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第32話 剥がれた家紋
隠し倉庫の箱を調べていると、セリアが一本ののみを拾った。
「見て」
箱の表面を軽く削ると、上から塗られたバレスタ家の家紋が剥がれ、その下から別の印が出てきた。
市評議会の公印だ。
「家の仕事じゃないな」
ダリオが吐き捨てる。
「街ぐるみだ」
つまりバレスタ家は単独で盗んでいたわけじゃない。公の倉庫として押さえた荷を、私物化する流れの窓口だったのだ。
ミーナは家紋の層を見て、すぐに帳面へ照らした。
「少なくとも三回、名義が変わってる。評議会倉庫、監査局差押え、バレスタ家保管品。全部、同じ箱」
名前を変えるたび、責任が薄まる。
誰の荷だったかも、誰に返すべきかも、だんだん曖昧になる。
その時、通路の向こうで足音がした。
追手だ。
「証拠を持って引くぞ」
俺が言うと、リゼットが珍しく強い声を出した。
「全部押さえます。ひと箱も戻させない」
監査官の顔だった。
俺たちは名札、帳簿、剥がした家紋板だけを優先して抱え、倉庫を離れる。
運ぶための手は足りている。
今の俺たちには、それが一番強かった。




