7 健やかであれ
学園 地上
地下施設出口付近
ゴゴゴゴゴ……
地面が震える。
芝生が
ゆっくり沈む。
地下が
空洞になっている。
地下の機関が
崩壊している。
「うわ、ほんとに潰れてる」
「ワタクシのキャノン」
「ちょっと強すぎました」
「ちょっとじゃない」
「地下構造、完全消滅です」
その時。
遠くから
サイレン。
教師たちと
警備員が走ってくる。
その先頭に
一人の男。
年配の教師。
新渡戸だ。
「全員下がれ!」
教師たちが
陥没した地面を見る。
言葉を失う。
藤堂も
静かに立っている。
新渡戸は
ゆっくり言う。
「地下機関は、完全に機能停止だ」
ざわめき。
周囲に
学生たちが集まってくる。
学生A
「なにが起きたんだ?」
学生B
「地下が崩れた?」
地下機関が崩壊。
研究施設は壊滅。
学生たちは混乱している。
番号で呼ばれ続けていた子たちが
廊下に立ち尽くしている。
その前に立つのが
新渡戸。
埃だらけのスーツ。
いつもの穏やかな教師の顔。
学生が聞く。
「……俺たち」
「どうなるんですか」
少し沈黙。
遠くで警報が鳴っている。
新渡戸は
学生たちを見渡す。
番号札。
首輪。
識別タグ。
兵器の識別。
ゆっくり言う。
「番号は」
少し間。
「もういらない」
学生たちがざわめく。
新渡戸は続ける。
「君たちは兵器じゃない」
「管理対象でもない」
そして
ゆっくり言う。
「学生だ」
その瞬間
空気が変わる。
「そして」
新渡戸は少し笑う。
「教師っていうのはな、学生を守る仕事だ」
一歩前に出る。
「だから」
「今日から君たちは」
「保護対象だ」
沈黙。
誰かが泣き出す。
誰かが座り込む。
ずっと張り詰めていたものが
一気にほどける。
そこにマスター
瓦礫の向こうから歩いてくる。
「お前がやったのか」
「え」
「マスター?」
クロードは
少し笑う。
マスターは
困った顔をする。
「いや」
地下を見る。
「たまたまだ」
「またか」
新渡戸。
「……遅いぞ」
「寄り道してたんだ」
藤堂も少し離れた場所にいる。
三人がそろう。
学園創立前夜と同じ構図。
マスターは
学生たちを見る。
番号札。
怯えた目。
泣いている子。
少しだけ
教師の顔で笑う。
静かに言う。
「大丈夫」
少し間。
「健やかであれ」
その言葉が
やわらかく
世界に刻まれる。
学生たちのざわめきが、ふっと静まる。
胸の奥のざらつきが、少し軽くなる。
未来が、ほんの少し明るく見える。
学生の誰かが言う。
「……今」
「なんか」
「楽になった」
学生の胸に広がる安堵。
その瞬間。
ツー……
マスターの鼻から血。
一滴。
二滴。
「ほら!!」
慌ててハンカチを当てる。
「だから言ったじゃん!」
「他人に使うと負荷かかるんだって!」
シエル 脈を取る。
「しかも今回は」
学生たちを見る。
「対象が数百人」
「無茶しすぎ!!」
そのまま
倒れる。
学生たちが慌てる。
新渡戸がため息をつく。
「……まったく」
少し笑う。
「創立者は」
「最後までこんなもんだ」
そして学生たちを見る。
「安心しろ」
「この人は簡単には死なない」
少し笑う。
「…教師だからな」
マスターが倒れたあと。
学生の一人が言う。
「先生」
新渡戸。
「なんだ」
「……名前」
「俺たち」
「名前で呼んでください」
新渡戸
少し笑う。
「当たり前だ」
そして言う。
「点呼を取る」
「名前でな」
一瞬。
誰も動かない。
学生たちが
顔を見合わせる。
それから
一人が
おそるおそる手を上げる。
「……青木」
声が震える。
別の学生。
「佐藤」
もう一人。
「宮本」
名前が
ぽつり
ぽつりと
広がっていく。
誰も
番号を呼ばない。
ファニー。
「……」
小さく笑う。
「いいじゃん」
「ああっもうティッシュ無い!」
「水も必要です」
二人は
慌てて走っていく。
藤堂は
少し離れた場所から
その光景を見ていた。
名前を呼ばれる学生。
泣き出す学生。
首から
番号タグを外す学生。
カラン。
小さな音が
地面に落ちる。
藤堂は
それを見る。
番号ではなく
名前を取り戻す音。
そして
瓦礫の横で
鼻血を出している男を見る。
小さく言う。
「……狂人め」
だがその口元は
ほんの少しだけ
緩んでいた。
「私は正しかった」
「管理しなければ」
「世界は壊れる」
マスターは
静かに笑う。
「うん」
少し間。
「でも」
「壊れるのは世界じゃなくて」
一拍。
「人の心なんだよ」
藤堂は
マスターを見る。
長い沈黙。
そして
「……直人」
羨望
嫉妬
敗北
全部混ざった声。
藤堂は
背を向ける。
歩き出す。
教師たちも
警備員も
学生たちも
自然と
道を開ける。
その列の中。
一人の学生が
手の中の番号タグを見る。
少し迷って
それを外す。
カラン。
地面に落ちる。
藤堂は
その音に
一瞬だけ視線を落とす。
何も言わない。
そのまま
歩き続ける。
その時。
後ろから声。
「……待ってください」
藤堂 止まる。
振り返らない。
学生が一人 立っている。
手には、まだ外していない
番号タグ。
学生は少し迷ってから言う。
「俺たち」
「管理されてなかったら」
「……暴走してましたか」
沈黙。
風が吹く。
藤堂は 少しだけ目を閉じる。
それから言う。
「可能性は高い」
ざわめき。
でも藤堂は続ける。
「だが」
「それを止めるのが」
「教師の仕事だ」
少しだけ振り返る。
新渡戸を見る。
そして学生を見る。
「……だから」
「私は」
「間違えた」
藤堂は歩き出す。
もう振り返らない。
学生が持ってる
番号タグ。
藤堂が去ったあと
その学生が
それを外す。
カラン。
小さな音が
芝生に消えた。
その時
風が吹く。
地面の番号タグが
少し揺れた。
マスター「あっはははは。鼻血とまんなーい」
ファニー「無茶するから!」
シエル「やり過ぎです」
新渡戸「…変わらないな」
マスター「よせやい、照れるじゃないか」
藤堂「……相変わらず馬鹿だな」




