VSローリン
「ネイクさーん、狂助さんの試合は始まりますよ」
うっかり眠ってしまっていたネイクはエレナに起こされた。
眠い目を擦りながら彼女はその黒い瞳を瞬かせる。
「むう・・・・・・どこまで進んだのだ?」
「今から狂助さんとローリンさんの準決勝第1試合、次にカールさんとライアックさんの準決勝第2試合です」
「ジルはどうなった?」
「腹痛で棄権しました」
「そうか・・・・・・」
ネイクはどこか不自然に感じられたが、黙って狂助の試合を観ることにした。
狂助は欠伸をしながら対戦相手をじっくりと観察する。
ローリンは顔を兜で隠しており、鎧に小手まで装備しているが下半身はホットパンツのようなものを穿いているだけで随分と軽装である。
狂助はその姿に既視感を感じた。
あれは誰だっただろうかと、考え始めた時にはローリンは狂助の目の前にいた。
そして、そのまま狂助の顔面狙って鋭い横蹴りが繰り出された。
それを狂助は間一髪のところでかわした。
「危ねえっ」
狂助も黙っているわけにはいかなかった。
ここでようやく試合開始のドラが鳴った。
ローリンは試合開始前には狂助に攻撃を仕掛けていたのであった。
通常ならここでローリンの反則負けだが、それは狂助自身が許さなかった。
狂助が反撃にローリンへと足払いをかける。
ローリンの体格は比較的小柄な方であり、狂助の足払いで見事に身体のバランスを崩し、転倒した。
倒れんこんだローリンに追撃で腹部への踵落とし。
しかし、ローリンの体は鎧によって守られており、その一撃は決定打には欠けた。
ローリンはその隙を突いて、腰に差してあったナイフを一挙動で狂助の額へと寸分狂わず投げつけた。
木製と言えど、額へのダメージは十分だった。
狂助が怯んでいる間にローリンは立ち上がり、狂助の側頭部に右回し蹴りを食らわした。
狂助は何とか立ったまま耐えたが、返す刀で逆右回し蹴りを食らってついに倒れこんだ。
だが、隙も見せずに狂助は立ち上がり次の攻撃に備える。
「随分と無口じゃねえかよ、おい」
狂助の言葉にローリンは応えようとしない。
「無理にでもその口開かせてやるよ」
狂助は再びローリンへと向かっていった。
「中々良い試合展開であるな」
「珍しいですね。狂助さんがあんなに攻撃をもらうなんて」
ネイクとエレナも少し不安になってきた。
ゼブラスはただ一心不乱に両手を合わせて祈ったこともない神にひたすら祈っている。
「おー、あんたたちが狂助の舎弟か?」
売店で売っていた団子を頬張りながら直久が現れた。
ネイクは突然の訪問者に警戒し、すぐにサーベルを抜ける態勢に構えた。
「お主、何者だ?」
「随分なご挨拶じゃないか」
直久も本来の自分の武器である鉄ごしらえの剣に手をかけた。
その間にエレナが割り込んで仲裁を始める。
「ネイクさん、この人は狂助さんの味方です。
直久さんすいません。彼女たちにはまだ貴方の話をしていなかったので」
「それなら仕方ないか。俺は一応狂助の舎弟だ。よろしく」
そう言って直久はネイクに手を差し出す。
訝しげな顔をしながらネイクもその手を握り返し、サーベルの柄から手を離した。
それとほぼ同時に直久も剣の柄から手を離す。
「で、狂助はどうなってる?」
直久は団子に再び齧り付き、エレナへと尋ねる。
「微妙ですね・・・・・・実力伯仲って奴でしょうか?」
「どれどれ・・・・・・ん?」
「どうしました?」
「いや、相手のローリンだったか?あの戦い方どこかで見た気が」
狂助とローリンは一進一退の攻防を繰り広げていた。
狂助の突きがローリンに入ればローリンは狂助に蹴りを入れる。
狂助の蹴りがローリンに往なされればローリンの蹴りを狂助が往なす。
「そろそろ・・・・・・口、利けや!」
狂助はもう鎧や兜で守られている上半身は狙わずに下半身を中心に攻めている。
