冒険と世界の終わりの始まり
「なあ、アイリはこの件についてどう思う?」
「わたしは・・・ちょっと匂うと思うな」
昼前のドーナツショップは、早い時間帯でもOLやサラリーマンでほぼ満席となっていた。
今日は歩行者天国のイベントが駅前であるから、それも相まって人が多い気がした。
僕はその混雑を避けるために、敢えて駅から少し歩く店を選んだのに、みんな考えることは一緒のようだった。
店の窓際の席で、最近僕を騒がせている事件について、質問を投げかけた。
「匂うって、ちなみにどんな匂いがするんだ?やっぱり高性能なんだな」
「ちょっと、皮肉を言うなら、もう手助けしないわよ」
「ごめんごめん。怒らないで。俺なりに気になることがあってさ。なんか引っかかるんだよね」
「わたしに言ってくれれば、できる範囲ですぐ情報は出すわよ」
そう、俺たちはいまこの町ので起こっている不思議な事件について、調査を行っている。
調査といっても、職業は探偵ではない。
僕はただのの大学生だ。
趣味と言われてしまうかもしれないが、気になるものは気になる。
しかも、いま追っている事件は、俺が好意を抱いている女の子が関係しているのだから。
「ヨージが気になってる女の子、有美ちゃんよね?彼女の精神面は大丈夫なの?」
「ああ、たぶん大丈夫だと思う。まだ病院にいると思うから、何とも言えないけれど」
「そうよね。一応また通信履歴も見てみるね。・・・特に動きはなそうね。まぁまだ元気にメールとかはできないわよね、しかも病院にいるならなおさらよね」
「心身ともに大丈夫であればいいんだけれど」
「えぇ、そうね。あとは犯人が捕まればもっといいわね」
この町、人口約5万人ほどの中都市で起こった不思議な事件。
女の子ばかりを狙った、連れ去り事件だ。
犯人は今だとして捕まっていない。
いままで、5人の女の子が行方をくらました。
先月の10月の1か月間のみで起こったこの事件は、当然のことながら町を震撼させた。
アリイに協力してもらい連れ去られた女の子たちの情報を割り出した。
僕が調べるとネットサイトにすでにあるものやテレビで放映されたものだったが、年齢層がばらばらで、身体的な共通点はない。
アイリから詳細に調べてもらったが、ヒントは得られなかった。
強いて言うなら、みんな女の子だったということ。
そして、妙なことにだれも誘拐された前後の記憶がないことだった。
誘拐された期間は、五人全員きっちり五日間。
しかも、月曜日から金曜日のカレンダーでいう平日にあたる期間にぴったりと合わせている。
さらにこの事件が謎を呼んだ理由は、彼女たちの失踪後にあった。
ただ、どの子も何事もなかったかのように普通にいつもと変わらずに、ただいまと言って、自宅に帰ってきたという。
どの家族も警察へ捜索願を出したが、警察は「反抗期などによる家出」とみなして、特に大きな動きはなかった。
警察は証拠がないと動けないのだ。
謎を呼ぶ誘拐事件だったが、一旦、公式に警察が事件性がないということで捜査を打ち切る発表をしたのが今朝だった。
警察の約一ヶ月間による捜査にも関わらず、犯人に繋がるヒントが全くなかったこと、犯人の綺麗すぎるまでの証拠を残さない犯行、そして失踪後の記憶喪失、そして突然の捜査打ち切り。
これらを踏まえ、俺は有美ちゃん含め5人の失踪は単なる家出が重なったわけではないと考えている。
確かに可能性としてはありえる話ではあるが、裏で手を引く犯人がいると考え、アイリと共に調査をすることにした。
有美ちゃんとは大学1年生のときに同じ英語のクラスだけだったので、親しい友人とは言えない。
授業のとき、後ろの席から有美ちゃんをななめの角度で見ていただけだった。
それでも僕は恋に落ちるきっかけに遭い、細やかながら彼女を思いしたっている。
それもこの事件が解決するまでと、心に決めているのだけれども。
叶わない恋だとしても、僕が誰かに思いを寄せるなんて100年も1000年も早いと思った。
「ねえヨージ、ちょっとこの事件を調べすぎて疲れたから、充電したいな。朝からがんばりすぎて、もう体力がからっぽだわ。」
「そうだな、そろそろ戻ろうか」
大学で使う参考書やノートが入ったショルダーバッグを肩にかけ、ひとで賑わうドーナツショップを後にし、11月の寒さが増した街に飛び出した。




