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第2章 第1話 同棲

「真司てめぇ高校生になったらバイトするって言ったよなぁ!? お前が働かなきゃ誰が家に金入れるんだよ!」



 土曜の朝から家に父親の怒号が響く。普段なら寝てるかパチンコに並びに行っている頃だが今日は運が悪い。いや、今日に限っては朗報か。



「ほら、生活費」



 自分の部屋から出た俺はリビングで寝転がっている両親に金の束を差し出した。その額10万円。ここまでの大金をまとめて見るのは初めてだ。



「……どうしたのこの金」



 金に関しては俺よりシビアな母親が珍しく訝しむ。まぁこの両親にとってはどれだけの大金でも軍資金でしかないわけだが。



「俺住み込みのバイト始めたから。で、それは祝い金みたいなもん。家出ても問題ないよな」

「金さえ入れればな」



 金の出所がわかった瞬間両親は俺から興味をなくし金を拾い上げる。高校生になった息子が突然住み込みバイトをするなんて言い出してもこの態度。わかってはいたから傷つきはしないが、人として軽蔑する。



「じゃあな」



 返事が来ることはないとはわかっていたが一応の別れを告げ、最低限の荷物を取るために自室に戻る。



「……クソみたいな家だな」



 誰もいなくなってようやく本心を吐けることができた。そう心の底から思ったのはもうあきらめている親の態度からではない。俺の自室がきららの自室とはかけ離れすぎていたからだ。



「オタクの風上にも置けない」



 手荷物をまとめた俺の部屋に残っているのは勉強机と布団だけ。推しのグッズが一つもない。特集が組まれた雑誌も、簡素なポスターさえも。何一つ好きなものがない、ゴミのような部屋。



 今日俺はこの家を出る。そして、始まるのだ。



「うぇぁぁぁぁ~~~~! 推しと同棲とか夢すぎるぅぅぅぅぇぇぁぁっ」



 俺ときららの二人暮らしが。



「テンション高いな……」

「そりゃ高くなるでしょ! だって推しが目の前にいて! 推しとしゃべって! 推しと同じ学校に入って! 推しと一つ屋根の下! 待って待って待って待ってやっぱ夢がすぎるよぉぉぉぉ~~~~!」



 きららが動画撮影に使っているスタジオ。ここが俺ときららの家になる。メインがスタジオなだけあって余っているスペースは少ないが、それでも俺の家のボロアパートよりかは遥かに大きいし綺麗だ。



「テンション高いのはいいけどさ、ここマンションなんだしあんまり大声出さない方がいいよ。防音はしっかりしてるだろうけど……」

「『推しと出会えたこの幸せにLOVE FOREVER……』」


「俺の投稿読み上げないで!?」

「だって真司あんまりうれしくなさそうなんだもん。でもそっか~。クールぶってるけど心の中はこんな恥ずかしポエムで溢れてるんだね~」



 スマホ片手にニマニマ微笑むきらら。あぁそうだよめちゃくちゃうれしいよ! だって女の子と……しかも推しとの同棲! テンションが上がらないわけがない! でも素直に喜べないのが陰キャの性。ネットでしかイキれないんです。



「そうそうここ真司の部屋ね! 自由に使っていいから!」



 家に入った俺を案内した場所は、きららの自室の正面。同じ間取りの一室。そして……。



「た、宝の山だ……!」



 部屋にはきららのグッズが溢れていた。ネット通販しているオフィシャルグッズにアクスタ! ライブの限定アイテムにポスター! すごいすごい! 持ってないのに値段まではっきり覚えているグッズが部屋中に飾ってある!



「これわざわざ俺のために……!?」

「そうだよって言いたいところだけど、ベッドとか机以外は元からあったものだよ。その……言いづらいけど私承認欲求の塊だから……。自分のグッズ大好きなんだよね……愛されてる気がして」



 愛されてる気がして……か。本当にこの部屋は愛で溢れている。俺の前の部屋とは正反対共呼べるほどに。愛で満ち満ちている。



「あと遅くなったけど……お金ありがとう。必ず返すよ」

「ううん気にしないで! 推しに貢げてむしろ幸せだから!」


「推しに貢がれる気持ちになってみてよ……情けなくて死にたくなるから」

「あぁそうだね……でも返さなくてもいいのはほんと。ほら私承認欲求の塊だし……やっぱり性格悪いから。この状況は、譲りたくないな」



 きららの性格はあまりよろしくない。そんなことはファンにとってはあまりにも常識で、ギラギラと上を目指す姿勢がまた魅力的で。



「真司、これで私に逆らえないよね?」



 同時にほんの少し、恐怖を覚えるのだった。

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