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観測者は感情を知らない【フルサイズ】  作者: 白鐘サウザーいちご味
最終章 観測者は感情を知らない
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11-1 糸はもう張られている

本作は今回より小説タイトルを『観測者は感情を知らない』に変更します。


■街・朝


朝の光が柔らかく注ぐ。

通勤の足音。パン屋の扉。遠くの信号音。

全部、いつも通り。


違うのは、一つだけ。


パリッとしたスーツに身を包んだサラリーマン。自販機脇のベンチに腰掛けたまま、目を閉じ動かない。


「……寝てるのか?」


通行人が怪訝に思い肩に触れるが、反応はない。


呼吸はある。

ただ、起きない。



■別の場所


コンビニのレジの前。

店員が、立ったまま目を閉じている。


「……すみません?」


返事はない。

商品を持ったまま、止まっている。

ピッ、という音だけが遅れて鳴る。



■さらに別の場所


交差点は青信号。人が渡る。


その中に、一人。

立ち止まったまま。


眠っている。



■境界堂・昼前


窓の外。救急車の音が、少しだけ多い。


ファニーが腕を組む。


「今日救急車多くない?」


シエルはタブレットを見ている。


「報告件数、増加中です」

「共通点は?」

「全員、眠っている。外傷なし。脳波は安定」

「ただ起きない?」

「ええ。起きる理由を失ったように見えます」


空気が、少しだけ冷える。


カーテンが揺れる。

マスターはソファに静かに座っている。


耳のカフスが淡く光る。


「……あと一週間かぁ」


軽い声。

でも、視線は窓の外。

救急車の音が遠くでまた一つ。


「これ、静かすぎない?」


『うん、来てるね』


窓ガラスにほんの一瞬だけ、細い線。


“糸”。


すぐに消える。


マスターは目を細める。


「……あの子かな」


『あの子だろうね』


その声だけが、少し低い。


街のどこかでまた一人、静かに眠りに落ちる。

観測は、すでに始まっている。



■境界堂・昼


勢いよくドアが開き、新渡戸が入ってくる。顔色が悪い。


「……手を貸してほしい」

「珍しくストレートだ」

「状況が逼迫しているのですか」


新渡戸は一呼吸置いてから、口を開く。


「学園生が、起きない」


空気が、変わる。


「最初は一人だった。次の日、三人。今朝で――」


言葉が止まる。


「……二十七人」

「増え方おかしくない!?」

「原因は?」

「学園の教員が総出で探っているが、まだ判明していない。だが、眠っているのは“異能持ち”だけだ」


沈黙。

マスターは窓の外を見たまま。


「うん。選んでるねぇ」

「……心当たりがあるのか?」


少しだけ笑う。


「あるような、ないような」


その曖昧さが、逆に“確信”に見える。


「……それから、眠っているだけじゃない。夢を見ている」

「なんでわかるの?」

「……全員、同じことを言うからな『定義する』って」

「一致、ですか」

「それだけじゃない。一人、戻ってきた」


空気が張る。


「そいつは言った。白い場所で、糸に触れた、と」


「……ああ。それ、同じだねぇ。確認した方が早そうだ」



■学園・医務室前


廊下は静かすぎる。

昼なのに、足音が吸われる。


扉が半分だけ開いている。

中はベッドが並ぶ。

眠る生徒たち。穏やかな呼吸。

一人が、かすかに口を動かす。


「……てい、ぎ……する……」


ファニーが肩を強ばらせる。


「今の、聞いた?」


シエルも頷く。


「一致しています。複数確認」


その奥。

窓際にクロードが立っている。

カノンはしゃがみ込み、床に手を当てている。

何かを“聴いている”姿勢。


「……来ました」


顔を上げる。


「これは、グラウンドの方からですね!」

「“来ました”ってなにが!?」


クロードは振り向かない。

低く。


「遅い」


マスターは廊下側から一歩入る。

視線だけ、外へ。


「……呼んでるね」


風が、窓を鳴らす。

――ちりん。


シエルの指が止まる。


「……今の音は」


カノンは即座に否定。


「校内に該当する発生源はありません」

「行くぞ」



■学園・グラウンド手前


空が、少し低い。色が薄い。音が、遠い。

砂があるはずの地面は、踏むとわずかに沈む。


「……やわらかい?なんで?」


靴底に、細い感触。

糸。

見上げるが何もない。

でも、空気に線が走っている。


見えないはずの“何か”が、光を歪める。


「局所的に位相がずれていますね!」

「固定点が必要です。でなければ全域に拡張する」


クロードは前へ出る。足を止めない。


「ここで止める」


右手を上げ何もない空間を、掴む。


ぎ、と音がする。

存在しないはずの張力。


掌に、赤が滲む。


「捕まえた」


一瞬、世界が息を止める。


グラウンド中央。影が、濃くなる。

歪んだ円。そこから、細い糸が下ではなく“上から”落ちる。


「……逆じゃない?」

「方向概念が反転しています」


マスターはゆっくり前へ。


「……同じだ」


誰にも聞かせない声。


「白の、外縁」


カノンが振り向く。


「マスターさん心当たりが?」


微笑む。

でも目は笑っていない。


「昔の話だよ」


風が止まる。

糸が揺れる。

まるで、こちらの返答を待つように。


どくん。


円がもう一度脈打った。


「来るぞ」


糸が、一斉に張る。

空間が、縫い合わされる。


「まずい、これ広がる!」

「全員、外周に散開。単一化を拒否します」

「共振準備、三秒!」


マスターは中央を見る。

“呼ばれている”場所。

ほんの一瞬。

耳のカフスが、微かに明滅する。


「……あと一週間なのにねぇ」


軽い声。

でも、足は止まらない。一歩踏み出す。


「しょうがないか」



糸が、反応する。

――観測が、こちらを見た。





マスター「わぁー!ついに最終章だよー。僕たちはどうなるのか!果たして五体満足で帰れるのか!」

ファニー「待って!いきなり物騒なこと言わないで!?」

シエル「実際、最大級の怪異です」

クロード「五体満足は保証できん」

ファニー「保証しないでぇぇぇ!!」

カノン「安心してください!修理なら得意です!」

シエル「人を家電扱いしないでください」

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