VSジン~片桐組組長誕生~
「組ってなんだよ?」
ゼブラスがか細い声で突っ込みをいれた。
「今日からお前は無条件で片桐組の組員だ。てかよく喋れるな」
「狙撃声を使っただけだ。・・・・・・もう疲れた。これで本当に魔力は0」
そう言ってゼブラスはゆっくり両目を閉じた。
狂助が慌ててゼブラスに駆け寄って左胸に手を置く。
トクン・・・トクン
心臓は動いている。
ゼブラスの無事を確認した狂助はゆっくりと立ち上がりジンを見据えた。
「キキキ。恰好つけて仲間に手を出したとかほざいてるけど・・・・・・さっきから見てた癖に何でこの子がボロボロになってから助けたんだい?」
狂助の肩がピクッと震えた。
確証を持ったジンは更に続ける。
「もしかしてさっきのも全部嘘かい?
この子が傷つくのを見て楽しんでいたのかい?
悪魔より薄情だね」
「・・・・・・まあな。確かに俺はゼブラスがこうなったのは自己責任だと思う。
ゼブラスならこの程度の敵は1人で何とか出来ると思ってたから手を出さなかった。
だが、組員ってのは本当だぜ?そうでも言わないと」
狂助はジンの真正面に素早く移動した。
「暴れる理由が無えからな!!」
狂助の右ストレートがジンの腹を抉った。
ジンは倒れるのは何とか阻止したが、立ったままのジンに狂助から更に追撃が来る。
「うおらっ!!」
狂助はジンに左のロシアンフックを放った。
だが、狂助の勢いのついたロシアンフックは空を切った。
ジンが体を蝙蝠に変化させてかわしたからである。
「さっきは油断してたからね。ちょっと本気で行くよ」
ジンが右の指を鳴らすとジンの体から出てきた蝙蝠達は狂助に噛みつき始めた。
「ぐっ・・・・・・何だ・・・・・・これ?」
狂助は体中を廻る痺れから片膝をついた。
それを見てジンは得意げに話し始めた。
「蝙蝠の本当の恐怖ってのは吸血なんかよりも感染病の媒介等に使われることだよ。例え完全回復でもこれなら意味が無い」
「あ?何でそれを知ってる!?」
「さあね。さて俺に傷を負わせた罪は償ってもらうよ」
そう言うとジンの体は完全に消えた。
それはジンの体が何十万もの蝙蝠に変化したことでもあり、空が黒一色で塗り潰されたということでもあった。
蝙蝠達は広場いっぱいに広がり、広場への太陽光を完全に遮断した。
「四十万匹の蝙蝠に噛み殺されろ!!完全回復!!」
蝙蝠の群れが狂助に向かって雨のように降り注いだ。
狂助の体は黒一色に塗り潰されていった。
最初の内はもがいてた体もやがて動かなくなった。
やがて一匹だけ体表が茶色の蝙蝠が狂助の元へと降り立った。
「キキキ。あっけないね。さて俺もこいつの肉を」
その時、黒の空間から一本の腕が伸びてきて茶色の蝙蝠を掴んだ。
「捕まえたぞボス蝙蝠」
狂助が腕に力を加えると蝙蝠が喘ぐ。
それに呼応して他の蝙蝠の群れはやかましくキーキーと声を上げながら空へと飛び去って行った。
「お前が本体だろ?」
蝙蝠の群れが消えたことによって現れた狂助は紺の和服は所々破れてはいるもののやはり傷一つ付いていなかった。
だが、感染症の影響か息切れを起こしており顔色は悪い。
「何故それが分かった?いや、まず何故動ける!?」
「こちとら首筋噛み切られたり、額を剣で刺されたりしてんだ。こんな苦しみ屁でも無え」
「そんな・・・・・・馬鹿な」
「もう一つの質問に答えてやろう。ゼブラスの体当たりをかわす時お前自身は腹の部分ではなく、右翼部分にいたな?一匹だけ茶色いのが丸分かりだった。俺がお前を掴んだ時あの妙な感触で全部理解した。つまり、お前が脳味噌でお前さえ潰せば全部終わりだってことがな」
「なっ、お前仲間のピンチを黙って見てたばかりか利用したのか!!」
