〜帰路に見える物〜
小一時間悩んだところで、1つわかった事があった。
俺にはチート能力どころか、ラノベでお馴染みの[鑑定]の技能がない。
[忌み子]の詳細を調べようと、考えた結果、転生者バックアップシステムこと、システムさんに頼んでみた。
普通のラノベならば、転生者にいちばん最初に着いてくる技能は、名称が違ったりするが、基本的に[鑑定]の能力を持っている。
そんな謎理論でシステムさんに鑑定技能は入ってる!と踏んだ俺は、頭の中で、(((忌み子を鑑定))繰り返しまくった。
するとしばらくして、あの無機質な声が頭に響く。
《現在、[鑑定]を所持していません》
え?システムさんくっそ無能じゃね?
ステータスを瞼の裏に表示できるだけのスキル?ゴミやん。
肩を落とし、項垂れる。俺TUEEEE展開を期待していたのに、もはやネタ要因レベルの恵まれなさである。
これ以上考えても無駄だし、むなしくなる一方だと感じた俺は、あの人狼が住む小屋に戻ることにした。タオルと着替えた服を持ち、立ち上がり湖を背にして歩く。
5分ぐらい緩やかな上り坂となった、草原を歩いていると面白い物を見つける。
湖に向かってる時は気が付かなかったが、小屋のずっと後ろ、100kmは離れているだろう、森を超えた先にある雪を被った山の中腹に、この距離でも見えるほど、超絶巨大な塔が建っていた。
ここからでは豆粒程度にしか見えないが、実際はおそらく東京スカイツリーの何倍もあるだろう。
あんな建造物を立てられるって事は、ここの世界は文明が結構進んでいるのか?
馬車なんか使っているのに?
俺は首を傾げつつ立ち止まらないように歩く。
帰りは考え事をしていた為か、感覚的に行きより早く小屋に着いた。
目の前には行きにもくぐった、人狼サイズの大きな木製の扉がある。
手を上に伸ばしドアノブを捻る。
木製とはいえ、大きいため重いドアをゆっくり開けると、先程と同じ所、向かい合うように置いてあった椅子に人狼は腰掛け、小さい羽根ペンを器用に持ち、A4ほどの紙に何かを書いていた。
数秒すると俺に気がついたようで、顔を上げ
「おう、帰ってきたか。悪いがこれ書き終わるまで座って待ってく
れ」
そう一言言うまた紙に視線を戻した。
人狼向かいになって置いてある、大きな椅子に近づき、普通には乗れないのでジャンプして座る。
人狼は見た目に反して文系なのか、筆が止まることなくスラスラと何かを書いていた。