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恋バナ大好き、恋ヶ淵さん  作者: 彩珠那由正
第一部:得恋のジンクス
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13/27

011話:恋ヶ淵さんと幼馴染への恋④

 カフェでそのまま三人で昼食を摂った後、片瀬さんとは別行動することになった。


 片瀬さんは幼馴染と駅前で待ち合わせたあと、少し歩いた先にある神社で想いを伝えることにしているらしい。


 俺と恋ヶ淵さんは、先回りして片瀬さんが言っていた香取御嶽神社《かとりみたけじんじゃ》という場所を訪れた。


「……で、なんで俺たちはこんなところに隠れてるんだろうな」

「しーっ、愛葉くん、声大きいよ」

「まだ誰も来てないだろ」

「そうだけど、念のため」


 俺たちがいるのは、本殿の柱の陰だった。ここからなら境内の様子を確認できるうえ、柱に身を隠していれば、片瀬さんたちから見つかる心配も少ない。


 とはいえ、境内の様子を窺うには柱から少しだけ顔を覗かせる必要がある。俺と恋ヶ淵さんは一つの柱の陰に身を寄せ、並んで片瀬さんたちがやってくるのを待っていた。


 休日とはいえ、駅から少し離れた地元民しか来ないような小さな神社だ。境内に人の姿はほとんどなく、参拝客もやってこない。告白する場所としては、確かに悪くないのかもしれない。


「うまくいくといいな……」


 隣から、小さな声が聞こえた。恋ヶ淵さんは本殿の柱に片手を添えながら、境内の入り口をじっと見つめていた。


 心配そうに少しだけ眉尻を下げた横顔。相談を聞いていた時とは違う。恋バナを聞いて興奮していた時とも違う。本当に片瀬さんの恋がうまくいってほしいと願っているのが、その表情から伝わってくる。


 つい最近まで、恋ヶ淵さんは俺にとってただ観察するだけの存在だった。それが今や、二人きりで神社に隠れているという、この状況。


 妙に落ち着かない気持ちになっていった。意識しないようにすればするほど、今度は別のことが気になってくる。


 隠れているせいで、普段よりもずっと距離が近い。少し身体を動かせば、肩が触れてしまいそうなくらいに。


 休日に、制服ではなく私服姿の恋ヶ淵さんと、人気のない神社で二人きりというこの状況を意識した途端、急に恥ずかしくなってきた。


「愛葉くん?」

「な、なに?」

「どうかした?」


 恋ヶ淵さんがこちらを覗き込んでくる。

 ただでさえ距離が近かったのに、さらに顔を寄せてくる。


「なんか、急に静かになったから」

「いや……なんでもない」


 平静を装いながら答える。恋ヶ淵さんは不思議そうに首を傾げたものの、それ以上は追及してこなかった。


「あっ!」


 直後、恋ヶ淵さんが小さく声を上げた。


「来たよ、愛葉くん!」

「え?」

「あれ、依子ちゃん!」


 恋ヶ淵さんの瞳が、一瞬にしてキラキラと輝き始めた。彼女の視線を追うと、鳥居の向こう側から二人の男女が歩いてくるのが見えた。


 一人は片瀬さん。そして、その隣にはいかにも野球でもやっていそうな、坊主頭の男性。


「あの人が幼馴染か」

「多分そうだと思う」

「恋ヶ淵さん、楽しそうだね」

「そ、そんなことないよ? 依子ちゃんが心配なだけだから」

「目がキラキラしてるけど」

「これは……応援したいっていう気持ちが溢れてるだけです」

「さいですか」


 そんなやり取りを小声でしながら、俺たちは本殿の陰から顔を覗かせ、二人の様子を見守る。


 片瀬さんと幼馴染の男子は、境内の中央辺りで立ち止まった。そして向かい合い、何かを話しはじめる。ここからでは、声までは聞こえない。


「何話してるんだろう」

「聞こえないな」

「もうちょっと近くに――」

「行くな行くな」


 前へ出ようとする恋ヶ淵さんの肩を反射的に掴む。


「あっ……」


 急に触られたことに驚いたのか、恋ヶ淵さんが驚いたように声を漏らす。


「あ……ごめん」


 俺は咄嗟に掴んだ肩から、慌てて手を離した。


「う、ううん」


 また少しだけ、妙な空気が流れた。ただ、それどころではない。境内では、片瀬さんが何かを話し続けている。


 俯いたり、顔を上げたり。胸元で両手を握り締めているのが、ここからでも分かった。


 唐突に、片瀬さんが両手で顔を隠すように覆ってしまった。その肩が僅かに震えている。


「え……泣いてないか?」

「うん……」


 さっきまでキラキラと輝いていた恋ヶ淵さんの瞳に、不安の色が浮かぶ。


 もしかして、告白に失敗したのではないだろうか。俺たちは思わず顔を見合わせ、何も言えなくなった。


 告白することを決めたのは、最終的には片瀬さん自身だ。それでも、俺たちの言葉が告白するという決断に影響したことは間違いない。特に恋ヶ淵さんは、気持ちを伝えることも大切だと話していた。


 隣にいる恋ヶ淵さんの表情が、見るからに曇っていく。


 だが、次の瞬間。


「……え?」


 男子生徒が、急に泣いている片瀬さんを抱き締めた。片瀬さんも、彼の背中へと腕を回す。


 どうやら、さっきの涙は俺たちが想像していたものとは違ったらしい。


「……成功したのか?」

「……した、みたい」


 隣から、震えた声が聞こえる。恐る恐る恋ヶ淵さんを見ると――。


「~~~~っ!」


 すごいことになっていた。両手で口元を覆い、顔を真っ赤にしながら、瞳をこれでもかというほど輝かせている。


 とりあえず、これで一件落着か。そう思った直後だった。


 抱き合っていた二人の顔が、ゆっくりと近付いていく。


 いや、ちょっと待て。流石にそれは……というか片瀬さん、俺たちがこの場にいるってことを忘れてないか?


 そんな俺の考えを他所に、二人の唇がゆっくりと重なった。


「……」

「……」


 俺たちは、無言だった。ただただ、無言。何も言えない。なんなら、見てはいけないものを見てしまった気さえする。


 俺はなんとも言えない気持ちになりながら、そっと隣を見る。


「…………っ」


 恋ヶ淵さんも、こちらをを見ていた。


 顔を真っ赤にして、瞳だけは相変わらずキラキラに輝いていて、そんな彼女と至近距離で目が合っていて。


 数秒間、言葉では説明できない、なんとも言えない空気が俺たちの間を流れた。


 そして俺たちは、ほぼ同時に境内へと視線を戻す。二人はまだ抱き合っていた。


「……帰ろうか」


 小さく呟くように言った恋ヶ淵さんの言葉に、俺は無言で頷いた。


 俺たちは物音を立てないように本殿の裏手から抜け出すと、片瀬さんたちに気付かれないよう、こっそりと神社を後にする。


 無事に告白が成功し、片瀬さんの恋が叶った。それを素直に喜べばいいだけの筈。


 なのに、俺の脳裏には二人の姿ではなく、さっき目が合った時の恋ヶ淵さんの顔が、いつまでも頭から離れてくれなかった。

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