考慮時間を使い切りました
『考慮時間を使い切りました』
俺の頭の中でオラクルが告げる。
考える時間はもう残されていない。
『十秒……』
俺は胡座を止めて、正座に座り直した。
姿勢を正して、顔を上げ、相手の表情を読む。
こちらを睨みつける鋭い視線。
相手も真剣だ。
今の局面は体感でかなり形勢が悪い。
起死回生の一手が必要だ。
俺の手が震えた。
『二十秒……』
俺はそっと金を前に置く。
攻撃の手ではない。
いわゆる紛れの手。
日和って金に目が眩み、取ってくれるなら万々歳。
すぐさまこちらが有利になるわけではない。
それでも難解な終盤戦をかき乱すことができれば、勝つ可能性はゼロでなくなる。
彼女が『ふ』と笑った。
ほぼノータイムで金を取る。
正直、驚いた。
けれど、それならばまだチャンスはある。
幸いこちらにはまだ金駒が沢山ある。
俺は、銀を放ち畳み掛ける。
それを見て、彼女がすぐさま反応した。
「ふざけんなよ」
彼女が、取った金を俺の頭に打ち付けた。
評価値の善悪を超えた厳しい一手だ。
もはや勝負は決した。
「まいりました」
俺は潔く頭を下げた。
俺の頭の中で、感想戦が始まる。
あの夜に誘いに一瞬の気の迷い。
あれが敗着だった。
俺は深く後悔した。
「なにそれ! わたしはどうするのか聞いているのよ」
妻がテーブルをドンと叩いた。
『六十秒、一、二……』
オラクルは秒読みを止めない。




