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第十一話 再会

「本当に大丈夫なのか? わ、私もついていこうか?」


 午後の授業はパートナー学科だ。これが初めての参加になるため、ジェンシーは終始こんなことを言っている。俺の保護者かこいつは。

 パートナー学科にいけば、俺に突っかかってくるものも多くいるはずだ。

 昨日だって、たかが数人しかいない勇者学科の授業でさえ絡んできたのだからもっと増えるだろう。


「大丈夫だって。それじゃあ、またホームルームでな!」


 強引にふりきって、俺はクラスメートたちについていく。

 教室の場所を聞きたくても無視されることのほうが多いのだから遅れないようにするしかない。

 クラスメートたちの行き着いた先は、小さな体育館だ。訓練用に使われる場所で、三クラス程度が集まっている。

 勇者もそうだが、パートナーのほうが多いかもしれない。

 ……この中には、勇者を見つけられていないものもいるのか。それらしい者たちが、俺を見るやいなや威圧的な目を向けてきた。

 ……二人のパートナーになっていることは絶対に言ってはならないな。

 教室の隅で待機していると、それらしいジャージに身を包んだ体育教師が、大きな一歩で近づいてくる。

 鋭い目つきはそれだけで心の弱い者を射殺せそうだ。顔には無数の傷があり、いくつもの戦場をくぐりぬけたような形相をしている。あれが教師だろうか。

 授業以外では関わりたくない。街で見たら、絶対に避ける。

 授業開始よりも少し早いが、生徒たちはそそくさと列になっている。

 生徒たちの列に割り込んだ俺は、教師の歩みを眺めていると、不意に目が合った。


「おい、コォォォル!前に来い!」


 教師に名前を叫ばれ、俺は少し不安になりながらも前に出る。


「おまえはこれから、パートナーとなるが、俺たちの役目はちゃんと理解しているかっ!」


 頭に響く大声に、俺は耳を痛めながら返事をする。


「もちろんっすっ。勇者を守ることです」

「そうだっ。勇者に対する危険は、ダンジョンだけか!?」

「いや、街にも危険はたくさんあります」


 この前ジェンシーも盗まれていたし。


「ああ、そうだ。俺たちパートナーは、勇者のすべてを守らなければならないっ。それを念頭に置いて訓練に励むようにっ! それでは、全員に自己紹介をしろっ」


 これ、俺だけが特別で自己紹介をしているのだろうか。もちろんみんな入学と同時にやっているんだよな?

 俺が一方的に名乗るという行為はなんとも差別的なものだと思う。逆らったら首が落とされそうなので従うしかない。


「俺は一年三組のコールっす。これからよろしくお願いします」

「誰のパートナーだっ!?」

 

 それをここで言えと?

 なんか悪い空気になるかもしれねぇぞ? 俺かなり空気読める人間なんだからな。

 絶対に悪いことが起こるからな。知らねぇからな?


「……ジェンシー・フェルマのパートナーっす」


 瞬間。殺気ともとれるような威圧が俺にたくさん寄せられる。

 力のすべてが俺へと向けられる。みんなの力が集まったせいで、先生に負けず劣らずの眼力となっている。

 注目は苦手というか、されたことがないため、俺は頬をかいた。


「おまっ!」


 一人の生徒が声をあげる。俺よりもはるかに小さい身長の男……そいつは列から顔だけを出している。

 俺と目がばっちりあって、大きく見開かれている。俺も彼を見て、目を見開いてしまった。

 どうして、ここに弟のヒサガがいるんだ……?


「どうしたヒサガっ! 今は自己紹介の途中だぞっ」


 他人の空似でないことは、教師の雄たけびのような声によって証明される。

 ……最悪な出会いだ。だが、可能性は低いがおかしな話ではない。

 俺の兄は、勇者となり、ヒサガは勇者の才能こそなかったが高い身体能力を生かすためにパートナーとなった。

 ま、次男の俺は家の金をむさぼるニートになったのだ。

 貴族街と平民街を含めて、勇者育成学園は五つある。その中のどれかにヒサガが通っている。

 平民街の学園に通うことはまずない。となれば、家に近いほうを選択するだろうが……。

 俺がいるここの学園よりも、もう一つのほうが近い。なんで、わざわざここに通っているのかねぇ。

 

