日常編 part6
迷宮組の出発前日の早朝。
直也は凰雅に会いに来ていた。
「二宮、お願いがある。」
直也は、意を決したような表情をしつつ、凰雅に話しかける。
「作って欲しいものがあるんだ。」
そう言って直也は頭を下げた。
それから9時間後。
勇者全員が、第1訓練場に集まっていた。
理由は、前日になっても未だ通達がなかった今回の迷宮組のメンバーの発表であった。
オリガが、揃ったことを確認し、発言を始める。
「みんな、集まってくれてありがとう。今日お前達を呼んだのは、迷宮組のメンバーについてだ。
今回の迷宮組のメンバーについてだが……、全員に行ってもらおうと思う。」
そこで、勇者達からどよめきが生まれる。
「ちょっとまて。我のような技術職はどうするのだ。」
声を上げたのは凰雅。
勇者の中で、技術職は彼だけだったのだ。
「向こうではサポートにまわってもらう。他の勇者達が迷宮に潜っているあいだは、宿で待つなり一緒に迷宮に潜るなり、好きにしてくれて構わん。」
そう返すオリガ。
春輝がそこで声を上げる。
「俺は、勇者じゃないんだけど。」
そこでまたどよめきが生まれる。
オリガが驚きつつも春輝に質問する。
「何を言ってるんだ?お前は勇者だろ?」
「俺は、勇者である前にお嬢様の執事だ。お嬢様が王城に残るなら、ここに留まる必要がある。」
そう言い放つ春輝。その言葉に悩むような素振りをした後、オリガが折れたように口を開く。
「……じゃあ、リオネスにも出向いてもらう。それでいいか?」
「分かった。ならいい。だけど、そんな大所帯で行けば不便じゃないか?」
「向こうで班分けをするからそこは問題ない。他に言いたいことがあるやつはいるか?」
オリガが問うと、直也が手を上げる。
そして、こう言った。
「第二王女様を連れていってもいいか?」
その場にいる王国側の人間が全員絶句した。
そして、オリガが少し経ってから口を開く。
「……何故?あの方は、目のせいで外に出られないはずだが?」
「……あの子の魔眼の力を抑える道具なら作ってもらった。そこにいる凰雅に。だから、問題は無い。」
凰雅は自慢げに胸を張っている。
オリガはそこで、全員が思っている疑問を口にする。
「何故、そこまでしてアイリ様を連れていきたがるんだ?」
「……あの子に、外の世界を見せてやりたいんだ。彼女は王城の中にいても飽きないといっていたが、それは嘘だと思った。だから……、連れていってやりたい。どうか、頼む。」
そう言って頭を下げる直也。
直也自身も、なぜここまで自分が必死になって彼女を助けようとしているのか分かっていなかった。
(きっと、望月さんと重ねているんだろうな。彼女を。)
そんなことを思い、心の中で自嘲げに笑う。
そんな様子の直也を見たオリガは、先程までの真剣な表情とは打って変わって、いつものにこやかで元気いっぱいの笑顔で、
「よし!いいだろう!お前がそこまでしてやってんだ。俺達も、それに答えてやろうじゃないか!」
そう、言い放った。
「そんな訳で、すいませんでしたお嬢様。」
そう言って土下座する春輝。
リオネスは苦笑いしながら、春輝に声をかける。
「いや、構わないぞ、春輝。私も迷宮に入ってみたかったしな。お父様に対して外に出る良い口実ができた。」
そう言われて、ほっとして顔を上げる春輝。
しかし、そこでジルのジトっとした視線に気づき、背筋に冷や汗をかく。
「春輝殿。主を自分の都合で動かすなんて、執事としては論外ですぞ?あなたはやはり、執事としての自覚が足りないのではありませんか?」
「それはとてもよく分かってます……。本当にすいませんでした……。」
「お嬢様もお嬢様です。言う時にはピシッと言わないと、春輝殿のためにもなりません。」
「うっ……。しかしだな。嬉しいことは本当なのだ。だから感謝すらしている春輝に注意する気には……。」
「まあまあ、ジル。そこら辺にしといたらどうです?お嬢様も喜んでるし、結果オーライじゃないですか。私たちのまで巻き込まれましたけども。ね?春輝。」
「ミーシャ……。悪かったよ、お前まで巻き込んで。」
「反省の態度が見えないね。明日の洗濯を変わってくれれば許してあげよう。」
「……それ、お嬢様の下着を俺が洗うって意味なんだけど?」
「ジルだって洗ってるじゃない。」
「それはジルさんだからだろ!?お嬢様だって俺に下着を洗われるのは流石に嫌ですよね?」
「……い、嫌……では……無いな。春輝なら別に……。」
「じ、ジルさん!男の従者が女性の主の下着を洗うのはまずい事じゃありませんか!?」
「別にいいと思いますが?」
「俺に味方はいなかったっ……!」
そう言って地に伏せる春輝。
そこで、ミーシャが助け舟を出す。
「仕方ないですね。なら、今日の夕食のメニューを希望のメニューにするという事で手打ちとしましょう。」
