうと思っている。
バルガスさんには頼んでいたローテーブルとバーやレストラン、宿屋なんかを作ってもらう相談をしたい。
パントさんにはリゾートパラソルの件と、いずれ店が出来てくると食器類が必要になるから、その相談だ。
それとサトゥルさんの店にも顔出して、手持ちのアイテムを現金化しなくちゃな。
なんかノンビリしたいのに忙しさが増してないか!?
しかし、こうも往復が増えると大変だなぁ。
バルガスさんにも来てもらうたびに送り迎えしていたのでは効率が悪いし……いっそエンドレスサマーに住んでもらえたら楽なのにな。
なんか良い方法はないものか……。
『転移ゲートを作るのはどうでしょう?』
転移ゲート?
「魔法か?」
『転移魔法も存在しているのですが、この場合は魔導具と言った方が正解に近いでしょう。例えばバルガスさんの作業場とエンドレスサマーにゲートを置けば、サブコアでダンジョン内を移動するのと同じ様に一瞬でゲート間の行き来が可能になります』
何それ、超便利じゃん。
「それってどうやるの!?」
『特殊な転移石と呼ばれる希少な石が必要です。こればかりはダンジョンマスターの権限でもどうにもなりません』
「どこで手に入るの?」
『手に入る可能性が高いのは商業都市国家グローブでしょう。お金で買えるものなら何でも手に入ると言われています』
商業都市国家グローブかぁ……いつかは行きたいと思っているけどな〜……あまり何日もココを空ける訳にはいかないし、お金を稼いでから行きたい場所なんだよな〜……ていうかさっき転移魔法って言ってなかった?
俺は転移魔法って使えないのか?
【操作盤】をオンにして見てみるが、俺の魔法一覧には転移魔法はなかった。
起動に失敗した【時空間魔法】に属しているのだろうか?
いつもみたいに都合良く勝手に使えるようにもならなかった。
残念ながら、今の俺には転移魔法は使えないようだ……ならばやはり転移石を手に入れるしかないのかな?
「転移石ってドランゴニアが産地じゃなかった?」
『リリルさん、良くご存知ですね。確かに帝国領土内にあるダンジョンでのみ発見されるそうです』
「シェア100%か……儲かるだろうな〜。あれ? 帝国って、国境閉ざしてるんだったっけ?」
「そうよ。って言っても正式な許可さえあれば入国出来るみたいだけどね」
うーん……となると気楽にダンジョンに転移石探しに行くわけにも行かないなぁ……転移石の件は後回しかな。
「ねえねえユウタ〜、ジロの奴って転移してこなかった?」
──確かに!!
ウンディーネ様は俺が偶発的に召喚してしまったのだけど、ジロは確かに自分から転移して来てたっけ。
デフォルメサイズでとぼけた顔してるけど、ナイスだぞタロ!
ジロに聞けば何か分かるかもしれない……てか、アイツどこに行きやがった!? さっきまでいた気がするけど……。
タロの鼻を頼りにジロを探すと、案の定お気に入りの巣穴の中で、ワラのベッドで眠りについていた。
「お〜いジロ。起きてくれ〜」
「オイラが噛んで起こしてやろうか」
コラコラ、そんな事したら撃たれるぞ。
「……なんか用か?」
寝たばっかりっぽくて、機嫌はあまり良くなさそうだな。
「ジロがエンドレスサマーに来た時って、どうやって転移して来たんだ?」
「そりゃウンディーネ様の転移魔法に決まってんだろ! バカかオメーは!?」
やっぱりか〜、そりゃそうだよな〜。
もしかしたら転移石を使った魔導具持ってるかもと思ったんだけど……。
眠たそうなジロと別れ、波打ち際を歩いて考える。
転移石は今すぐ手に入れる事は難しそうだが、この先エンドレスサマーを発展させて行くことを考えると、どうしても転移ゲートが必要になってくるだろう。
バルガスさんに常駐してもらえれば一番なんだろうけど、村での仕事もあるはずだしね。
それにバルガスさんだけが必要な訳ではないしね。
となると……ウンディーネ様に相談したい所だけど、もう一回召喚って出来るんかなぁ?
物は試しだ、いっちょやってみっか。
マスコを呼んでウンディーネ召喚に挑戦だ!
『私がアシストして召喚魔法を使う事も出来ますが、ユウタ様個人でも使用出来るようになった方が良いでしょう』
「はい!ご指導お願いします!」
『まず召喚魔法とは、全ての属性の召喚を、いつ何処でもできる訳ではありません。ユウタ様は現在水属性の召喚魔法が使用可能ですが、これを行うには触媒となる水が無い場所では使用出来ません』
「例えば火属性の召喚は火がないと出来ないって事? 土魔法は土とか大地とか?」
『そういう事です。そして高位の存在は触媒そのものが優れていないと召喚出来ません。清浄な水であったり高火力の炎であったり……属性ごとに要求されるものは異なり、特殊な条件下でしか召喚出来ない存在もおります』
「マスコと前にやったランダム召喚はどうなってんの?」
『あれはこのダンジョンが水属性の海型のダンジョンに決定したので、水属性のランダム召喚が可能になったのです。触媒となる清浄な水には事欠きませんし、私のサポートとユウタ様の尋常ならざる膨大な魔力によってウンディーネ様が召喚されたのでしょう……と言っても通常は有り得ない事だと思いますが』
「なら、ウンディーネ様はもう召喚出来ない?」
『ウンディーネ様から、虹色サンゴのブレスレットを頂いたユウタ様なら可能かもしれません。そのブレスレット自体が触媒となっているはずなので、召喚魔法にブーストがかかって、本来より高位の存在を召喚出来ると思います』
確かにウンディーネ様も縁で結ばれたって言ってたしな。
……で、召喚魔法ってどうやってやるの?
今まで使った魔法はなんとなく感覚で使い方がわかったんだけど……。
『まず属性の対象となる触媒を定めます。次にその触媒に召喚の魔法陣をイメージしてください。自分がイメージしやすい門や魔法陣、ドアなど出入口を想像出来るもので構いません。ハッキリとイメージが強ければ強いほど成功の確率は上がります』
「ふむ……魔法陣って言ったら六芒星が描かれた円か?」
俺はエンドレスサマーの海面に六芒星が描かれた円をイメージする。
『最後にその魔法陣に魔力を込めて呼び出す事をイメージしてください。注がれた魔力と召喚者の求めに応じた存在が召喚されるはずです』
イメージで海面に描いた魔法陣に大量の魔力を流し込んでいく。
あくまでも俺のイメージでしかなかった魔法陣が、実際に海面に現れ、水色に輝き始め、その周りを水が逆巻き始めた。
左手首に嵌めた虹色サンゴのブレスレットが淡く光り、召喚のサポートしてくれているのがわかる。
魔法陣に魔力が満ちて、俺に喚べと語りかけてくる。
────今なら喚べる! 必ず成功する!!
「来い!! 水の精霊ウンディーネ!!!!」
逆巻いた水が一気に弾け飛び細かい水滴となった。その水滴一粒一粒が太陽の光を思うがままに乱反射させ、海に……魔法陣に、光り輝く雨を降らした。
そしてその中心には、いつの間にか水の精霊ウンディーネ様が顕現していた。