「い、いえ……そのっ」


 ヒサガは肩を震え上がらせている。ここで兄弟であることがばれてしまうと、いろいろと面倒なことになりかねない。

 ヒサガを庇うわけではないが、誤魔化すために笑みを浮かべる。


「彼には、ちょっと……道を案内してもらって……その」


 俺の言葉に教師は特別疑いを見せることはない。


「なんだ、そうだったのか。ならば、何かの縁だコール。ヒサガに色々と教えてもらえ」

「え……?」


 ヒサガの戸惑いの声に、教師は睨みつけるように反応した。


「何か問題でもあるか?」

「ないですっ! わかりましたっ!」


 ヒサガは見事な敬礼とともに、首を落とさんばかりに上下させる。あれでは脅迫みたいなものだ。

 自己紹介も終了し、教師が説明を始める。

 今日の授業内容は、対人戦での訓練だ。ヒサガと向かい合いながら、先生の目を盗んで会話をする。


「……兄さん。なんでこんなところにいるのですかっ」

「……まあ、色々あったんだよ。おまえこそ、なんで一番遠いここに通っているんだ?」

「え、えと……その」


 何かを隠しているのは明白だったが、ヒサガは強引に誤魔化した。


「別になんでもいいじゃないですか……家を追い出されたはずなのに、どうしてこの学園に? おまけに、ジェンシーさんのパートナーだなんて、なぜですかっ」


 苛立ったようにヒサガは地団駄を踏む。


「そりゃあ、俺だって色々あったんだっての。つーか、兄さんはやめろって」

「……とにかく、コールが真人間に戻れたようで安心しましたよ」


 ヒサガはそれだけを言い残して、前を向いた。

 これ以上の会話は俺たちの命に関わってくる、そう判断したようだ。

 俺も授業に集中すると、今日の訓練は対人戦のようだ。

 誰かと二人組みを作り、攻守で別れて戦うようだ。

 俺はもちろんヒサガと組む。 


「まずは兄さんが受けてくださいね!」


 ヒサガは膝を落とすようにして構えをとる。

 俺はいつも通りの自然体で彼の攻撃を待つ。ようは、怪我しないようにヒサガの攻撃を受ければいいのだろう?


「と、ととっ!」


 ヒサガは随分とのんびりに攻撃を開始した。フェイントも入れているようだ。

 俺がわざと引っかかると、ヒサガが続いて攻撃を加えてくる。……いや、だから本気でやれよ。

 俺は誰かと喧嘩したことはない。どうせ勝てないのだから、その状況に持っていかないようにするのだ。

 ……だから、こうやって戦うのは前世ぶりなのだが……ヒサガは遊んでいるのか?

 余裕で回避できるが、今は何の練習をしているのだろう。


「このっ、このっ!」


 ヒサガが腕を伸ばしてくるが、俺は周りの動きを見てみる。

 暴漢に襲われたときに、勇者を守るという状況設定のようだ。俺が暴漢で、ヒサガがパートナー役だろう。

 敵の手首を掴んで捻りあげたり、普通に正面から戦ってみたりと色々としている。

 ヒサガはなかなか攻撃が当たらないからか、一度距離をあける。


「相変わらず、逃げ足だけは速いですねっ! パートナーとしてはダメダメですよ!」


 そりゃあ、この世界の奴らの蹴りでも喰らってみろ。サッカー選手に蹴り飛ばされたボールのように弾かれるだろう。

 だから俺はとにかく逃げるのだ。回避だけならば、結構戦えると思っている。

 だが、ここまでとは思わなかった。逃げるだけなら、俺も結構強いようだ。自慢にならないが。


「……これは使いたくありませんがっ」


 おえ、魔力がたまってるじゃねぇか。

 と、気持ち悪さにくらりときたところで、ヒサガの目が鋭く光る。

 ヒサガは滑るようにして俺の懐へと入ってくる。身体強化の魔法だろうか。

 ヒサガの足が青く光、その両拳にも光が集まっていく。

 気持ち悪さがマックスに達したとき、ヒサガの拳が伸びる。さすがに避けられない。

 素晴らしい衝撃が俺の腹部に突き刺さり、数メートル体が浮かんだ。

 とにかく、受身だ。俺は怪我しないように着地をして膝をつく。マジ酔った。

 

「ば、馬鹿やろ! いきなり魔法を使う奴がいるかよ!」

「別に回避しているみたいだからいいじゃないですか! 本当に回避はうまいですね……」

「誰が回避したか! 直撃だっての!」

「直撃? 冗談を言わないでくださいよ。今僕が使った掌底をくらえば、骨はバラバラに」

「んな、危険な」

「そこまでは冗談ですけど……さすがにすぐに動けるわけがありません。よって、うまく回避したということです」


 もしかして、体調が悪い中なんとか避けていたのか?

 確かにその通りなのかもしれない。

 俺の体はかなり弾かれたが、腹部には一切のダメージはない。受身も失敗していないので、俺は完全に無傷だ。

 だが……回避してもあれほど距離をあける魔法。

 ほとんどチャージタイムのない魔法であるため、ヒサガが持つ魔法の利便性はかなりあると思われる。

 実際魔力土に同じような配分で魔力を込めても、作る人間によってまったく別の魔法が作り上げられるからジェンシーには無理か……。

 精製した人間以外に、魔法は使えないしヒサガに頼んで俺が使うってのも出来ないか。


「ヒサガっ! おまえはすぐに自分の力を誇示しようとするなっ」

「あ、いてっ!? す、すみません!」


 ヒサガに拳骨を落とす教師。この教師に弱みでも握られているんじゃないかとばかりに、ヒサガは怯えている。

 あの形相で拳銃でも突きつけられたら俺もいうことを聞いてしまいそうだが……。


「……はあ、ヒサガ。おまえはもう少し冷静にならないと大事な勇者を守れないぞ?」

「わ、わかっています。ですが……っああ、もうコールのせいですからね!」

「俺関係ねぇだろうが」

「そうだっ、相手に罪をなすりつけるなっ。一応コールは保健室に向かった方がいいな。一人で行けるか?」

「ええ、まあ……」


 二日連続で保健室にお世話になるとは思っていなかった。

 俺は肩を回して体の調子を確かめていると、脇から一人の生徒がやってくる。


「先生、なら俺が行ってきますよ。同じクラスの保険委員ですし」

「そうか。コールをよろしく頼むぞ」

「はいっ」


 クラスメート?

