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第二章 capter-1   「シックザール」(4)

 無邪気な男、というのがその少年の第一印象だった。

「順よぉ、実家との仲はどうなんだ?」

「どうもこうもない、ほぼ勘当のままだ」

「親御も心配してると思うぜ? うちの親だって気掛かりにしてたくらいだからな……」

「あんなのは所詮どうにも思ってないさ、私のことなど金儲けの道具くらいにしか思ってないんだ」

「……言うねぇ」

 アロンソという男は心底順を心配しているかのような様子で話をしている。

 その手元には食料として積み込んできた中のトリンカーアーマムのイチゴ味があった。

「それよりもあれだ、アロンソ。お前のほうは生活は大丈夫なのか?」

「ん、俺か? 俺なら大丈夫だぜ、メーカーの、ブレイズクレイドル社とプロ契約してるしな。俺のマジックボードは、あそこ製に変えたんだ。お前も欲しけりゃ新型くれるように取り計らってやるぜ?」

「……ブレイズクレイドルか。給料はどれくらい貰えるんだ?」

「月に60万エルカタルくらいだな。レースやらで勝てばもっと貰えるけど……まぁ安定はしないとは思うさ」

 (60万ッ!?)

 横で聞いていた須賀谷は密かにその言葉に驚きつつも、指折り数える。

 自分が困ってる学費をあっさり払えるこの男……羨ましい。

「お前が負ける心配とは珍しいな」

「まぁ事実安定はしないからよ、怪我でもした日には危ないしな」

「だなぁ……」

 そこまで話したところで、イフットが口を挟んできた。

「アロンソさん」

「ん、なんだい? 嬢ちゃん」

「アロンソさんは何故マジックボードの世界に?」

「……そーだなぁ。役人が嫌なだけかなぁ。生涯年収っていう給料が決まってたらつまらんだろ。もっともっと生きて自分の限界がみたいだけさ。まぁ、額に汗して安月給で働くのが嫌なだけでもあるけど」

(こいつ……男としてもかなりすげぇな……)

 素直に須賀谷は感心しつつも、アロンソに敬意を払っていた……。

 俺とそう変わらないはずなのに、ここまで芯がしっかりしているとは。

 イフットを守る為に、俺も背筋を直さなきゃな。

「さて……まぁそこのダリゼルディスって先生にサインも書いたし、俺はそろそろ出ようと思うが……」

「待て、アロンソ」

「んぁ?」

「最近起きている子供の連れ去り事件について……何か知ってることはないか?」

 順が呼び止め、そう尋ねる。

「……あんなもん調べてんのか?」

「あぁ」

「危険なことはすんなよな。ただ……そうだな……。風体の悪い男が子供を連れ去ってたってのは聞いてるな。流石に詳細までは会社の週刊誌で読んだくらいしか知らないがよ」

「お前の学校に……少し関与していると思われる人物がいるらしい。分かるか?」

「……心当たりのありそうな奴はいるな。確証は持てないが。だが、お前の頼みとあれば俺は俺で情報を集めるように裏で動くぜ?」

「あぁ頼む」

順が頼むと、任せておきなとアロンソはいい顔で笑い、ぽんと順の肩を叩いた。

そしてそのまま立ち上がり、須賀谷達の方を見る。

「従姉妹をよろしく頼むぜ、あんた達。順はぶきっちょだが、悪い子じゃないんだ」

「……おい、人を子供か何かのように言うな」

「お前はプライドが高すぎんだよ。……それじゃあな、縁があったらまた会おう。ブレイズクレイドルに連絡を取ってくれれば無条件で協力するぜ」

 アロンソはトリンカーアーマムの小分けされた袋を幾つか掴むとポケットに押し込み、甲板へと梯子を上り飛んで行った……。

「あばよー!」

「あの菓子、気に入ったんだろうね」

「あぁ、奴はイチゴ味が好きだからな」


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