〈Epilogue〉
―Epilogue―
その日、何かの気紛れで近所の本屋へと立ち寄った。然したる理由があったわけでも、目的の本があったわけでもない。ただ、本当に何となく、自宅へ帰るまでの足が、気が付いた時にはそちらへと向いていただけなのだ。
当てもなく眺めていた店内で、目に留まったのは新刊でも、好きな作家の作品でもなかった。レジの近くに並べてあった、いくつかの栞。その中に、黒猫のシルエットがあしらわれたシンプルな物を見つけた時、頭を過ったのは、あるクラスメイトの顔だった。
『ジェニイ』という黒猫の物語に、母親との繋がりを見出した少女。何度も自分に手を伸ばしてくれた隣人。思えば、これ程までに関わった他人というのは初めてかもしれない。
さすがに、スーパーの特売の広告を栞代わりに使っているという、生活感に溢れる一面を見た時は驚愕せざるを得なかったが。
長考の末、それをレジに運ぶ。すると店員の女性は何を察したのか、贈り物ですか、と笑い掛けてきた。自身の挙動に、そこまで分かりやすい何かがあったのかと思うと、顔が熱くなる。それを誤魔化すように頷くと、店員は栞に包装を施し始めた。
今度学校で会った時に──そう思いながら、受け取った栞を鞄へと忍ばせる。女性はおろか、誰かに贈り物を渡した経験に乏しい自身が、果たしてどんな言葉と共にこれを渡すべきか。そう考えると、無性にむず痒い感覚に襲われるのだが、それと同時に、穏やかで温かい感情が自身の内にある事も、気付いていた。
第1.5章 紅雨―See you, black cat― 〈了〉




