第20話 お店広くしたいなあ。
朝。
神崎コンビニ。
遠矢はモップを掛けながら考えていた。
「……。」
「昨日のお客様。」
「ベッドごと来店してたな。」
モップを止める。
「通路。」
「ちょっと狭かったかも。」
真剣に店内を見渡す。
「もう少し広かったら。」
「ベッドでも買い物しやすいのに。」
もちろん。
普通の店長はそんなことは考えない。
遠矢は腕を組む。
「お客様が快適なお店。」
「目指したいな。」
その時だった。
ウィーン……
「いらっしゃいませ!」
入ってきたのは四人組。
「おぉ……。」
「すごい店だ。」
「パンがいっぱい。」
「いい匂い。」
遠矢は笑顔で頭を下げる。
「初めてのお客様ですね。」
「はい。」
「ご来店ありがとうございます。」
四人は店内を歩き回る。
「これ何?」
「パンです。」
「これは?」
「お弁当です。」
「これは?」
「歯ブラシです。」
「歯も磨けるのか。」
「はい。」
「便利だ。」
勇者たちは感動していた。
遠矢も嬉しかった。
「説明すると喜んでくれるなぁ。」
しばらくすると。
ぐぅぅぅ……
四人のお腹が鳴る。
遠矢は優しく微笑んだ。
「お腹空いてます?」
「実は。」
「昨日からほとんど食べてなくて。」
「そうでしたか。」
遠矢はホットスナックケースを開ける。
「今日は。」
「アメリカンドッグ。」
「ハッシュポテト。」
「コロッケ。」
「春巻き。」
「揚げたてですよ。」
四人の目が輝いた。
「全部ください!」
「かしこまりました。」
⸻
数十分後。
テーブルいっぱいの商品。
「美味い……。」
「これ何個でも食べられる。」
「このパンも美味しい。」
「デザートまである!」
遠矢は嬉しそうだった。
「お口に合って良かったです。」
勇者が満腹そうにお腹をさする。
「……。」
「苦しい。」
「食べ過ぎた。」
「もう動けない。」
「私も。」
遠矢は心配そうに聞く。
「大丈夫ですか?」
「はい。」
「少し休めば。」
「元気になります。」
「今日は。」
「何かご予定が?」
勇者はハッとした。
「……。」
「魔王。」
「……。」
「倒しに来た。」
全員固まる。
「……。」
「……。」
「……。」
「今日は無理だな。」
「無理ですね。」
「帰ろう。」
「明日にしよう。」
「そうしましょう。」
遠矢は笑顔だった。
「またのお越しをお待ちしております。」
「また来ます!」
勇者一行は元気よく帰っていった。
もちろん。
魔王城は道路を一本渡った向かい側にある。
しかし。
勇者一行は、
魔王城を一度も見ることなく帰っていった。
⸻
店内は再び静かになる。
遠矢は店内を見渡した。
「……。」
「やっぱり。」
「狭いな。」
「ベッドのお客様もいたし。」
「団体のお客様も来たし。」
「もう少し広かったら。」
「みんなゆっくり買い物できるのに。」
そう呟くと、
天井へ向かって声を掛けた。
「ルミナー。」
シーン。
「ルミナー。」
ポンッ。
白い煙と共に、
女神ルミナが現れた。
「ふぁぁぁ……。」
「なにぃ……。」
「まだ朝なんだけどぉ……。」
髪はぼさぼさ。
片目しか開いていない。
「どうしました?」
「お店。」
「もう少し広くしたいです。」
「うん。」
「いいよー。」
「あ。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ。」
「おやすみぃ……。」
パチン。
指を鳴らした。
ゴゴゴゴゴゴ……
大地が揺れる。
「え?」
遠矢が外を見る。
コンビニが。
広がる。
広がる。
広がる。
パン売り場。
精肉。
鮮魚。
青果。
惣菜。
日用品。
衣料品。
二階まで完成した。
遠矢は口を開けたまま固まる。
「……。」
「……。」
ルミナは寝ぼけたまま、
小さく呟いた。
「スーパーくらいなら……。」
「いいよねぇ……。」
そのまま光となって消えた。
遠矢は新しくなった建物を見上げる。
「……。」
「広くは。」
「なった。」
しかし、広すぎた…




