第34話 少年、私の迷宮を攻略せよ
「おっさんっっ!!」
伸ばした右手に飛び散る紅い液体が付着するっ。
「ーーぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
斬られたおっさんがっ、ぐらついた体を支えて鎚を突き出した!呆けているアイツの不意打ちになったのか、真正面からの《鎚技》で吹き飛ぶ。
「…………」
「おっさんッーー」
突き出した拍子に後ろに倒れ込んだッ。その体を受け止める。
「おっさん!おい、おっさんッ!」
「ぁぅ」
よかった、まだ生きてるっ……!早く治療をーー
「ユーー」
「《流獄》ッッ」
ーーッ!?アイツっ、こんな時に!!クソっ、なんで俺は魔術が使えないんだッ……!いや、そうだっ。《活魔薬》があった!ウィンドウを開いてーー
「ーーッ!?おっさんっ?」
ウィンドウを動かす左手を、おっさんに握られた。
「よせ……どうせ、俺はもうダメだ……」
「なにっ……何言ってんだよっ。すぐにッ、すぐに元通りになるから……」
クソッ、クソックソックソッ!斬り傷が深いッ。血が、血が止まらないッ……!!
「どう、だ……俺、大人だった……だろ……?」
「そんなのっ、当たり前だろ……!なにを今更ーー」
「そうだ……そうだな……子供を守るの、は…………大人の大特権、なんだからな……」
「ッ……もういい。もういいから……」
頼むから《活魔薬》を飲んでくれ。
「ごほっごほっ」
「ッ!?おっさんッ」
「は……ははっ……なん、だ……坊、ず泣いてんの……か……」
おっさんの左手が、俺の頰に触れる。血で真っ赤だったけど、その手はとても暖かくて、優しかった。
「そんなもん、当たり前だろッ」
「坊主……なら大丈、夫だ……お、前なら……やれる……きっ、と……これからも……戦って、いける……」
ポケットから取り出した白い宝石を突き出してくる。いや、これはーー
「……勝てよ……坊主…………」
「ーーああ。必ずっ……必ず、勝つよ」
白い結晶を受け取ると、おっさんは笑った。いつもの、あの楽しげな、笑顔だ。
「ーーーー」
おっさんの指が動かない。手も、胸元も。
「…………」
おっさんの手をそっと置く。白い結晶も、俺の横に置いて、傍に落ちていた《鬼王の牙鎚》を左手で拾い上げる。
「ーーッ」
鎚を振り上げて、結晶目掛けて振り下ろす!結晶は粉々に砕けた。その瞬間に、俺の中に記憶が流れ込んでくる。
ーー彼の者は、戦場に立つ。
ーー彼の者は、血と屍で築き上げられた丘の上で、一人で佇む。
ーー彼の者は、王妃に恋をした。
ーー彼の者は、地位と名誉を捨てた。
ーーそして、その最後は愛した人と添い遂げることもできず、一人寂しく生を終える。
流れ込んできた記憶。その者の最後は可哀想だと思う。
だけど、今は等しくどうでもいい。
『シュっ』
ユキに足止めされていたアイツが、俺のところにまで一歩で間合いを詰めて剣を振るってくる。
「《縮地》」
《ソーレイブーツ・翔》に魔力を流し込む。おっさんを抱えたまま、ユキの下に超高速で移動して躱す。
「っ、ハルト……おじさんは……」
「…………」
急にやってきた俺に驚きながらも、ユキは聞いてきた。俺は、それに答えることができなかった。黙ってる俺を見て、ユキも涙を流す。
「ユキ、おっさんを頼む」
おっさんを抱きかかえて、ユキの前に寝かせる。その両手を胸の前で組むようにしてあげて、俺は立ち上がる。そして、振り返って歩き出した。途中で《牛紅剣》を拾って、アイツと対峙する。
『少年、私が憎いか?』
憎い?何を聞いてくるんだ、アイツは。
「憎い。だけど、そんなものはどうでもいいんだよ」
アイツが憎い。だけど、俺の心の中で大きく渦巻いているものは違う。また守れなかったことへの無力感、それに武器を握って戦う使命感だ。試練も、記憶を思い出すという目的も、もう関係ない。俺はーー
「お前を倒すッ」
《魔力効率上昇》っ。《筋力上昇》、《敏捷上昇》、《身体能力上昇》!地面を蹴って駆け出すッ!
