一時帰還
「こいつが大先生?一発で倒せそうだぞ?」
「何だこいつは?エレナ、こんなのが彼氏か?」
「それだけは違います」
エレナは先生の言葉をきっぱりと否定し、続けた。
「この人は召喚獣です」
「あー、成程。ま、用件は中で聞こうか」
そう言って先生はエレナのみ家に入るよう促した。
狂助も中に入ろうとすると先生が狂助の目の前でばっと手を広げた。
「君は来なくて良いや」
その言葉に狂助は憤慨した。
今にも先生の胸倉を掴みそうな勢いである。
「あー?お前いい加減にしろよ」
「お前じゃない。名前は・・・・・・アンノウンと呼んでくれ」
「ちょっと待ってください私の時はバロックでしたよ」
「名前なんてどうでも良いんだよ。だいたい、エレナは先生って呼んでるじゃないか」
しかし、狂助は尚も引き下がらない。
ドカッと玄関先に座り込んでしまった。
てこでも動かないとはまさにこういう事だろう。
アンノウンは頭を掻き、パンパンと2回手を叩いた。
「ネイク、ゼブラス。侵入者だ」
すると、オレンジの髪の少女とぼさぼさ頭の少年が走ってきた。
少女が軍隊調でアンノウンに尋ねる。
「師匠!!侵入者とは?」
「そいつだ」
「了解!!」
そう言って少女はいきなり抜剣して狂助を切りつけた。
狂助は半歩下がり、それをかわす。
「っと、危ねえ」
しかし、少女は何度も狂助を切りつけ、次第に壁に追い込んでいった。
狂助には剣をかわすことが精一杯で少年の方をすっかり忘れていた。
その少年は何やら呪文の様な物を唱えている。
ついに壁に追い込まれた狂助は少女の切落を防ぐため近くに落ちていた農業用のスコップでそれを防いだ。
「ぬっ!」
「型にはまった動きが全てじゃねえぞ。嬢ちゃん!」
そう言って狂助は少女の腹に蹴りをいれた。
だが、少女は軽鎧を装着していたため比較的ダメージは少なかった。
その時、少年の呪文の詠唱が終わった。
「炎球」
冷ややかな口調で少年はそう告げた。
すると、少年の頭上に直径2mはある大きな火球が現れた。
さらに、少年が一言何かを呟いた途端、火球は狂助に向かって飛んで行った。
「うわっ!!・・・・・・何でもアリかよ」
炎球が壁に当たり、炎が四散する。
しかし、狂助の姿はどこにも無い。
「逃げられたか」
「ゼブラス!!今、私ごと巻き添えにしようとしただろう!!」
「ああ、悪い悪い」
「貴様、味方を裏切ってまで勝利を得たいか!!」
「いや、むしろネイクを信じての行動だったんだがな」
「そんな取って付けたように言っても説得力など無い!!」
「そんなことより侵入者を追うことに集中しろ。家宝の鎧を汚されて悔しくないのか?」
その言葉にネイクは黙りこんだ。そして、黙ったまま裏庭へと走って行った。
「はあ・・・・・・あいつの扱いは面倒だ」
そう呟きゼブラスもゆっくりとした足取りでネイクを追った。
アンノウン邸の庭は世間一般に見て最高クラスの物だった。
狂助の所属していた二宮組の庭もトップクラスの物であったが、ここはそれ以上の出来栄えだった。
苔の生えた庭石、規則的にカタンカタンと鳴るししおどし、3匹の鯉が泳ぐ池・・・
「ブハアーッ!!」
から飛び出してきたのは二宮組組員片桐狂助。
驚いて全ての鯉は池の奥に逃げ込んでいった。
「ったく、あのガキ共・・・・・・おー、熱」
狂助はそう言って背中を擦った。
どうやら先ほどの炎球が少し掠ったようだ。
もちろん、火傷の跡など残っていない。
その熱さから狂助は池に飛び込み、背中を冷やしていたのだ。
「しかし、エレナは大丈夫なのか?あんな危険なガキの師匠なんかと一緒で・・・」
ーーーアンノウン邸内居間ーーー
「まあ、そこに座ってくれ」
アンノウンはエレナに座布団に座るように促した。
エレナは素直に応じ、ちょこんと座る。
エレナの向かいにアンノウンは対照的にどかっと座りこむ。
座ったままで器用に湯呑みに茶を淹れてエレナに差しだし、自分の分の茶も傍に置いた。
「で、何があったんだ?」
「はい、実は・・・・・・」
エレナはかいつまんでここまでの経緯を話した。
アンノウンは時々、頷いたり相槌を打ったりするだけであとは黙っていた。
「と、言う訳なんです」
「なるほど。つまり、俺に逆換を教えてほしいってことか」
「逆換?」
「読んで字の如く。召喚獣を元の世界に送り返す技だ」
「はあ・・・・・・」
「だが、問題はそいつの能力だ。そいつの能力は完全回復だろ?」
「おそらく」
「そこなんだよ。恐らくあいつは上界に戻った瞬間、死ぬぞ」
エレナは思わずアンノウンが出したお茶を落とした。
湯呑みが音を立てて割れた。
エレナは感情的な声で聞いた。
「どういうことですか?」
その悲しそうなエレナの顔を見て、アンノウンは戸惑ったが意を決して話し始めた。
「別の世界で死んだ召喚獣は自動で元の世界に戻る事は知ってるよな?
