プロローグ
勇者が王城から姿を消して、ふた月あまり。
王女にかけられていた保存魔法が、限界を迎えていた。
弱々しく淡い光が王女を包んでいる。
今にも消え入りそうな光だ。
一方玉座の間では、王が険しい表情で頭を抱えている。
かつては豪胆で、何事にも動じることのなかった王。
その面影は、今の姿からは想像もつかない。
頬は痩せ、目の下には濃い隈が浮かんでいる。
ふた月にも渡る長い苦悩が、その身を少しずつ蝕んでいたのだった。
「……陛下。ご決断を。」
神妙な面持ちでそう言ったのは、王宮魔術師だ。
王は一縷の望みにかけて、王宮魔術師に王女の身体を保存するよう命じていたのだが、それももう叶いそうにない。
時だけが虚しく過ぎていた。
「大臣をここに。」
「……はっ。」
王宮魔術師は深く頭を下げ、玉座の間を後にした。
ややしばらくして、扉が開く音と共に大臣が姿を現す。
「お呼びでしょうか。」
「……大臣よ、葬儀の準備を頼みたい。長らく待たせて悪かったな。」
「陛下……遂にご決断なさったのですね……分かりました。早急に手配致します。」
そう言って大臣は、玉座の間を後にした。
静かな空間に王が一人。
「なぜ、娘がこんなことに……なぜ、わしだけが生きているのだ……。」
そう呟くと、目元を手で覆い身体を震わせる。
そこにあるのは王ではなく、ただ一人の父親の姿だった。