『ーーッ、なるほど。憎しみ以外の感情で我に挑むかっ、少年!面白いッ、面白いぞ……!!』
うるせぇんだよッ!互いに剣を振り下ろしてぶつけ合う。
「はあ゛ッ」
鍔迫り合いになった《牛紅剣》を鎚で殴りつけた!剣を押し込んで、アイツの剣を無理矢理押し退けて振り抜いたッ。
『ぐぅっ』
アイツの胸元を斬り裂く。だけど、浅いッ。返す剣で振り上げる!盾で防がれる。剣を振るってくるのを鎚で相殺して、《牛紅剣》を薙ぎ払ったッ!!
『甘い』
あっさりと盾に受け止められた。
『《封技結晶》で記憶を読み解こうと、少年自身の剣の腕が上がったわけではない。私に剣を届かせることなど不可能だ』
「だからっ、うるせぇんだよ!!」
盾を弾くッ。鎚を縦に振り下ろすけど剣で防がれる。今度は逆にアイツが剣を突き出した!剣を横から当てて逸らすっ。刀身が首の真横を通り過ぎた。そこに踏み込んでーー
『シュッ』
「ーーッ!?」
踏み込んだ瞬間、アイツの盾が面で襲いかかってくる。ぐあっーー躱すことも防ぐことも出来ずに喰らって後ずさるっ。数歩下がったところで、ようやく踏ん張れた。
『青年を失った今、君たちに本来の連携はない。実力差は歴然、君たちは私に勝てない』
勝てない。俺は、アイツに勝てないのか……?
ーー……勝てよ……坊主…………
いや、違う。《鬼王の牙鎚》を握り締める。
「勝手に、決めつけるなっ」
『……?』
「お前は強い。ここまで剣で敗けたのは初めてだ。だけど、それだけだ」
『なに?』
「俺には戦う理由がある。生きる理由がある。仲間を想う気持ちがある」
剣でアイツに勝てないというのなら、
「技で、体で、この想いで、お前に勝つ!行くぞ、ユキ」
「ーーッ。ええっ。もう涙は見せないわ」
『ーー良かろう。その覚悟、すべて受けてくれる』
アイツが構えた瞬間、俺は駆け出す!《威力強化》ッ。《スネークド》……!!
『ッ!?なにっ』
剣で受け止めたアイツが、予想外の威力に後ずさるっ。
「ハァァ゛ッ」
追撃で剣を振るうッ。盾で防がれたのもお構いなしに鎚を振るう!腕を止めることはない。アイツに反撃の隙を作らせるなッ!!
『はーー』
「ァァァァッッ!!」
突き出してきた剣を《牛紅剣》で逸らすッ。そのまま前に踏み込む!
『だから甘いとーーッ!?』
アイツが盾を突き出してくるのはわかっている!だからっ、面で突き出してきた盾に向かってーー
レベル1弾き上げ《鎚技》ーー《ヴァース》!!
「ぁぁ゛ッ」
下から《鬼王の牙鎚》を振り上げる!そして、アイツの盾を上へと跳ね上がらせたッ。
そういえば、この武技はまだアイツに見せたことが無かったな!《威力強化》!!
レベル3上下二段脚《体技》ーー《コブマ》ッッ!!
踏み込んでっ、左脚を顎目掛けて蹴り上げる!