実はその時に別の世界での痛みや衝撃が体中を巡るんだ。
言ってる意味、分かるか?」
「まさか・・・・・・」
「そのまさかだ。あいつが元の世界に戻った瞬間、体中に何重にも重なった死んでも良いくらいの大きな痛みがあいつを襲う。そんなことになればどんな人間でもショック死だ」
その時、ガラリと誰かが雨戸を開け、誰かがはいってきた。
土足で。
やはり狂助だった。
後ろからゼブラスも付いてきた。
ネイクは狂助の魔の手に捕まったのか体を縛られた状態で狂助にかつがれている。
ご丁寧に猿ぐつわまでされている。
ゼブラスはさっと前に出て、アンノウンに現在の状況を説明し始めた。
「申し訳ありません。ネイクが捕まった時点でこちらの勝率は低いと思い、侵入者の捕虜となってしまいました」
しかし、アンノウンは全く気にしてないといった口調で返した。
「いやいや。ゼブラスの判断は正しい。それにしてもネイクを捕まえるとはやるな」
「へっ、この子供攻撃パターンが単純なんだよ。罠さえ張っとけばその内引っ掛かると思ったらきれいにかかってくれやがった」
単純という言葉に反応したのかネイクはじたばたと暴れだした。
狂助は邪魔だと思ったからか勝敗が決したからか床にネイクを下ろして、猿ぐつわを解いた。
その途端、ネイクは大声でまくし立て始めた。
「師匠!!この男は落とし穴といった卑怯な手で私を捕まえた為、このような状況になっている訳で。
そもそもその時点でゼブラスが諦めて侵入者の捕虜となったことが」
「ネイク」
「・・・・・・はい。油断してました」
アンノウンの一言でネイクは借りてきた猫の様におとなしくなった。
「狂助・・・・・・だったな。今から言う事を良く聞いてくれ」
アンノウンは狂助の現在の状況を事細かに説明した。
説明が終わると狂助が質問した。
「つまり、俺はまだ帰れないってことか?」
「そういう訳でも無いさ」
「何だって!?」
狂助の大声にその場にいた全員が突然のことで驚き、目を見張った。
気を取り直してアンノウンは答えた。
「1つはすぐに帰れるが一時的な物。まあ、お前の体に反動が来るのが大体5時間後だからその時間までには俺がもう一度、お前を召喚してやる。
もう一つの方法は確実に帰れる方法だ。それにはエレナにも協力してもらわないといけないが」
「えっ?」
エレナは自分はもう関係ないと思っていたから素っ頓狂な声を上げた。そして、反論する。
「何で私が?・・・・・・まさか、完全逆換ですか?」
「そうだ。あれはまあ、伝説みたいな物だがな~」
「ちょっと待ってくださいよ!!あれって確か500年間、誰も成功してないんじゃないじゃないですか!!」
「そうだ。でも、あれが成功すれば召喚獣への別の世界での反動を完全に0で召喚できる」
全く他人事のような態度でアンノウンは欠伸をした。
話が長引きそうなので狂助は話に割って入った。
「どうでもいいからとっとと帰してくれよ。5時間でいいから」
「じゃ、ほい」
そう言ってアンノウンは狂助の足元に自動書記で逆換の魔方陣を描く。
すると、魔方陣は淡い紫に輝きだした。
「えっ?いや、早くって言っても心の準備がまだ・・・・・・」
「きっかり5時間後にまた召喚するから~♪」
「♪じゃねえぞコラ!!てめ、絶対帰ってきたらぶっ殺す!!」
叫びは空しく魔方陣の淡い光と共に狂助はその場から消えた。




