異形。
「そろそろだよな……戦闘の際の音も大きくなって来ているし、もうそろそろ……」
戦闘の被害を受けた家屋を見ながら、里を駆ける。時折倒れている人も見つけたが、腕や足があり得ない方向に曲がっていた。
「……人間じゃないことは分かってよかったよ」
まだ人……この場合は人型の生物の命を奪うことに抵抗があり、少なくとも人間ではないことに対して安堵しながら、倒れている人の横を駆け、角を曲がる。
そこに、奴はいた。次の獲物を探すかのように辺りを見回しながら、二つの足でゆっくりと足を進めている。
今も尚里の人達と戦っており、その中でも目を引くのは右腕らしき部分だ。槍のような形状になっており、肉を軽く貫ける形状になっている。人に近い形状をしており、口の中には真っ赤に染まった牙が生えている。頭に生えているものは……白い、体毛だろうか。
今も太い左腕で男を地面に叩きつけた後、動けない男の腹部に突き刺している。
「……魔物、でいいのか?」
人の形にも見えなくもないが……右腕が槍に変化している以上魔物と捉えていいだろう。仮に人間だったとして……楽にしてやるのが一番ではないかと、思う。
「もう戻れないだろ、そんな体になっちまったら……!!」
そう呟きながら剣を引き抜き、少し助走をつけて跳び怪物の顔に蹴りを放つ。まともに入ったが、びくともしないようで、足を掴もうと手を伸ばしてきた。
「ヴァァ……!!」
「掴まるかよっ、そんな鈍い動きで!」
顔を蹴って距離を取り、怪物の手を避ける。怪物の顔は蹴られたことで上を向いていたが、何事もなかったかのようにゆっくりとこちらに顔を向けた。
(全く効いてねぇし……いやになるね本当。最近そんな奴らばっかりだ)
額から垂れた汗を拭いながら、様子を伺う。剣を中段に構え、どんな動きも見逃さないように見据える。
目の前の怪物は、一瞬だけ剣の先端にめを向けてから何も考えていないかのように距離をジリジリと詰め始めた。
「……考えてても仕方ない、倒さないと」
全身に魔力を回し、肉体強化を行う。その後、最初と同じように跳び蹴りを放つ。それを見てから、怪物は高く跳躍して避け、屋根の上に降り立った。
「くそっ、意外と跳べんなアイツ!」
「……ヴヴッ……ヴァァッ!!」
蹴りを避け、距離を取るということをやってのけた怪物はこちらを見て馬鹿にするような笑みを浮かべた後、再度跳躍し槍になった右腕を突き出してきた。
「喰らうかよ、幾らなんでも単純すぎる!」
その場から飛び退くことで避けることには成功したが、辺り一面に土煙が舞い、視界が奪われる。一応、遠距離攻撃を使うことも考えたが、この視界では当たらないだろうし、仕留められるかも微妙だ。
「おまけに意外と頭使いよる……! 面倒な相手だよ本当」
頭を掻きながら、土煙の中から出ようと、足を踏み出した途端、足元から何かが地面を突き破って出てくるのが一瞬見えた。咄嗟に体を捻って回避したが、バランスを崩しその場に座り込む。
「あ……っぶねぇなあの野郎! てかあの槍の腕伸びんのかよ……」
そう言った途端、自分の周りや足元から同じように突き破ってくる気配がし、その場から離れた。
離れた瞬間に地面から槍の腕が突き出し、先程まで自分のいた場所を貫く。それだけではなく、槍の先が分かれ、その先端が個々に、囲んでから貫こうとする。
「また面倒な……!」
咄嗟に翼を広げ空に逃げた後、翼を羽ばたかせ、強風を発生させることで土煙を払う。視界の確保と、一応やつを炙り出す為の攻撃代わりにやってみたけど……
「……逃げられた、か?」
敵の姿はなく、地面には大穴が空いているだけだった。その穴に顔を突っ込んで見てみたが、ただの空洞で、道が続いてる訳でもないのに見つけることすらできなかった。
「どうなってるんだ……?」
そんな事を言ってると、後ろの方から爆音が響いた。丁度、白焔達がいる辺りだ。
「最悪だ、そっちに行ったのかよ……!」
焦りをそのままに、勢いよく駆け出した途端、誰かにぶつかってしまい、互いに地面に尻餅をついてしまった。
「あいてて……すいませ……って雛か、どうしたんだ?」
「いたた……光牙さん、さっきも聞こえたと思いますけど、白焔さんの方にも化け物が……あ、怪我ありませんか!? 大丈夫ですよね!?」
「大丈夫、怪我はしてないよ。……でも向こうにも化け物か……急ごう」
「はい!」
俺達はそう言うと、今互いが出せる全力で走り出した。