『ぐはっ』
仰け反るアイツに、更に体を回転させて勢いをつけた右脚の踵落としを放つ!見事に顔面に炸裂した。アイツが後ずさる。
「〝光の槍に貫かれ魔を滅せよ〟ッ!!」
そこに、ユキから光の槍が放たれる。さすがのアイツも喰らうわけにはいかないのか、盾を突き出して防ぐ。だけど、それで防げたのは1本目までだ。
『がッーー』
アイツの胸元を、光の槍が貫いた。お前は知らないだろ?ユキのスペリング技術が、ただの早技ではないってことをっ。ユキは綴った術式のすぐ後ろで、もう1つ同じ術式をスペリングしていたんだよ。目に見える術式は1つ。でも、実際は2つの術式がそこに存在し、放たれる魔術も2つになる。つまり、アイツは2つの内の1つを防いだに過ぎない。
そして、アイツの癖だ。アイツは驚愕すると動きが一瞬だけ止まる!それがっ、この至近距離じゃ命取りだ!!《サイライト》ッ!!
上から《牛紅剣》を振り下ろす!それで、盾を突き出しているアイツの左腕を斬り落としたッ。
『ーーッ!?』
また動きが止まったっ。ここだ!ここでっ決める……!!
レベル10ーー
アイツの懐に入り込み、踏み込むッ。
十連撃《剣技》・奥義ーー
「《ゾルア・バルレッド》ッッ……!!!!」
振り下ろし、薙ぎ払い、水平斬り、上段斬り、下段斬り、袈裟斬り、振り上げ、薙ぎ払い、振り上げ、振り下ろし!計10回、剣を振るう!!そのすべてをアイツの体に叩き込んだッ!!今までにない手応えだ。
全身の甲冑がボロボロになって崩れ落ちる。ほとんどの破片が捲れて、その空っぽな中身が丸見えになる。いや、空っぽではなかった。人で言えば心臓部、その位置に青白く光る球体がーー
『ーーッ。まだだッ……!!』
「ーーッ!?」
残心を取っていた俺に剣を振り上げてきたッ。身を引くのが遅れーーッッ!!右腕から肩から斬り飛ばされたッッ。
「ハルトッッッッ!!!!」
『まだ詰めが甘いぞっ少年!肉体無き今っ、核を破壊されない限り敗れるこーー』
「ーーーーだ」
ーーーーこっちだってッッ、
「まだだっっ……!!」
右足で踏み込むッ。左手に持つ《鬼王の牙鎚》が輝く!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ」
鎚をっ横から叩きつける……!!
その鎚は丸見えになった内部へと入り込みーー
ーーその核を粉砕した。
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「……ト……ルト……」
ん……体が揺らされてる?
「……ルトッ…………ハルト……」
それに、呼ばれてる?あー、そうか。思い出した。
「ハルトッ!!ハルトッッ!!」
「ん……ユキか」
「ーーッ。良かったッ……本当に良かったッ……」
俺は《天空塔》に挑んで……それで……、おっさんを失った。
「ーー?」
っ、そうだった。右腕は斬り飛ばされたんだった。って、え?左手で右肩に触れるッ。ーーッ、本当に肩から下がない。いや、なら出血多量で死ぬはず……。なんで生きてるんだ?左手だけで上体を起こす。
「血が止まってる……。ユキが《ヒール》してくれたのか?」
完全に血が止まっていた。傷口を塞いだって感じでもないし、他に考えられるとしたら《ヒール》ぐらいだ。でも、ユキは首を横に振った。
「多分、この変な空間のせいだと思う」
「変なーーッ!?」
うわっ、全然気づかなかった!ここさっきの場所と違う。白い空間なのは変わらないけど、さっきまであった壁とか天井がない……。まるで、どこまでも白い空間が続いているかのような……そんな場所に俺たちはいた。
「ここは……?」
「わからないわ。アイツを倒した瞬間、突然この空間に居て……」
「目覚めたようだな」
「「ーーッ!?」」
突然声がしたっ!声がした方に勢いよく振り返るッ。そこには、男が立っていた。金髪で緑色の目、それに西洋風な顔立ち。どっからどう見ても日本人じゃない。というか、この声はっ……
「さっきの甲冑野郎か!」
「ッ、嘘……倒したはずじゃ……」
「待て。そう警戒するな。私に戦う意思はない」
戦う意思はない……だと。
「お前にはなくても、こっちにはあるんだよ!お前を必ず倒すッ」
「……君のその想いは尤もだ。だが、ここでの争いは禁止されている」
禁止?
