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145/171

145.それが君の本音なの?

「……」


 頭の中が、ぼーっとする。

 ここは、どこだろう。雪は止んでいるが、辺りは真っ白だ。

 シベルちゃんは……みんなは、無事だろうか。


『レオさん』

「……シベルちゃん?」


 どこからともなく、突然シベルちゃんが現れた。


『二人で、逃げましょう』


 そう言って、俺の手を引くシベルちゃん。


「逃げるって……どこへ?」

『このまま二人でどこか遠くに逃げて、王子も聖女もやめて……のんびり暮らしましょう』

「え……?」

『私が聖女である以上、私はレオさんだけのものにはなれません』

「……」


 彼女の言葉が俺の胸を打つ。


 そうだ……そうだ、な。確かに、それはそうだ。

 そんなことはわかっている。それが王子である俺と、聖女である君の運命なのだから。


『私は、レオさんと二人きりで、レオさんだけに愛されて、暮らしたいです』

「シベルちゃん……」


 振り向いた彼女が、俺の首に腕を回し、耳元で囁く。

 それが、彼女の本当の望みだったのだろうか?


「俺だって……君と二人で静かに暮らせたら……どれだけいいか」


 彼女が聖女である以上、シベルちゃんが俺だけのものになることは、一生ない。

 それでも、シベルちゃんに一番近い存在は俺だ。彼女が愛しているのは、俺だけだ。

 それで、十分なはずなのに――。


 たまに思う。

 もし俺たちが普通の人間だったなら。なんのしがらみもない静かな町で、平穏に暮らせたのかと。


 ……だが、シベルちゃんのような人を独り占めしたら、バチが当たるだろう。


 彼女は、たとえ聖女ではなくても、多くの人を幸せにできるような人だから。

 それに俺は、もう覚悟を決めている。

 俺はシベルちゃんと一緒に、この国を守っていくと決めた。


『レオさん、私をレオさんだけのものにしてください。聖女はもう嫌です。どうか、私を助けてください』


 彼女の瞳から、涙がこぼれた。

 きゅっと、細い腕が俺の背中に回される。その腕も、身体も、いつもより冷たく、冷え切っている。


 聖女は、もう嫌? 助けて……?


 それが、シベルちゃんの本音なのだろうか。


 いや、違う――。


 冷たい肩に手を置き、俺は彼女の身体を引きはがした。


「……残念だが、シベルちゃんはそんなこと言わない。君は、シベルちゃんではないな」

『私はシベルですよ、レオさん。これが私の本音です……!』

「違う」

『……あなたに、私の本当の気持ちがわかるの――?』

「……!」


 心を貫くように響いた冷たい言葉。

 氷のように冷えた視線。


 俺には、彼女の……聖女の、本当の気持ちなど理解することができないのかもしれない。


「……っ」


 しかし、その直後。シベルちゃんにもらった魔石が光を放った。

 青い光は主に居場所を示すかのように、まっすぐ空に伸びる。


「レオさん!」


 そして、すぐに本物のシベルちゃんが俺を呼んだ。振り向くと、シベルちゃんとヨティ、そしてリックがこちらに向かって走ってきていた。


「レオさん、大丈夫ですか!?」

「殿下!」


 三人とも、無事だったようだ。

 先ほどの彼女は既に消え失せていた。やはりあれは幻だったのだ。


 あれは、シベルちゃんの本音ではない……。


「……平気だ。シベルちゃんも、怪我はない?」

「はい!」

「よかった。……ミルコは?」

「副団長はまだ見つかってないんすよ」

「シベル、さっきの要領で副団長の居場所もわかりそうか?」

「やってみます……!」


 リックの問いに、シベルちゃんが両手を組んで目を閉じた。

 おそらく、ミルコに持たせた魔石を頼りに彼を探す気だ。


 しかし、シベルちゃんが力を使うまでもなく、ヨティが遠くを見て声を上げた。


「あ、いましたよ! お~い、副団長!」


 ヨティが手を振るほうへ視線をやると、ミルコがフリードリヒ殿の肩を組み、こちらに向かってくるのが見えた。


「ミルコ、大丈夫か!?」

「ああ、俺はな。しかし、兄が足を負傷した」

「まぁ、大変……!」


 苦痛に顔を歪めているフリードリヒ殿を見て、シベルちゃんが前に出る。


「今、治しますね! 少しの間我慢していてください」

「……っ」


 そう言うと、シベルちゃんは迷うことなくフリードリヒ殿の足元に手をかざし、祈った。

 一瞬にして、そこが淡い光に覆われる。


「――どうでしょうか?」

「……治った。痛く、ない」

「よかった……!」


 ミルコの肩から腕を離し、自らの足で立つフリードリヒ殿。

 その様子を見て、シベルちゃんは安堵の息をこぼす。


「これが、聖女様の力……」


 半信半疑だったのか、微笑むシベルちゃんに、フリードリヒ殿が驚きを隠せないように小さく呟いた。



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