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短編集  作者:
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とある地域でのしきたり

本当にあったらしい儀式手順を元に書きました。



「立派なお兄さんだったわね……」


「あいつは勇敢な戦士だったよ。俺達の誇りだ。」


「一族を守ったんだ、すげぇヤツだよ」



そう言って俯く僕に次々と言葉をかける親戚たちは、自分の仕事を見つけては騒がしく葬式の準備に取り掛かり始めた。


兄が二十年そこらの人生で倒した敵の数はたったの2人。そんな微々たる数ではあるが、戦闘不能にした敵の数では一族の中で一番多い。サポートに徹していた為に墓標として建てられる石柱の数は2本だが、それに反比例する名声を受けていた。

敵の攻撃を受ける前に躱し、攻められる前に叩く。手本通りの戦い方で仲間の危機を救い、一族を勝利に導いた。


彼は自慢の兄だ。それは違えようのない事実だ。しかして、その生はあまりに短すぎた。



僕らの一族には一風変わった葬式の儀式(しきたり)がある。

天幕の周りを馬で回り、一周ごとに体のどこかに傷を付けていく。故人が死んだ日に1回。火葬して、埋葬するのは季節が巡ってからで、すぐには埋めない。埋める時にまた1回。

体を傷つけては家族を失った悲しみを身に刻むのだ。傷跡はジクジクと痛み、しばらくはその痛みで亡き人との思い出を思い起こすのだ。


準備が終わり、式が執り行われることになった。

始めは族長が。次に父が。僕の番は最後に近くなった頃に回ってきた。身内ではあるが使い物にならない僕は一族の中総じて地位が低くい。小さい頃に落馬した影響で足を悪くした僕には戦いに赴くことすら難しい。手柄をあげられず、一族のお荷物にはふさわしい仕打ちだろう。


トラウマである馬に乗せられ、一周。手に待った小さな小刀で頬を傷つける。もう一周。傷を抉るようにまた同じところを切った。さらに一周。

頬を伝う涙が血に混じり血涙のような涙を流しながら傷を付けていく。


忘れない、この痛みを忘れるものか。

半身を失った悲しみは、残るはずの傷を見る度に僕を襲うだろう。それでいい。


兄の嫁を下げ渡されるように貰わねばならないなど、この一族は狂っているのかと言いたくなったが、このしきたりだけは好ましい。

可哀想な兄嫁、兄を慕う愚図な弟に貰われ幸せになどなれるはずもない結婚。ああ、なんて不毛な生なのだろう。

こんな惨めな自分にはこの仕打ちで十分だ。




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