「ここは精神体のみが動くことができる空間でね、それ以外は動くことも動かすこともできない。魔力も然り、この武器も然りだ」
アイツは腰に携えた剣を抜こうとする。だけど、抜かなかった。いや、アイツの説明通りだと抜けなかったのか?隣にいるユキに視線で問いかけてみる。
(魔力は動かせるか?)
(ダメみたい。アイツの言ってる通り、ピクリとも操作できないわ)
マジか。じゃあ、アイツが言っているのは本当だというのか……?
「君の想いは晴れないが、君の言う私を倒すというのは確実に実行された。偽りの体だったとはいえ、あの武器と技は間違いなく私自身のものだ。君は、間違いなく私を倒した」
何なんだ、さっきから……。アイツは、一体何を企んでいる……?
「……ふむ。すまない、私は説明が下手でね。君たちを余計に警戒させてしまったようだ。ここからは単刀直入に言おう。まずは、《ランスロットの迷宮》の攻略、おめでとう」
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・ダンジョンマスター《ランスロット》を倒しました
ーー紅真珠
ーー碧真珠
ーー黄真珠
ーー翠真珠
ーー白真珠
ーー黒真珠
ーー無真珠
ーー封技結晶×2
ーー白銀の騎士甲冑 を獲得
・《天空塔》を攻略しました
・《ランスロットの迷宮》がクリアされました
ーー全ての探索者が現実世界へ帰還します
・レベルが22に到達しました
・レベルが23に到達しました
・レベルが24に到達しました
・レベルが25に到達しました
・熟練度《短剣術》が50に到達しました
ーー《短剣技》レベル5《ナナメギド》
ーー《短剣技》レベル5《ソレオ》
ーー《短剣技》レベル5《ウンゲイ》 を習得
・熟練度《鎚術》が20に到達しました
ーー《鎚技》レベル2《ヘビデット》
ーー《鎚技》レベル2《バーレスト》
ーー《鎚技》レベル2《アルデオ》 を習得
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「あと、これも解除しよう」
「?ーーッ」
ぐっーー頭の中が開けられるッ。これはっ……記憶、か。
ーー咲原晴翔
「ッ。思い、出した」
晴翔。全部、思い出した……。
「お前が、やったのかっ……?」
「ああ。君たちの記憶は、私が封じさせてもらった。訳あってのことだとは言え、君たちには申し訳ないと思っている」
「ーーッ」
拳を握り締めて殴ってやりたいッ。だけどっ握り締めた途端に拳が動かなくなる……!これがっ、この空間の効果だというのか!?
「なんで、そんなことをしたっ?」
自分のことを思い出せないことがどんなに不安でっ、どんなに苦しかったと思ってる!?お前をぶん殴らないと、この気持ちは落ち着かないッ。
「…………君たち人間の中にある固定観念が邪魔だったからだ。君たちが体験したことは、今まで過ごしてきた日常には無いモノばかり。そんなモノと戦うという決意を、私はすぐにでもして欲しかったのだ」
「……」
確かに、納得はする。いや、アイツがそう配慮してのことだったのなら、それは正しく正解だ。争いから離れた日本人なら、尚のことだと思う。そうわかっていても、この怒りがどうとなる訳じゃ無いが……。
「そして、記憶の縛りを解いた今、君たちに説明しなければならない。君たちに迫っている危機ーーいや、地球の危機を」
「地球の……」
「危機?」
「地球は今、異界からの侵略を受けている」
ーーッ!?異界からの侵略っ?……って、
「いかい、って……」
「何?」
「…………まあ、異世界ということだ」
ユキも俺と同じことを思ったらしい。普通に首を傾げた。
「その異世界から、今まさに侵略を受けている。敵の詳細は不明。どこから来ているのかも、どんな力を持っているのかもわからない」
何もわかってないってことか?
「今は私たち神が被害を天界までに抑え込んでいるが、奴らは私たちよりも強敵。挑んだ神は、尽く死んでいった」
神が、死んでいった?
