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第1章 最終話 愛

「お、推しの家の中に……!」

「お、推しが家の中に……!」



 俺ときららの声が重なる。いや少し意味合いが違ったし、厳密に言えばきららの家ではない。高校のすぐ近くのマンションの角部屋。そこが普段きららが動画を撮るのに使用している撮影スタジオだった。



「と、とりあえずリビングに……」

「うん……ありがとう……」



 どこかぎこちないきららに促され、廊下を抜けてリビングに入る。その瞬間声が出た。



「いつも見てる場所だ……!」



 白い壁に木製のテーブル。三人掛けのソファにクッションのように置かれたぬいぐるみ。普段目にするアングルとは違うが、間違いない。ここはきららが撮影に使用しているスペースだ……! わかっていたけど実際に見ると感動が半端ない……!



「ちょっ……ごめんトイレ……!」



 普通に涙が溢れてきそうだったので小走りで廊下に出る。えーと普通トイレってこの辺だよな……!



「あっ、ちがその部屋はだめぇ!」

「…………!?」



 廊下に面した扉を開くと目に飛び込んできたのは普通の部屋。テーブルとパソコン、それにベッド。タンスや姿見もあって生活感に溢れている。トイレと間違えてしまったことはすぐに気づいたが、俺の頭はそれどころではなかった。



「……本当に俺のファンだったんだ」



 目の前に広がる光景はまだ拭えなかった疑惑を確信に変えるのに充分だった。壁や天井。パソコンにまで俺の隠し撮りの写真が散りばめられていたからだ。もし俺に金があったらきららのグッズをこんな風に飾っていたことだろう。それほどまでに病的なオタク部屋だった。



「ごめんね……引いちゃったよね。でも本当に好きなの」



 背中を優しく押され、ふかふかのベッドに倒れる。そしてすぐに仰向けになった俺の上に、きららが覆いかぶさってきた。



「私がアイドルになった……ううん、何でもいいから有名になりたかった理由、知ってる? って、知るわけないか。どこでも発信してないし」

「そうだな……でも何となくは理解してるよ。素が出る生放送もちゃんとチェックしてるから……気づいてる」



 だからだろうか。推しが自分のことを好きなんていう妄想でしかありえない展開にある程度順応できているのは。



「誰からでもいいから愛されたかった。それがきららの行動原理だろ?」

「……さすが。何でも知ってるね」



 俺に覆いかぶさりすぐ目前まで迫ってきていた顔がわずかに縦に揺れる。そしてそれは俺を映す瞳もだ。



「私がネット活動を始めた時の親の言葉までは知らないよね? 家バレしなければ何でもいい、だって。普通さ……本気だったとしても普通、一度は止めるよね? でもどうでもいいんだって。私が何をしようが興味ないんだって、お母さんとお父さんは。だから普段ここで生活してても家に帰らなくても、親は何も言ってこない。テレビに出れるほど有名になってもそれは同じ。見られたかった……愛されたかった。そして一番私のことを見てくれたのは……あなただった」



 さらに近くなるきららの顔。しかしそれを拒むかのように俺のスマホが音を立てる。推しとこんなに近くにいられているというのに、俺の指は自然とスマホに伸びていた。



「どこにいんださっさと帰ってこい! てめぇが家事やんねぇと俺が昼飯食いそびれちまうだろうが!」



 それだけ言われ、電話が切れる。きららにはこの声がどう聞こえたんだろうな。またいじめられているのでも思われているのだろうか。それだったらどれだけいいか。



「……今のお父さんからだよね? 働きもせず毎日酒を飲むかギャンブルしてるお父さん。たぶんお母さんもすぐ近くで聞いてたんだろうね。何の疑問も持たずに」

「……さすが。何でも知ってるな」



 そう。俺を虐げているのは何も学校の奴らだけではない。家でもそれは全く同じだった。



「俺もきららと同じだよ。誰からでもいいから癒されたい。愛されたい。そんな時に出会ったのが君だった。推しができたから今も俺は……この辛いだけの世界を何とか生きていられてる」

「本当に同じだね。私も愛されてるってわかったから生きていられてる。ファンがいなくなったら……たぶん私は、本当に死んでる」


「じゃあ大丈夫だよ。何があっても俺はきららを推し続けるから」

「それなら真司も安心だね。私も真司を推し続けるもん。きっと何があっても大丈夫だよ」



 ふと会話が途切れる。推しがこんなに近くにいるのに、不思議と心が揺れ動かない。ただ心地よい感情だけが俺を包み込んでくれている。



「でもあれだな。推しが辛い想いをしてるって聞いたらやっぱり、嫌な気持ちになる」

「そうだね。推しには幸せになってほしいもんね。じゃあやっぱり、やろうか」



 俺ときららが言葉を交わしたのは今日が初めてだ。でも相手の気持ちは全て理解できる。全部、わかっている。



「きらら。君の家族を必ず振り向かせる」

「真司。君を苦しめる全部は私が排除してあげる」



 お互いの愛する存在のために。俺たちの秘密の関係は深まり極まった。

第1章終了になります! 次回からは復讐編です! 推しのためならどんな困難もなんのその! 愛が燃え滾ります!


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