狂助のアリキックでローリンの右足が大きく傾いた。
左に倒れそうになった所を上手く側転に繋げることで事なきを得た。
狂助はその間にローリンとの距離を詰め、鎧と兜の間から僅かに見えている首筋目掛けてラリアットを繰り出す。
しかし、ローリンはその攻撃を読んでおり、サマーソルトキックで狂助の右腕を真上へと蹴り飛ばす。
「痛っえ!!」
本来なら今の一撃で腕の骨が折れているが完全回復のお陰で激痛が走る程度に留まっている。
だが、不幸なことにローリンの攻撃は止まずにそのまま顎への蹴りへと繋がっていった。
狂助の右腕が折れている今ならラッシュを叩き込めば勝てる。
ローリンはそう思っていた。
狂助はローリンの放った左横蹴りを左手で掴み、素早く軸足の右足も右手で掴んだ。
ローリンの驚きが兜の上からでも分かる。
「口・・・・・・利いておけば・・・・・・とっとと楽になれたのにな!!」
狂助は右腕の痛みを耐え抜き、パワーボムでローリンの身体を地面に叩きつけた。
「・・・・・・いたたたたたたた」
「何がいたたただボケ」
狂助が容赦なく鉄拳制裁を行う。
「痛い!」
「おいおい、気絶しているお前を寝かせようとして兜を脱がしてみたらこりゃどういうことだ?
ジルさんよ」
ローリン・ジェンの兜の下の素顔はガラム武術大会の参加者ジル・ネイロンだった。
狂助の突き刺すような視線から逃れたくてジルはせめてもの笑顔を返した。
だが、狂助の視線からは逃れられなかった。
諦めたジルは説明を始めることにした。
「えっと、どこから話したらいいものやら」
言いよどんでいるジルに狂助は業を煮やしたのか直久に目で合図した。
直久は頷き、愛剣の鞘で思いっきりジルの頭を叩いた。
「っつぅ・・・・・・そこさっき殴られたとこ!!」
「で?それが?」
狂助はそんなことなど意にも介さずまた直久に合図を送ろうと彼に目を向けた。
「ちょっと待った!
うう・・・・・・分かったわよ。ちゃんと説明するから・・・・・・」
ジルはが頭を摩りながら話した内容は要約するとこうだった。
ジルは自分の実力に絶対の自信を持っており、1人2役をすることで参加者を減らせると考え、素の自分であるジル・ネイロンと鎧と兜で自分の姿を隠した無口な自分であるローリン・ジェンの2つの名前を使って武術大会に参加した。
しかし、どうしても時間の都合で1人2役をするのが困難になってきたのでジル・ネイロンは腹痛で棄権したということにして、ローリン・ジェンとして優勝しようと目論んでいたということであった。
「まあ、キョースケを倒して賞金を持ち逃げするのにもジル・ネイロンよりは謎の覆面戦士の方が良いと思ってたってのもあったんだけどね。
正々堂々と賞金を持っていけるんだし」
「このガキ・・・・・・」
「それより何であたしが1人2役してるって気付いたの?」
「アナグラムだろ。Jil・Neiron、Rolin・Jen。
名前を並び替えれば別人になる」
「へえ、案外キョースケって賢いんだ」
「アナグラムは直久から聞いたんだけどな」
「じゃあ、あんた何もしてないじゃん!」
その時、野獣の咆哮のような声が響いた。
控室内は一瞬、静寂に包まれた。
「観客の歓声・・・・・・じゃないよね」
「係員ってわけでもないよな」
「何で係員が叫ぶんだよ・・・・・・」
直久が突っ込んだ瞬間、耳をつんざくような人の悲鳴が聞こえた。
何やらこの控室の上の闘技場もやや騒がしいようだ。
狂助が静かに扉を開けて通路を見渡す。
一見、異常はなさそうに見える。
狂助は2人に外に出るよう言って、自分も部屋から出る。
それでようやく狂助は異常に気が付いた。
狂助はあくまで通路を見ただけで天井には目がいってなかった。
天井では係員らしき男の体が大量の80cmくらいの大きさのトカゲの餌食になっていた。
「な・・・・・・何じゃこりゃー!!」