「神が死ぬなんてことあるのか?」
「有り得ない。例えそのようなことがあれば、地球上にも影響を及ぼす。神というのは存在そのもの。その存在が失くなれば、その存在に因んだものが地球上からも消滅する」
「そんなヤバいのか!?」
「ああ。逆にいえば、地球上でその存在が失くなれば、その神もまた消滅する。神とはそういうものなのだ」
地球上のものが存在を失くす……まるで紙一重の関係だな。
「ただし、片方でもそれが存在するのであれば消滅することはない。故に、神が死ぬことは原則として有り得ない。……はずなのだが、そのどの例外にも干渉することなく、奴らに殺された」
「…………」
神が死ぬって言うのには、まだ実感がないけど……
「それを聞かせて、俺たちに何をさせるつもりだ?」
「簡単な話だ。君たちには、将来奴らと戦ってもらう」
「ーーッ」
「そんなの、無理に決まってるじゃない。貴方たちに勝てない奴に、私たちが敵う訳がないわ!」
「尤もな意見だ。全ての神がそれを除外していた。ただ一柱を除いてな」
ただ一柱?そんな馬鹿げたことを考えた奴がいるのか……?
「ソロモン王。聞いたことぐらいはあるのではないか?」
ソロモン王…………ちょっと聞いたことないな。
「確か、マンガで見たことあるような……」
え、ユキは知ってるの?あー、でもマンガだったらダメだわ。だって、俺マンガ読んだことないし。
「おそらく、それで合っている。それの原点が、私たちが勝利する未来を視てきたのだ。神が人間を育て、この窮地を救う英雄を作り出す光景を」
「神が人間を育てる……」
なるほど、ようやく読めてきたぞ。
「つまり、俺たちが戦ってきたのは、その一環だったってことか……?」
「そうだ。6つの神話から一柱ずつ選び出し、その者に迷宮を作らせ、才能ある人間を育てる。それが、君たちが体験したものの正体だ」
来る時のために人を集めて戦わせて育てる。はははっーー
「ふざけるなッ!!」
何が育てるだっ!
「お前たちの都合でっ、お前たちの勝手で亡くなった奴がッ、何人いると思う!!ユキの友達が4人!集落で暮らしていた人が31人!!それからっ、お前が殺した1人ッ!!そのすべてが亡くなっていい命だとでも言うのかッ……!!」
そんなものは1つだってない!みんなが生きたいと願ったはずだっ。ここに来なければ、それが叶っていたはずなのに……!
「……世界を救うためだ。世界を救うのに、必要な犠牲だ」
「ッ。それがっ、お前たち神のやり方だって言うのかッ?」
一を捨てて全を救う。それが正しいとでも言うのか。
「少年、これは必要な悪だ。綺麗事だけでは何も救えない。切り捨てたからこそ、救えるものだってある」
「ッ、悪だとわかってて、それでもお前はそれを選ぶのか?」
「ああ。それで救えるのであれば、私は誰に恨まれたって構いはしない」
ーーッ。そう言ったアイツの顔は、本物だった。その考え方も、その決意も、嘘なんかじゃない。きっと、アイツはたくさん考えたんだろう。何かを救いたくて、いっぱい考えたに違いない。その答えがこれだと、アイツは言った。
「お前の考えは、よくわかった」
お前たち神が俺たちに求めていることも、俺たちをどういう風に思っているかってことも、よくわかった。だから、俺はその逆を行く。
「ふざけるな、神共。俺は、絶対にお前たちの掌の上で踊ってやったりしない。俺は誰も犠牲になんてさせない。おっさんに言われた通り、俺はこの先も戦い続けて、誰も死なさないように世界を救う」
「ーー……その先は地獄だぞ?少年の身が刃によって引き裂かれることだってある。正真正銘の地獄だ。それでも、その道を進むのか?」
「ああ。そんでもって、俺はお前たちとも戦う」
「なに?」
「神だろうがなんだろうが、必ずそこから叩き落とす。帰ったら全員に言っとけ。俺がその天狗の鼻を叩き斬ってやるから、首を長くして待っとけってな!」
「ーー良いだろう。伝えておこう」
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・神技を習得しました
ーー神技《武装解放》 を習得
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なんだ、これ?神技?