 知らなかった。まさか俺に手を差し伸べてくれる優しい奴がいるなんてっ。

 俺は彼に羨望の眼差しを向けながら、ともに外に出る。


「コールくん、少し喉は渇いていないかい?」

「まあ……水が飲めるなら飲みたいけど……」

「そうか。ならこっちに水のみ場があるよ。案内しよう」

「授業中にいいのか?」

「ばれなければ問題ないよ」


 意外と悪い奴だな。

 だが、こういうのは嫌いではない。本来みんなが授業をしているところで、水分をとるというのはいつもよりもおいしく感じる。

 俺が彼についていくと、不意に背後から殴られる。

 体が前に少し傾く。不意な衝撃ではあるが、別に痛みがあるようなものではない。

 俺が振り返ろうとすると、水に弾かれる。火を消すかのような威力の水に、俺の体は勢いよく弾かれる。

 顔にかかった水を振り払うと、俺を連れてきてくれた生徒のほかに二名が立っていた。


「先輩、連れてきましたよ」

「ああ、ご苦労」


 そこに立っていたのは、タケダイ先輩と見知らぬ男だった。

 魔法を放ったのは見知らぬ男のようだ。マジックストックがついた左手をこちらに向けている。


「……なんとなーく状況は読めたぞ」

「なら、簡単だよね? ジェンシーのパートナーをやめる気になったかい?」

「……いや、俺は」


 否定しようとした瞬間、顔面に水が襲い掛かる。


「おいしい水だぜ、コール」


 先ほど俺を連れてきたクラスメートも同じように水魔法を放つ。


「おまえ、まだまだ魔法の精度が甘いな……。水魔法はこうやって放つんだよ!」


 そういって見知らぬ先輩が大砲のような水を打ち出した。

 俺は腕を交差させてそれを防御して、それからタケダイ先輩を睨んだ。


「俺はジェンシーのパートナーをやめるつもりはねぇよ」

「そうかい。……この手は使いたくなかったけど、やっていいよ」


 タケダイ先輩が命令をすると、水球ができる。

 水球は見知らぬ先輩によって操られているようだ。俺の顔に近づいてきたそれをつつくと、プリンのように震えた。

 先輩がニヤリと笑うと、俺の顔面にそれが当たり、俺の顔面を飲み込んだ。

 水が顔面を覆いつくし、呼吸が出来なくなる。しばらくそれが続いたが……何がしたいのだろう。

 まさか、俺の呼吸を止めるためにこんなことをするとは思えない。

 人間が水中では三十分くらい呼吸できるはずだ。


「死にたいのか?」


 いまいち聞き取れないが、タケダイ先輩がそういったようだ。

 俺が首を振ると、三人の目が驚愕と言った感じに開かれる。


「……へえ、肺活量は素晴らしいようだね?」


 タケダイ先輩が両手を合わせると、先輩が魔法を解除した。

 全身びちょびちょだ。不快にするという意味では、最高の魔法である。

 それにしても肺活量を褒められるとは思わなかった。誰だって三十分くらい海中にいられるもんじゃねぇのか?

 俺の前世の人間はそうだった。前世のスペックがそのまま引き継がれている俺だってそのくらいできる。

 ……いや待て。そこで一つの考えに到達する。

 もしかしたら、この世界の人間は泳ぐのが苦手な人が多いのかもしれない。

 小学校、中学校とプールの授業は少なかった。

 となると、俺が彼らに勝てるのは水中……。

 って、喜べない! 水中戦に持っていくとか絶対に無理だろ!

 勝てるかもしれない一つの可能性であったが、俺はすぐに否定した。自分から弱点に突っ込む奴がいるわけない。


「それじゃあ、また後でね。もちろん、ジェンシーに言ったらキミをこの学園にいられなくなるようにしてあげるから、その点は覚悟しておいてね」


 タケダイ先輩は二人を引き連れてさっさと去っていった。

 ……俺への嫌がらせ、か。

 それにあの自信の様から、下手したら五大貴族がバックにいるのかもしれないな。


「……ひっでぇなおい」


 陰湿すぎるよこの学園。

 服が汚れちまったな……。まあ、加減してくれているのか、魔法についてはまったく痛くなかった。

 憂さ晴らし……か。怪我をさせれば、誤魔化す場合面倒になるからな。

 俺は自力で、保健室に向かって保険医のおばあさんに診察してもらう。

 どこにも怪我はなかったが、服が濡れていることを心配され、着替えのジャージを借りる。

 後で洗って返せばいいらしい。俺はすぐに着替え、小体育館へと戻っていった。

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