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【旧作】これから世界を救う話をしよう!  作者: 朱坂ノクチルカ
Ⅱ.碧い竜の都<改稿予定>
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ep.25 夢見る碧い竜と明日の神話

奇跡なんてそう簡単に起きちゃくれない。

 そりゃ、甘いこと言ってるってわかってるさ。年端の行かない子供が駄々をこねてるようなものだ。けれどもこの世界の理は止められない。時間の歩みを止めることはできたとしても、戻すことはできない。だから、こうするしかない。彼女が人間として認識できるうちに。二つの意思が拮抗しているうちに。どちらでもない道に掬い上げてしまうほかない。もしも彼女が完全に向こう側(・・・・)に渡ってしまえば、かつて魔女がそうしたように暴力的な手段も追加する必要が出てくる。こんな不安定な力でどうやって正真正銘本物の真祖を力でねじ伏せろというのだろう。


「……レオ」


 異形となりゆく彼女を見下ろし、セージは唇を噛んだ。

 どんな言葉を紡げば彼女に届くのだろう。

 どうしたらきみは神に背いてくれるのだろう。


「どうしたらいいかわかんないよね」という彼女の声は転じてあっけらかんとしていた。それは諦念か、自棄か、自分に言い聞かせているようで、あるいはもうとっくに彼女は人間(こちら)側にいないのか。どんな感情にしたって、碧い世界にひとつ融けては同化していく。


「セージ。だいたいそんなものだよ。私たち、どれだけ決意を重ねたって、それは迷いを重ねることと同じなんだと思う。そうやって曖昧で複雑な意思は蓄積されていく。こんな世界(・・・・・)を作り上げもする。嫌な世界だよね。人は人と分かたれた。人の意思はエレシドを通じて魔法を象った。人が姿を変えた異種族(アリウス)の意思は憎悪に集約されて異端魔力(ファナティカ)を司った。可能性の結末。いずれたどり着く終着点だ」

「可能性――って?」


 顔を上げた彼女の碧い瞳の輝きを見た。神秘と清浄の碧は静かに瞬いて、ゆっくりと首を振った。


「私はこれ以上きみに教えることはできない掟だし、これは理由の半分だから」


 私はわがままなんだよ、と彼女は笑う。


「だからこんなに救われないの。――ねえ? 私、何もできなかった。女の子なのに、パニエをはいて街に友達と繰り出してみたりとか、ちょっと拗ねたふりして仲たがいすることもなかった。いけないことして噂になることもなかったし、白い目で見られることもなかった。夜にさらわれることもなければ、最後まで処女のままだった」

「……は?」

「もう夢見ることしかできないのなら――ううん、夢見ることさえできなくなるのなら、私は全部壊してしまいたいと思ったんだよ」

「そ――そんなのって」


 あんまりじゃないか、と言う前に彼女は首を傾げて微笑んだ。頬に浮かんだ宝石のような碧鱗ちかちか瞬いていた。


「私たちはとても救い難いから」


 サファイアの色をした竜の爪がセージの頬をなぞる。


「そうするほかないんだよ。だから選ばれたの。すべては神の(まにま)に。……きみは違うのかな」

「……おれは」


 知らない。知るわけない。どこまでが神様の御随意かなんて知ったこっちゃない。セージが知っているのは神に挑戦状を叩きつけた魔女の企みだけだ。けれど、魔女が示してくれたのはここまでだ。君に託そう。魔女はそう言い残した。託す。任せる。ならば、ここからはもう過去の繰り返しじゃない。

 セージは行き場を失くしてさまよっていた両手で彼女の肩を掴んだ。かなり急な行動を取ったせいで、彼女は目をぱちくりさせてこちら見つめている。


「おれもわがままを言おうと思う」


 正直、格好よくはないだろう。


「――今のおれじゃレオを救うことはできない」

「うん。だからあきらめ」

「だから!」


 だから? と聞き返す彼女の怪訝そうな顔は、ああ、そうだ、猫かぶりのライラの冗談を真に受けたときの顔と同じだった。


「……ごめん! 待っててください!」


 その彼女の顔はかつてない呆然とした表情へ遷り変っていた。


「待つ」

「うん」

「……待つ?」

「…………うん」


 とてもヒーローだなんて名乗れそうにないな、とセージは髪をぐしゃぐしゃに掻きまわして目を逸らした。それでも言うしかない。彼女に届くだろう言葉を。

 きっと一人で患い続けてきたエレオノール・バルデラスに届く言葉を。


「おれがレオのわがままを叶えられるようにする。絶対に。だから、おれがきみを助けられるって納得できるようになるまで大人しくっていうか――その――何もしないでいてほしい……みたいな……?」

「みたいな……?」

「あ、いや――何もしないでほしい!」

「……地上(ここ)にいる限りは侵攻を止める気はないよ。海神竜(ティアマト)はそういうふうにできてるから。セスカルは特別だった。私に同じ自己犠牲を求めている? 都で聖女様だったみたいに?」


 おそるおそる頷いた。彼女が碧い燐光を舞い散らせて反論に口を開くより先に、セージは言葉を続けた。


「きみがセスカルと違うってことはよくわかってる! 寂しいと思う、心細いと思う、おれのこと信じられるかどうかっていえばぶっちゃけ胡散臭いって言われても否定はしない! でも絶対にきみを助けられるようになる! 神様が相手でも元からそのつもりだし……そりゃ時間はかかると思うけど、絶対だ! 約束する! おれがきみを助ける! 人間も異種族(アリウス)も関係ない世界になって、なんかこう……搾取とかない世界になってすごく平和になるし……そういう世界にするって、この世界を救うって、おれはもう決めてる! そしたらレオの望みも叶う! だからそれまで、そうしたらきみを迎えに行くから」

「でも、きっと私、セージを恨むよ。もし私がその提案を受け入れたのなら、セージの意思はきっと私を海の底に縛り付ける。誰にも見えないところできみを呪いもすると思う。――そうしたら私は、みんなに愛された綺麗なエレオノールじゃいられない」

「恨んだって良いし呪ったって良い……! きみは――」


 都の聖女様としてあがめられていたきみを、こんなふうに言っていいのかはわからないけれど。


「ただの、ひとりの女の子じゃないか……!」


 見開かれた彼女の瞳が潤んだのを見た気がした。気がしただけだ。


 まるで神話のはじまりのような、碧い嵐だった。


 光と風と水飛沫が体を打ち据えた。刹那の間に碧い光に解かれた彼女の輪郭。方々に散らばったかと思うと一つの形に収束し始める様子を爆風に吹き飛ばされながら見た。再構成される彼女の輪郭は先刻までそこにいた碧竜よりもさらに巨大なそれだった。


『そうか、きみは――』


 声だけを残して、彼女は世界から失われていく。


『ありがとう。待ってるよ。きっときみも忘れてしまうのだろうけど。もしもきみが神に抗うことができたなら、どうか、思い出して、私を迎えにきてね』

らしい結末にできてよかったです。次の章に入る前にもう1話ありまして、そちらで本章は完結となります。感想とか評価とかいいので誤字報告あったらどんどんください。誤字王の朱坂を救って・・・

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