「それは迷宮を攻略した者に贈られるものだ。私の神技《武装解放》。少年の剣にピッタリな神技だ」
いや、そんなことを言われても……それだけじゃ何もわからん。
「それと、少年には私の剣をくれてやる」
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・武器を獲得しました
ーー聖剣《アロンダイト》 を獲得
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は?
「え、なんで剣を?」
「少年のような剣士に、この剣は似合う。私では、その剣を正しく使うことはできなかった」
「……呪いの剣とかじゃないだろうな?」
「安心しろ。それは魔に堕ちる前の物で、今は正真正銘の聖剣だ」
その言い方にとてつもない含みを感じるんだが……。
「さて、これが最後の賞品となる。これはダンジョンマスターとしてではなく、騎士である私としての褒美だ。君たちの願いを1つだけ叶えてやろう。ただし、何でもは不可能だから、可能な範囲で言ってくれ」
うわー、すげぇ胡散臭せぇ。てか、神の不可能の範囲ってどれぐらいだよ。死者蘇生とかーー
「なあ……死者を蘇らせる、ってのは可能なのか?」
「ッ!?それって……」
俺の言葉に、ユキが大きく反応した。俺の考えてることがわかったんだろう。答えはっーー
「残念だが、死者蘇生は範囲外だ」
ーーそうだよな。何勝手に希望を持ってんだよ、俺。俺が守れなかった者を生き返らせるなんて……何を考えてるんだか。
「ただし、例外はある。私の管轄内での死であれば、それを取り消すことは可能だ」
「……?それって、どういうーー」
「つまり、この迷宮で死んだ者であれば、それを取り消すことで蘇生することができる」
「「ーーッ!?」」
そ、それならーー
「この迷宮で死んだ者たちの蘇生、これを願いにすることは可能か?」
「可能だ。しかし、その者たちはこの迷宮で敗れた。取り消したとて、それに変わりはない。その者たちに、ここで過ごした記憶は失くなり、探索者でもなくなる。それでも構わないか?」
ーーユキに、視線を向ける。ユキは、俺が何を問いているのかわかったみたいで、覚悟を決めた顔で頷いた。やっぱり、ユキは強いな。本当に。
「ーーああ。やってくれ」
「わかった。君たちの願い、確かに聞き届けた」
アイツがウィンドウを出して何かを操作し始めると、すぐに閉じて言ってくる。
「さて、もうすぐ君たちはこの空間から現実世界に帰される。今のうちに、別れのあいさつでもしておきたまえ」
「ーー……なら、そうさせてもらう」
アイツがそっぽを向いてから、俺はユキに向き直った。ユキも俺の方に向き直る。
「…………」
「…………」
ヤバい、記憶を取り戻した際かめっちゃ緊張してきた……。いつもどんな話ししてたっけ……?
「ねぇ、ハルト」
「ッ、あ、ああ」
き、緊張で声が震えそうだっ……。ヤバい、どうしよう!?