「それがどうした?さてそろそろ吐くこと吐いてもらおうか」
狂助がより一層力を込めるとジンは苦痛の声を上げた。
「ギャアアアア!!何でも言う!!言うからああ!!」
「じゃあまず地界への行き方から」
ジンは大きく何度も首を横に振った。
「知らねえよ!!俺みたいな下っ端が知るわけねえ!!」
「じゃあボスの名前・・・・・いや仲間の名前でもいい」
「キリコっていう女の悪魔が1人!あと7,8人いるらしいが名前は知らねえ!!それとボスだ!!」
「って事は向こうは少数精鋭って事か。
・・・・・・あっと、忘れてた。
ご協力感謝するぜ」
そして更に強くジンを締めた。
「やめろおおおお!!こ、この悪魔あああ!!」
「お前に言われたきゃねえよ」
グシャリという何かが潰れた音と共にジンの首が地面を転がった。
「・・・・・・ん?」
ゼブラスは意識が回復し、辺りを見渡そうとした。
しかし、体が動かない。
「大丈夫か?」
狂助がゼブラスを見下ろした。
その顔には何かの体液が付着しており、それがゼブラスの服へと垂れようとしていた。
「うわっ、やめろ!」
「あ?
うわっ、こんなところに付いてやがった」
狂助が手でそれを取り、地面に擦り付けた。
その様子を見ながらゼブラスは尋ねた。
「勝ったのか?」
「まあな。危なかったな。俺が来なけりゃお前もエレナも死んでたぜ?」
「そういえば」と付け加え、狂助はまだ目を回しているエレナにビンタをした。
「・・・・・・痛っ!何するんですか!」
「ん、元気そうだな」
「あれ、狂助さん?・・・・・・そうだあの悪魔は!?」
「首なら残っているが見るか?」
「遠慮しておきます」
エレナは仰向けに倒れ込み、また眠りに就こうとした。
しかし、間髪入れずに狂助はエレナの頭を叩いた。
「痛っ」
「寝る前にあいつの手当てしてやれ」
そう言って狂助はゼブラスを指差した。
エレナは渋々立ち上がり、小さな声で文句を呟きながら狂助から渡された布(狂助の服の切れはし)を濡らしに水を探しに走って行った。
それを見送った狂助はゼブラスへ再び歩み寄って行った。
だが、先に口を開いたのはゼブラスだった。
「バカ大人、お前は誰の為に戦った?」
狂助は一瞬キョトンとした顔をしたがすぐに大声で笑い始めた。
笑いながらも狂助は答えた。
「アハハハハハハ。誰の為でもねえよ。私利私欲のためだ」
ゼブラスは期待したような台詞を聞けなかったので俯いた。
狂助は続ける。
「強いて言うなら組員の為だな」
「え?
・・・・・・さっき自分の為って」
「ああそう言った。だがなそれすなわち自分の為でもあるだろ。その逆も同じだ。守る人間から見返りを求めて俺は戦った。まあ、深く考えるな」
ゼブラスはやはり大人への不信感は拭えなかった。
だが、自分の周りがこんな大人ばかりなら母は救われただろう。
密かにそう思った。
濡れた布を持ってきたエレナと途中で合流したのかネイクが戻ってきた。
「ゼブラス、大丈夫か!?」
「ネイク、大声出すな」
「いや・・・・・・すまない」
ネイクはそう言って自分の目から流れ落ちていく涙を拭いた。
「心配・・・・・・してくれたのか?」
ゼブラスはネイクに尋ねる。
「ま、まあ・・・・・・その、今まで一緒に付き合ってきた仲であるし」
「それもそうか・・・・・・ありがとう」
ネイクは頬を赤らめ、ゼブラスから目を逸らした。
ゼブラスはそのネイクの様子を不思議そうに見つめていた。
「狂助さんも手伝ってくださいよ」
エレナが不満そうにそう言う。
「俺が?俺は組長、お前らは組員だぞ?」
「何の話ですか?」
「お前らは片桐組組員、俺は片桐組組長。分かったらきびきび働け!」
何か最終回っぽくなってますけどまだまだ続きます