「お、それはいいな!よし!春輝!私は麻婆豆腐が食べたいぞ!」
「では、私は豚骨ラーメンがいいですね。春輝殿、チャーシューとメンマとネギを大盛りでお願いします。」
「あ、私はフライドポテトが食べたい!春輝、よろしくね?」
口々にそういう3人。
それに、春輝は涙目になりながら、
「せめてジャンルを統一してください……!」
と、返事をした。
その頃、植物園にて。
直也は、凰雅に作ってもらったとあるものを、胸ポケットにしまいながらアイリに会いに来ていた。
直也が近づくと、アイリは微笑みながら手を振ってくれた。
「直也様、お待ちしておりました。」
「アイリ、俺はお前に話すべきことがある。」
そう言って、真面目な顔でアイリを見る直也。
直也が纏う空気で察したのか、アイリも真面目な顔になる。
「俺は、君に謝らなくちゃいけない。」
そう言って、迷宮組について行かせると勝手に言ったこと。
そして……、自分がアイリに、美冬を重ねているかも知れないこと。
その話を聞いて、アイリはそれでも直也に微笑む。
「構いません。私は、あなたにどう思われようとも。私は私でいるだけです。」
その言葉に、アイリとの絶望的な距離を感じた直也。
ズキズキと痛み続ける胸を抑えつつ、直也はそれでも続ける。
「アイリ、渡したいものがあるんだ。」
そう言って胸元から持ってきたものを取り出す。
それは、綺麗な銀縁の眼鏡だった。
「これは……?」
「それは、魔眼殺しの眼鏡だ。勇者のひとりに作ってもらった。……なあ、アイリ。」
そう言って、直也はアイリの顔をまっすぐ見る。
アイリも、直也の目をまっすぐと見返す。
「……俺と、付き合ってくれないか?」
その言葉に、アイリ、そして言葉を発した直也まで困惑する。
(何を言ってるんだ!?俺は!)
慌てて、直也は言葉を打ち消そうとする。
しかし、不思議と言葉が出てこない。
否定したくないのだと、直也は直感した。
そして確信した。
俺は、この少女に、恋をしているのだと。
出会って四日ほどしかたっていない、この少女に。
自分が辛い時に、助けてくれたこの少女に。
直也は、なんて単純な男なんだ、と自己嫌悪した。
そして、ようやく、目の前の少女が、泣いていることに気づいた。
「な!?アイリ、なんで泣いてるんだ!?」
「……なんで、そんな事言っちゃうんですか!せっかく諦められそうだったのに!」
そう言って、涙を流しながら声を上げるアイリに、直也は困惑する。
「私は!……私は!あなたが好きでした!一目惚れでした!あなたの心を見た時に、どうしてもあなたに好きになって欲しいも思いました!
あなたが好きだった人に私を重ねていたと言われた時、本当は辛くて、悲しくて!でも、表情に出せばあなたが悲しむことはわかってるから、必死に抑えて!あなたが私を見てくれているならそれでもいいかと自分に嘘までついて!諦めようとして!
でも……、そんな事言われたら!諦められなくなっちゃうじゃないですか!あなたの中の望月さんって人が消えるくらい、私で埋め尽くしたくなっちゃうじゃないですか!どうしてくれるんですか!あなたの事で頭がいっぱいなんです!ずっと!ずっと!!」
そう言って、自分の押さえつけてきた心を吐露するアイリ。
その言葉に呆然とする直也。
「直也様!」
「は、はい!」
「あなたの事が好きです!好きすぎて辛いです!あなたの隣にいたいです!私だけを見ていて欲しいです!こんな事ばっかりしか考えられないんです!」
そう言って、泣きながら最後の言葉を吐き出す。
「責任!とって下さい!!」
その言葉が、直也の中で反響する。
そして、くすりと笑う。
「そっか……。そうだな。責任、とらないとな。」
そう言って、自分の座っていた椅子から立って、アイリのところに近づき、アイリを抱きしめる直也。
「あっ……。」
声を上げるアイリ。
「アイリ。俺は、お前のことが好きだ。望月さんとなんで比べれないくらい、アイリ=リーデルという名前の女の子が、大好きなんだ。こんなに人を好きになったのは、生まれて初めてだ。俺みたいなので良ければ、貰ってくれないか?」
そう、アイリの耳元で言葉を紡ぐ直也。
彼の、嘘偽りのない本心だった。
その言葉に、また大粒の涙を浮かべながら、アイリは心の底から嬉しそうに、
「こんな私で、いいのなら!」
と、笑顔で言うのだった。
次回!ついに魔王ちゃんの登場です!
1話から随分と引っ張ってきちゃったけれど、ようやくです。
さて、直也君とアイリさんの告白シーンはいかがだったでしょうか。
正直に告白します。作者、思いつく限りの言われてみたいセリフを羅列しました!そんなわけで、おかしい所もあるかもしれませんが、のちのち改変しようと思うので、許して欲しいです。
やっぱり、告白描写はなんか胸が温かくなりますね。




