50話 半端者
「ふぅ……」
隊の仲間達と分かれたイグは、魔物の死骸で作られた山の上に立っていた。数人の魔族の死体も混ざっている。
「一の太刀・静山」
ーーーキィィイッン
「これ、防がれたの久しぶりッスね。 ん? あなた、どこかで……」
襲撃者の剣を押し除ける。
「いや、人違いッスかね。 随分と強そうッスね、僕はアレン・リード。 Sランク冒険者で、強欲の後継者ッス!」
「Sランク、強欲……僕は半魔1番隊隊長、イグ・ウェスト。 何で人間の君が魔族側にいるんだい?」
「半魔の隊長さんかぁ、強いわけだ。 その疑問の答えはシンプル、より勝ち筋の濃い方に賭けただけッスよ」
「そうか……なら、遠慮はいらないね」
アレンの視界からイグが消える。
「……!」
背後から首に向けて振るわれた剣をアレンは剣で受け流し、返り刃で斬り上げる。
半歩下がり、アレンの剣は空を切る。
お互いに飛び退き、距離を置く。
「やれやれ……まるっきり、あの人と同じじゃないッスか。 纏う雰囲気が違うけど、目を閉じながら戦う姿といい、気配を消した必殺の剣術といい、似過ぎてる……この違和感はなんなんスかねぇ。 どちらにせよ、本気でやらなきゃまずそうッスね、四の太刀・蓬莱!」
神速の連突が迫るが、足捌きのみで避けていく。
縫うように迫ったイグの気配が再び消える。
「七の太刀・輪尾」
右足を軸に急速に体を回旋させ、斬撃が放たれる。
イグは体勢を低くし掻い潜るようにして迫る。
「八の太刀・面爪」
獣爪の如く、八つの斬撃が振り下ろされる。
全てを避け切ることは出来ず、複数の斬り傷を残しつつも後退。
「まだ終わりじゃないッスよ! 九の太刀・霞雲」
後退したイグの背後に気配の消えたアレンが現れる。
咄嗟に身を捻るも、間に合わない。
逆袈裟に斬り上げられ、鮮血が舞う。
苦し紛れに蹴りを繰り出すも腕で受け止められ、背負い投げの要領で投げ飛ばされる。
「んー、やっぱり人違いみたいッスね。 あの人はもっと強かったですし」
「はぁ……はぁ……まだ、まだ戦える」
イグの左眼が開き、赤い眼が現れる。
「ーーー大罪剣」
ひび割れた空間から禍々しい大剣を引き抜く。
「それは……あぁ、そうか、そういうことッスか。 あははははは! 最初から全部、何もかも掌の上ってことか、ふざけるなァ!! ーーー大罪爪」
剣を持っていない左手に禍々しい爪が出現する。
黒い斬撃がアレンに迫るが、爪で切り裂く。
「イグさん! いや、ナツキさん! 僕はあなたを殺して先へ行く!」
「……ナツキ? ……っ!?」
アレンから凄絶な威圧感が放たれ、周囲を呑み込む。
聞き覚えの無い名前を聞いて、激しい頭痛に見舞われるが、直ぐに気を取り直してイグは大剣を横薙ぎに振るった。
「三の太刀・朧月」
斬撃を受け流し、滑るように間合いが詰められる。
吸い込まれるように剣が首筋を浅く斬る。
大剣を地面に突き刺し、魔力を破裂させるように放出するとで衝撃を生み、アレンを吹き飛ばす。
「ゲホッ……ゲホッ……無茶苦茶ッスね、自分も巻き込むような技を使うなんて」
「はぁ……はぁ……」
アレンはSランク冒険者、その上、大罪の力まで持ち合わせている。強い、想定より遥かに。僕じゃ駄目なのか……勝てないのか。僕がやられたら、みんなは……。
『弱いな』
「……!」
ハッと気付いて顔を挙げると、真っ白な空間にいた。
「ここは……僕はアレンと戦ってたはず……」
『おい』
声を掛けられ初めて気付いた。そこには、青い右眼が特徴的なイグと瓜二つの青年が立っていた。
『お前、何やってんだよ。 あの程度に苦戦してんじゃねぇよ』
「あの程度!? 憤怒の力を使っても多彩な技に追いつけないんだ……」
『憤怒の力を使った? おいおい、あんな下手くそな戦い方で使ったなんて言うんじゃねぇよ』
「下手くそって……大体、君は何なんだ! 僕と似てるみたいだけど、好き勝手言って!」
『似てる? あぁ……そういうことかよ。 ルドリエの野郎、やってくれたな。 似てるんじゃねぇよ、俺はお前で、お前は俺。 同一人物だっての、まぁ、説明したところで理解出来ねぇよな。 少なくとも、お前より俺の方がお前を知っている、それは確かだ』
「知ってるって……僕の記憶を君が持っているってことなのかい? だったら、それを僕に!」
『それが出来るなら苦労しねぇよ。 イグ、俺と代われ、戦い方ってものを教えてやる』
「代われってそんな、乗っ取るみたいに言われて、良いって言うわけないだろ!?」
『面倒くさい性格だな、お前。 なぁ、イグ……お前は何のために戦ってる?』
「何のために……」
『戦うのにも、強くなるにも、何をするにも理由ってものが存在する。 お前はなぜ、戦う?』
問われたイグの脳裏に半魔の仲間が過ぎる。
「僕は……仲間を守りたい! 守るために強さが必要だ、だから、強くなるし戦うんだ!」
答えを聞いた瓜二つの青年は一瞬だが優しい笑みを浮かべたように見えた。
『なら、死ぬ気でやれ』
「言われなくても!!」
目の前の青年は何かを思い出したように、顔を上げる。
『俺の名前は夏樹。 平田夏樹だ、もう忘れんなよ』
平田夏樹……。
ドクンッと心臓が強く脈を打つと同時に、身体中に力が溢れてくる。
「……それは」
立ち上がったイグの右眼が開かれている。
青い眼がアレンを捕らえる。
「ありがとう、夏樹。 まだ名前しか分からないけど、もう諦めたりしない」