「ありがとう。ここまで来られたのは、ハルトのおかげ」
「……そんなことない。ユキと……おっさんが居てくれたから、俺はまだ生きてる。だから、俺の方こそありがとう」
「ううん、そんなことない。ハルトと出会ってなかったら、私はあの洞窟で死んでたんだし」
「それを言うなら、俺が助けに入った時にユキがあのゴブリンを倒してくれてなかったら、俺もあの時に死んでたんだ」
「いや、それはーー」
「いいや、そうじゃーー」
なかなかユキが認めてくれないっ。さっきからずっと互いに言うことを否定してる……。
「「だからっ」」
あ、ハモった。
「ぷっ、ははははっ」
「ふふふふっ」
なんか、面白くなっちゃった。ハモったのがなぜか嬉しくて、自然と笑ってしまった。
「また、会えるよね?」
「ああ。向こうでも会える。絶対」
「うん。絶対だよ?あ、そうだ。まだ名前言ってなかった」
あ、そうだった。俺たち、下の名前しか知らなかった。なんか、こんなに知った仲で今更自己紹介って、変な感じだな……。
「俺は、咲原晴翔。花が咲くの『咲』に、野原の『原』。ハルトは、晴れの『晴』で、飛翔の『翔』って書いて、晴翔」
「咲原、晴翔。咲く原で、晴れやかに翔ぶーーうん、覚えた」
なんかめっちゃ簡潔にまとめられたっぽいけど……まあ、覚えやすいからいっか。
「私は、大桐雪輝。大きい桐って書いて『大桐』で、雪輝は雪のように輝くって書いて『雪輝』。わかった?」
「えっと、『きり』ってあれだよな?木偏のやつだよな?右が『木』で、左側が『同』じって書く」
「うん。それで合ってるよ」
大きい桐で、雪のように輝く……ん?ユキって、雪のように輝くって書いて『雪輝』なんだ。へぇ、なんか良いな。
「雪輝。良い名前だな」
「晴翔だって、良い名前だよ?」
そんなことを言い合う。今なら、言えるかな。今まで気づかなかった気持ちを。
「ユキ、俺ーー……ってあれ?」
ゆ、ユキはっ?目の前に居たはずなのに、周りを見渡してもアイツしか居ない……。
「現実世界に帰ったのだ」
「えー、もうちょっと猶予をくれよ……」
めっちゃ勇気出したのに……。いやまあ、今まで自分でも気づかなかったのが悪いんだけどさ。
「えっと、確か……ランスロット、だったか?」
「ああ。ただの騎士、ランスロットだ」
「……お前の考えは否定したけど、きっとお前は悪い奴じゃない。だから、お前のことは、ちゃんと覚えておくよ」
「ーーふっ。しがない騎士の名を覚えてくれるとは歓迎だ、少年。だが、君が歩むのは茨の道。それをゆめゆめ忘れるなよ?」
「わかっている。お前こそ、伝言忘れるなよ?」
戦い続ける覚悟は、できている。俺は救ってくれた人のためにも、戦って、これ以上誰も死なせないように、この戦いを終わらせる。
「そうだ、少年。最後に剣を2本持った武術、あれの名前を教えてくれないか?」
あー、あの変なのか。名前って言われても……
「《???》だけど……」
「……まさか少年、まだ名前を付けていないのか?」
「名前を付ける?どういうことだ?」
「はぁ……まあ、これほど早く覚醒すれば気づかないのも仕方がないか」
なんか、すげぇ呆れたため息を吐かれたんだけど。
「少年、それはこの世に2つとない唯一無二のものだ。今まで観測されたことがない故に、それに名などない」
「観測されたことがない、武術……」
だから、《???》。本当に変なのだったのか。
「そして、それは名前を持つことで確かな力となる。名前を付ければ、今まで以上の力になるだろう」
「名前……」
名前……剣を2本持つ武術だから…………
「ダメだ、さっぱり思いつかない……」
「少年、時間がない。早く決めてくれ」
「急かすなっ……余計に思いつかなくなるだろ」
「はぁ……なら、私が直々に付けてやろう。そうだな……」
はあ?自分でしがない騎士とか言ってたくせに、なんでそんな上から目線なんだよ。お前に付けられなくたって、ちゃんと決めーー
「うむ。これなんかどうだ?」
早ッ!そんなすぐに思いつくもんなの!?
「《二刀剣術》、なかなか良い名前ーー」
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「ーー行ってしまったか。まったく、間の悪いことだ」
1人、男が呟いた声が何もない白い空間に響き渡る。呆れたように呟いたが、すぐに気持ちを切り替えて神妙な表情に変わる。男の頭に思い浮かべたのは、さっきまで話していた少年の顔。
「剣の才能を見出された少年、か」
次に思い浮かべたのは、その少年が神に啖呵を切った時の顔だ。思い出すなり笑みを浮かべ、男は誰に言うでもなく呟く。
「熟練度100、それが成せればーーーー可能だろうな」
そんな言葉だけを木霊させ、男は白い空間から忽然と姿を消した。
第35話を明日の18時に投稿します。 作者より




