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そして亡国の魔女と呼ばれ、恋物語が幕を開ける

 インジャン様の過去の肩書きは、皆の想像を絶するものでした。


「つまり、儂はポリアンナ王国建国の女王、勇者ナナミとその王配、大賢者スフナキン直系の孫だ」


 これには長いお付き合いされているお爺さん賢者達も驚きを隠せません。皆様もご存知なかったご様子です。

 まさか、インジャン様が勇者のご子孫、お孫様だったとは。


「婆様は仲間と共に戦って半年程で不死鳥(フェニックス)を倒したから、儂一人なら二年ぐらいで倒せるかと思ったんだがの」

「……もしかして……ご自分が勇者の子孫だから何とかなると思われたのですか?」

「その通りだが?」


 ……なんという短絡的な。豪快なインジャン様らしいと言えばそうなのですが。


「だから余裕を持ってセーラ、お前に三年待ってくれと頼んだんだが、思いの外ノックの奴がしぶとくてな。期限ギリギリまで掛かってしまったわ」

「えっ……ノックとは?」


 私がそう応えると、不意に頭上から声が掛かりました。


「おお、我だ我だ」


 声の主はインジャン様の肩へ、ちょこんと降り立ちました。

 その姿は、美しくも可愛らしい小鳥です。


「まさか……さっきの返事は、この小鳥が?」


 次から次へと続く驚きの連続ですが、小鳥は冷静に自己紹介をします。


「ああ、我は不死鳥(フェニックス)。名はノックと言う。よろしくな」

「ほ……本当に不死鳥(フェニックス)なのですか……?」

「ああ、我は二百年程前、勇者パーティーに倒されて以来、力が大きくなり過ぎておった。そんな時、このインジャンめが現れおってな。お陰で今回も大きな被害を出さずに無事生まれ変わる事が出来たわ」


 確かにこんな美しい小鳥など見た事が有りません。でも、本当に不死鳥(フェニックス)だとして、何故こんな所に居るのでしょうか?


「どうして、無事に生まれ変わりを果たしたのにそのままペリーヌ島に滞在しないのですか?」

「ふむ、元々我がペリーヌ島におったのも誰にも迷惑をかけず成長した巨体を休めるのに適していたからだ。それに馬鹿な輩が我の血を欲したとしてもペリーヌ島なら我の元まで辿り着くまでが大変だからの」

「なら、インジャン様の事も含めて何故?」

「そう、こ奴めは勇者ナナミの孫だと言うではないか。なら、我の力がまた大きくなったら、そのままこ奴めの子孫に我を屠ってもらおうと思ってな。だからそのまま付いて来たのだ」


 成程ね。でも、勇者の子孫と言えども神獣とも呼ばれる不死鳥(フェニックス)を討伐する真似など何度も出来るとは思えませんよ。インジャン様が人外で例外なのは明らかです。

 自らを討たせるよりももっと良い方法が有るのに何故気付かないのかしら?


「あの、不死鳥(フェニックス)……と、呼べば良ろしいのでしょうか?」

「フッ、そんな堅苦しく喋らずとも良い。インジャンめのように、もっと砕けた喋りで構わぬぞ。我の事もノックと呼ぶが良い」

「あら、では、私の事もセーラと呼んでちょうだいな」

「フフ、承知した」

「それじゃあ、質問ね。ノックは、空の彼方まで飛んで行けると聞いたのだけれど、本当なの?」


 私からの質問を受けたノックは、得意気に小さな胸を張ります。


「その通りだ。我は大気が存在せん空の彼方どころか、他の天体にまで飛んで行く事が出来るぞ」

「なら、その空の彼方で体を大爆発させれば良いのでは? そうすれば態々誰かに殺して貰う必要は無いし、地上には被害が及ばないでしょ?」

「!?」


 単純な答を知ったノックは、嘴を大きく広げ体を小刻みに震わせています。

 どうやら、今初めて誰にも迷惑を掛けない安全策に気付いたみたいですね。本当に神の使いと呼ばれる神獣なのでしょうか?

 でも、変に天然なところが可愛らしく感じられますが。


「さっ……流石は魔女……いや、セーラだ。インジャンめの言う通り、聡明で他のメスなどとは比べ物にはならぬな」

「フフフ、ありがと」

「あ~、バラしてしまったか。儂の遺言として教えてやろうと思っとったのに」


 やっぱりインジャン様も安全な生まれ変わり法に気付いていたのですね。

 と言うか、皆がうんうんと首を縦に振っているので、ノック以外全員が気付いていたみたいですが。

 そんな事よりもインジャン様です。まだ根本的な事が分かってません。

 私は、改めてインジャン様へ質問をします。


「それで何故インジャン様は、危険を冒してまで若返ろうとしたのですか?」

「はぁ?」

「例え寿命が半分になったとしても若返りさえすれば、確実に後数十年は生きれるからですか?」


 私からの問いに対し、インジャン様のみならず、その場の誰もが驚いているご様子です。

 私、何か変な事でも言ったかしら?

 やはり皆と同じく、ノックも嘴をアングリと広げてますね。


「おい、インジャンめよ。この娘、頭は良いが鈍感にも程があるぞ」

「まぁ、セーラは直接態度や言葉で示されないと人の好意に気付かない(たち)だからの」


 あら、また皆がうんうんと頭を縦に振ってるわ。

 私が何に気付いてないのかしら?

