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執事なアイドル!【番外編】

番外編最終話です。お付き合いありがとうございました。

 鏡に映った自分の姿に軽く眩暈がする。

 desireの中でも歌を中心に活動している俺にしては珍しく、今日はバラエティの仕事だった。

 こういうのは普通、彰人さんか弘太の仕事だと思うが、どうやら俺じゃないといけないらしい。

 数字が第一のこの世界では、ギャップにより話題性を出させるのもひとつの手だが、どうやらそういうことではないらしい。

「……執事、ですか」

 確かにどちらかといえば彫りの深い麗人寄りの俺の顔立ちに、その衣装は良く似合った。

 それに普段から敬語で話している俺から、執事を連想するのは容易だったのだろう。

 しかし――

(玲奈さんはこういうものを受け入れてくださるでしょうか……)


 今回のバラエティ番組は、執事に扮した俺が案内人として様々な仕事の裏側を紹介するというものだった。

 執事である必要性がわからないが、紹介するのはどれも優雅で大金が動きそうなものばかりだった。

 俺の淡々とした進行が逆に笑いを誘ったのか、後日耳にした数字はなかなかのものだった。

 だがそれよりも俺が心配したことがあったことを忘れた訳ではなかった。


「あっ! 仁、良かったよ」

「良かった……とは?」

「昨日の夜あってた執事のやつ。久しぶりのバラエティだから緊張してるんじゃないかと思ったけど、むしろその緊張してる様子がプラスにとらえられてたね」

 本当にこの人にはかなわないなと思う。

 あの時の俺を見ていた人で、俺が緊張していたことに気付いた人はいなかった。

 なのに彼女はテレビに映った俺を見ただけで緊張していたことを言い当てた。

「……それだけ、ですか?」

「えっ……? うーん。あ、えっと……あのね、その……執事……凄く似合ってたと……思う」

「こういうの、お好きですか……?」

 俺が期待を込めてそう言うと、予想以上に良い反応が返ってきた。

「……す、好きっていうか……なんか、凄くドキドキする……。私、仁相手に何言ってんだろ……」

 好意的に受け取ってもらえるのなら、どんな自分にでもなってみせる。

 俺は躊躇いなく彼女の手を取ると、恭しく頭を下げた。

「――仰せのままに、お嬢様」

「――ッ!?」

 顔を赤らめる想い人に、思わずにやける顔をスマイルで塗り替えて、俺は執事ごっこを続けた。

「どうしました? お嬢様。お顔が赤らんでおりますね。ご気分が優れないようなら、ベッドへお連れしますが……」

「べっ……!?」

 俺の台詞に良からぬことを想像したのか、玲奈さんは先程よりも顔を真っ赤にしてうろたえていた。

「安心してください。俺はお嬢様が望まないことは致しません。だからどうかその絹織物のようにたおやかで美しいお身体を俺に預けて頂けませんか?」

「ちょっ……タンマ! い、一旦落ち着こう」

 目の前の彼女はブンブンと全力で両手を振って俺を引き剥がした。

 舌打ちしたい気持ちをそっと胸中にしまい込み、俺は笑顔で続けた。

「どうしてですか? こういうものがお好きなのでしょう?」

「好き……だけど……。なんていうか、その……良すぎてヤだ……」

 恥かしそうに身をよじり放ったその一言に、俺は身体の中をぞくんと何かが通り抜けるのを感じた。

 ……今ここで手を出すのは人間の恥。

 でも――

「据え膳食わぬは男の恥……ですかね……」

「えっ!? ちょっと! 私、そういう気分じゃ……!」

「お嬢様。仕えるべき相手に手を出す不逞な執事をお許しください……!」

 彼女の唇まであと数センチ……このまま一気に彼らを引き離せると口元を歪ませた時、激しい音と共に部屋の扉が破壊された。


「仁……お前……誰に許可取って玲奈ちゃんに乱暴働いてんだぁ……?」

 普段の猫撫で声よりも一オクターブ以上も低いドスの効いた声に、ゾゾゾっと背筋に悪寒が走る。

 青ざめた顔で声のした方を向くと、額に青筋を立て、眉間に深いシワを作った彰人がボキボキと関節を鳴らしていた。


「……あ……の……その……」

 生き物としての純粋な恐怖が、全身を支配する。

 この人に逆らってはいけないと、身体中が警告している。

 部屋のドアぐらい簡単に破壊できる人間離れした怪力に、どんな智将も出し抜く卓越した頭脳。そして簡単に怒りを爆発させる、キレやすい性格。

 もし気の弱い人間なら、失神なり失禁なりしていたと思う。

 彼の恐ろしさを知らない人ですら、この強烈な怒気に当てられればどうにかなってしまうだろう。

「……ごめんの一言で済むと思うなよ……」

 彼は静かに、しかし有無を言わせない声でそう言うと、怯えて固まったままの玲奈さんを執事さながらにエスコートして、壊れたドアから出て行った。


「……は……ははっ……俺は……一生咬ませ犬ですか……」

 完全に腰が抜けた俺は虚空に向かってそう呟いた。

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