 インジャン様は、そのまま私へと仰います。


「セーラ、儂は三年待ってくれと言っただろ」

「はい」

「あの時から数えて三年後、お前は二十歳となっておる。それが儂の中でのタイムリミットだった」

「タイムリミット……ですか?」

「ああ」


 そして、思ってもいなかった思いを告げられます。


「セーラよ。儂と結婚してしてくれ」


 その台詞に、今度は私の方が口をアングリと広げてしまいました。


「儂が若返ったのは、お前と添い遂げたかったが為だ」

「えっ?えっ?えっ?」

「儂は皇子だった頃から研究一筋で、嫁も子も作らなかった。それがまさか、老いらくの恋をしてしまうとはの」

「はっ……はぁ……?」

「何時の間にやら亡国の魔女と呼ばれておるお前に婚姻を申し込むんだ。今更ながら不死鳥(フェニックス)殺しという肩書きを持っといて良かったわ」


 頭の中の整理が追い付きません。

 中身は老齢の大賢者。しかしそのお姿は、誰がどう見てもイケメン皇子様。

 実際に百年以上前はそうだったのですから。

 私が何も返せないまま、更に祝いの言葉を紡がれます。


「セーラ、二十歳のバースデー、おめでとう」


 言い終ると、インジャン様のお顔が近付いてきます。

 何故かしら。頭がボーっとして何も考えられません。

 でも、このままだと私の唇と彼の唇が……


 スドゴガガガガガガガガガ!!

 ボガガガガガガガガガガガ!!

 ズダガガガガガガガガガガ!!

 ギゴガガガガガガガガガガ!!

 バズガガガガガガガガガガ!!


「フンッ!」


 唇が重なる間一髪のところで、数多の火炎弾(ファイヤーマグナム)が的確にインジャン様へと襲い掛かりました。

 しかし、その全てを凄まじい速さでもって手に持つ(ロッド)を振るい、気合いと共に弾いてしまいます。

 正気に戻った私が振り向いた先には、魔界の形相を呈しているお爺さん賢者達。


「待てい!インジャン老!いやさ、この若造! セーラが欲しくば儂等の屍を乗り越えて行け!!」


 ご老人とは思えない怒気を放つお爺さん賢者達に臆する事なく、インジャン様は不敵に応えます


「フッフッフ、お主等ならそう言うと思っとったわ。上等じゃ!不死鳥(フェニックス)すら(ほふ)った大賢者、インジャン・ポリアンナの実力、貴様等に見せてやるわ!!」


 賢者を名乗る方々が臨戦体制を取り、魔力と殺気を体中から発散し出すと、ノックが私の肩へと移動しました。


「ほ~お、勇者パーティーやインジャンめの他にも世の中にはあんな連中がおったのか。こりゃペリーヌ島でだべってるより、ビックリ人間観察した方がよっぽど面白いかも知れんのう」


 いやいや、それどころじゃ御座いませんよ。このままじゃ狂戦士(バーサーカー)達の激突で、私のバースデーパーティーも屋敷もボロボロになってしまいます。

 他のお客様もいらっしゃるのにと思い、戦闘モードに入った賢者様方を止めようとしましたが、そこでまた有り得ない人物が登場したのです。


「インジャン様~♥」


 甘ったるい声が聞こえた方へと振り向くと、そこには確かに見覚えのある人物が。

 笑顔のビッチ姫が此方へと走って来るではありませんか。

 しかも、名前を呼ばれた当の本人は彼女の声に気付いた瞬間、お顔を引きつらせてしまいました。


「おい、貴様等! セーラを掛けた勝負は一旦預ける!」


 そう仰ると、一目散に逃げて行かれました。

 ビッチ姫も私の前を素通りして、ひたすらインジャン様のみを追い掛けて行きます。

 また皆が何が何だか分からない状態に陥っていると、ノックが笑って応えてくれました。


「ハハハ、あの娘、こんな所まで追い掛けて来おったか」

「えっ?ノックは彼女を知ってるの?」

「ああ、インジャンめは我との戦いの後、正装でお前にプロポーズすると言って、一度ポリアンナ帝国へと戻った。その時あの娘が元彼とやらに拐われそうになったところを奴めが助けたのだ。それから一方的に惚れられての」

「インジャン様が彼女を助けたのですか?」

「あの娘は全身をズタ袋に押し込まれ猿轡を噛まされた状態だったのだ。相手が誰だか分かってたら絶対に助けなかったとか言っておったな」


 でしょうね。元々私達の敵だったのだから。

 しかし、ビッチ姫は亡国の魔女と呼ばれる今の私も顔も知っている筈。

 何故私を見て素通り出来たのかしら?と考えていたら、またノックが応えてくれました。


「あの娘、今はコゼットと名乗っておるが元々記憶喪失だったらしいぞ」

「記憶喪失ですって?」

「なんでも、三年前まで存在したランダース王国とかいう国の国境線近く、一人で大火傷を負い気絶していたところを騎士に助けられたらしくてな。記憶喪失もその時負ったのだそうだ。大火傷の方は今見た通り跡形も無くスッカリ全快しておるがの」


 ……まさか本当にあの大爆発から生還していたとは……どれだけ悪運が強いのですか…

 でも彼女の性格から考えると記憶喪失のまま庶民として逞しく生きていく方が幸せなのかも知れませんね。


 元ビッチ姫に追い掛けられて必死に逃げるインジャン様。

 そんな勇者のご子孫でもある大賢者の不様な姿を眺め、皆様が大爆笑なさっています。

 私も思わず笑みが溢れてしまいます。


 本日、二十歳を迎えました。


 ああ、今日も良い天気ですね。






 そうそう、言い忘れてましたが、誰も犠牲にならずに私の呪法から逃れる方法が御座いましたね。


 それは、私を自殺に追い込めば良いだけですよ。


 けど、申し上げましたでしょ。私は(やわ)な性格ではないと。

 相討ち覚悟より難しいと思いますよ。


 フフフ、相思相愛の相討ちなら大歓迎ですが。

最後までお付き合い下さり、誠に有り難う御座います。

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